シティ・フットボール・クラブのお手本のような移籍戦略
推しのクラブにビッグスポンサーがついた!でも果たして上手くいくのだろうか。そんな時に参考になるのがマンチェスターシティです。マンチェスターシティと言えば、短期間でプレミアリーグのビッククラブと化したお手本のような存在です。某エバートンのように多くのクラブが資金を費やしたものの、その後に財務のバランスを崩してビッグクラブ化に失敗する中、彼らの成功を移籍戦略から振り返りつつ、何が優れていたのかポイントを抽出してみました。
結論から言うと、①先行投資→②ピンポイントでビッグネーム獲得→➂売却でも収益計上、のステップを踏んでいくことが成功のカギだったと考えます。早速、振り返っていきましょう。
いつもの通り、各重要ニュースにはリンクを埋めています。皆様の鑑賞の参考になれば幸いです。
①先行投資:補強!また補強!
マンチェスターシティが大きく変わる契機となったのは、2008年にアブダビ首長国連邦(UAE)の王族ナヒヤーン家の傘下である投資グループ「アブダビ・ユナイテッド・グループ(ADUG)」による買収です。当時はタイの元首相であったタクシン氏が保有していましたが、彼は軍のクーデターにより資産を凍結されてしまったため、ADUGへの売却を余儀なくされたのです。
マンチェスターシティを買収したADUGの移籍戦略は極めて単純です。タイトルを獲得するまでひたすら先行投資、つまり大型補強を継続したのです。どのくらい凄まじかったのかと言うと、ざっくり今までの6倍の補強費をブっこみました。
それまで有名な補強と言えばアネルカとファウラーぐらいで、1000~2000万ユーロの予算で細々と回していたのが、一気に億単位となり、リーグ制覇までに平均1.4億ユーロを移籍市場へ注ぎ込んだのです。
ADUG登場時点では、クラブにブランドはなく、ただの「金満クラブ」というイメージしかありません。当然、超一級の選手は来ないため、何とか札束で一級選手を数多く獲得します。
マンチェスターシティがFA杯を制して、久々のタイトルを獲得した10-11シーズンまでの主な獲得選手です。有名なのがロビーニョ、テベス、バロテッリ。サッカー能力は一級品ですが、素行の悪さも一級品の訳あり選手が主力でした。彼らはピッチで相応の結果を残しましたが、監督とぶつかりチームマネジメントを困難にする要因になりました。サッカーも素行も素晴らしい超一流はまだ来なかったのです。(その後化けるダビド・シルバのような選手はいました)
②ピンポイントでビッグネーム獲得
先行投資が実り、タイトルが獲得できるようになると「金満クラブ」を脱し「強豪クラブ」へブランドが格上げされます。
マンチェスターシティは2010-11シーズンに、ストーク・シティを破ってFAカップを制しました。翌11-12シーズンはプレミアリーグを制し、強豪クラブとして名乗りを上げれるようになったのです。
タイトルを獲れると、超一級の選手も来るようになってきます。しかし、調子に乗ってポンポンと買ってはいけません。欧州はUEFAが定めたフィナンシャル・フェアプレーという制度が2009年から導入され、3シーズンの合計収支は均衡させなければいけないのです。
マンチェスターシティは08/09から3シーズン立て続けに大型補強を行い、それをUAE企業のスポンサー料で補うということをしていたのですが、遂に2014年にUEFAからスポンサー料が適正値を上回り過ぎているとの指摘を受けて、敢え無くペナルティを受けてしまいました。
マンチェスターシティは、UEFAからの指摘を受ける前から一級の選手を多数獲得する戦略から超一級をピンポイントで獲得する戦略に移行しました。
08/09 - 10/11は1000万ユーロを超える移籍金がかかる選手を6~7名毎年獲得していました。そこからしばらくは、2~3名と高額移籍の人数を半分以下に絞っています。その代わり、絶対に必要!と判断すれば超高額の移籍金を一人の選手に払うようになりました。
有名なのが以下の例です。
11/12:”クン”・アグエロ 4,000万ユーロ、FW
12/13:ハビ・ガルシア 2,020万ユーロ、MF
13/14:フェルナンジーニョ 4,000万ユーロ、MF
14/15:エリアカン・マンガラ 4,500万ユーロ、CB
➂ブランド確立、売却でも収益
強豪クラブとして数シーズン過ごすと、「ビッククラブ」へ更にイメージアップします。超一流選手に選んでもらいやすくなる一方、イメージを守るために戦力アップを常に図らなければいけないプレッシャーも巨大化します。
戦力アップと財政のバランスを取るために、必要なことは何でしょうか?そう「高値で売却」することです。
その点、マンチェスターシティが幸運だったのは、グアルディオラ監督という選手をフィットさせる名手中の名手を招へいできたことです。彼の手腕の凄さは下図の売却額を見れば一目瞭然(いちもくりょうぜん)です。
彼が来る前の売却額は4000万ユーロ前後。彼が来てからは、平均8600万ユーロ。選手の売却額を2倍にすることに成功したのです。売却がスムーズに行けば、獲得の予算も上がるのは世の常。マンチェスターシティがバランスを崩さずに今日に至っている理由です。
好事例は22-23シーズンでしょう。このシーズン、マンチェスターシティは大人気銘柄のハーランドと、カルバン・フィリップスを合計1億ユーロ以上使って獲得します。一方で、スターリングとジェズスの2選手を合計1億ユーロ以上で売却に成功します。獲得と売却がほぼつり合い、このシーズンの移籍金の収支は少額ながら黒字を計上しました。
余剰戦力と必要戦力を決めたい監督と、売り時と買い時を決めるフロント(主に”チキ”ベギリスタイン)がしっかり擦りあってないとこうはいきません。これがうまくいかないと、マンチェスターの別のチームのようになってしまいます。
シティの再現に挑戦するニューカッスル
シティの成功をかなり研究していると思われるのが、ニューカッスルを買収したサウジアラビアのPIF(公的投資基金)です。
ニューカッスルはシティと異なり、元々「強豪クラブ」だったため、PIFは最初の「金満クラブ」のステージを飛ばすことができました。そして、PIFは焦らず「ピンポイントの補強」を行っています。
ただ、シティよりやや大きめに2~3人の超大型補強を行っている格好です。収支は均衡させるためには、恐らく来シーズンあたりから超大型補強は1~2人に絞ってくると考えます。
22/23シーズン
アレクサンダー・イサク 7,000万ユーロ
ゴードン 4,560万ユーロ
スヴェン・ボトマン 3,700万ユーロ
23/24シーズン
トナーリ 6,400万ユーロ
ハービー・バーンズ 4,400万ユーロ
ティノ・リブラメント 3,720万ユーロ
さて、クラブの成功方程式として「シティ方式」が確立するかは、ニューカッスル次第と言えるでしょう。同クラブが数シーズン内にタイトルを獲得し、優勝争いにコンスタントに絡んでくるようであれば、方式が成り立っていると言えます。さてはて。
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