見出し画像

リーガMXの台風の目 クルス・アスル


スポーツの結果は予想ができない。

日本の天皇杯で毎年のように下剋上が起こるように、いくら格下相手でも強いチームが負けることはあり得るし、
カタールW杯で日本がスペイン、ドイツ相手にグループステージ1位通過したように、順位予想を当てることも難しい。
監督や選手のビッグネームを揃えても、100%勝てるとは限らない。

スポーツ界には「絶対」という概念が存在しないのだ。

だからスポーツは面白いのだと、スポーツファンなら一度は思ったことがあるだろう。

こういった例は、メキシコ国内のサッカー最高峰リーグ、リーガMXも多く見られる。
過去10年(2013/14年シーズン後期〜2023/24シーズン前期まで)計20回優勝チャンスがある中で、優勝経験があるチームは9つ。連覇を経験したのは、レオンとアトラスしかない。
イングランドプレミアリーグが長い歴史の中で「ビッグ6」が存在していることからも、リーガMXは、歴代チャンピオンチームが多いという特徴が分かるだろう。

2024年1月に開幕して1ヶ月以上が経ったリーガMXの2024クラウスーラでは、大方の予想を覆すような台風の目となりつつあるチームが出てきた。

チームを変えたアルゼンチン人指揮官

細かいパスを繋ぎ、ゴールに多くの選手が関わる。
今メキシコで一番きれいなパスサッカーを魅せているといっても過言ではない。
そのクラブは、メキシコシティを本拠地とするクルス・アスルだ。メキシコで長い歴史を持つクラブの1つであるが、2021年以降は優勝争いから遠ざかっている。

そのクラブが今、9節を終えてリーグ首位。
5連勝をするなど、”本命”とされていたモンテレイやクラブ・アメリカらを抑えている。
今季の主役になっているのだ。

好調の要因の1つが、新監督マルティン・アンセルミの存在だ。

プロ経験のない38歳のアルゼンチン人は、サッカー指導者だけでなく、サッカージャーナリストでもあったという経歴を持つ。
31歳であった2016年に、アルゼンチンのユースチームのコーチとして招聘され、指導者人生をスタート。年を重ねるごとに、カテゴリーも昇格し、アシスタントコーチから監督になるまでになった。
アルゼンチンだけでなく、チリやエクアドルでも指揮を執り、好成績を残した。
特に、エクアドルでは1部チームを3位(2022年シーズン途中から指揮)2位(2023年)に導くなど、その手腕を評価され、2023年12月にクルス・アスルに就任が決まった。

彼にとって、今回のクルス・アスルは初めてのメキシコのクラブとなる。そのため、”desconocido”(見知らぬ人) と現地メディアに表現されたようにメキシコ国内での知名度は低かった。
クラブは「見知らぬ指導者」のキャリアと南米での実績を評価し、監督の座を託した。

マルティンのコメントには、度々「チーム力」について言及することがある。
就任当初も、クラブの歴史に触れながら、

"Quiero rasaltar la palabra equipo, porque creo que es lo más importante, construir el equipo porque así fue el nacimiento de Cruz Azul."

「私は”チーム”という言葉を強調したい。これは、クルス・アスルのクラブの誕生のように、チームを構築する上で最も重要な要素だと考えている。」

https://www.espn.com.mx/futbol/mexico/nota/_/id/12892724/cruz-azul-nuevo-director-tecnico-martin-anselmi-liga-mx

と語った。この言葉の通り、ゲームスタイルもチーム力を示したものとなっている。
9試合を終え、13得点(リーグ7位タイ)6失点(リーグ3位)とリーグ全体を見ても、突出しているとは言い難い。しかし、チーム全体の完成度は高い。

例えば、4節 ティファナ戦の先制点のシーン。
最終ラインからサイド、シャドーに渡りクロスを合わせるというシーンだった。最終ラインからわずか4本のパスでフィニッシュ。相手の幅を広げ、それによってできた間でボールを受け、クロスはニアとファーに分かれ完璧なポジション取り。サッカーのお手本のようなプレーが詰まった得点となった。
このような最終ラインから相手にボールに触れさせず、ゴールに結びつけるプレーは、マルティンが監督になって多く見られる。
ここまでの9試合、得点を挙げれば負けなし。非常に手堅い戦術がチームをまとめ、安定さに繋がっているのだ。

ティファナ戦のゴールシーン(6分40秒から) ↓

マルティン監督

強さの要因はスタジアム

2024クラウス―ラが開幕して変わったのは、監督だけではない。

ホームスタジアムも変わった。変わったというより、帰ってきたというのが正しい表現だ。
クルス・アスルが本拠地とする「エスタディオ・シウダ―ド・デ・ロス・デポルテス(スポーツシティスタジアム)」は、2020年コロナウイルスの蔓延を機に、改修工事に入った。クルス・アスルは、このスタジアムを1996年からホームスタジアムとして利用していた。
改修工事中は、クラブ・アメリカと同じエスタディオ・アステカを使用。
昨年12月に、2024年から改修工事を終え、再びホームスタジアムと使用することが発表された。

ホームスタジアムが戻ってきたことは、クラブの大きな原動力となった。
リーガMX公式Xは、"¡Regresan a casa!”「彼らがホームに帰ってくる!」と投稿。

改修工事がされてから、現在の名称「エスタディオ・シウダ―ド・デ・ロス・デポルテス」であるが、以前から、「エスタディオ・アスル」の愛称で親しまれている。ファンは、今でもその呼び名を変えてないと言う。
その理由として、とあるファンは

“La gente lo sigue llamando Estadio Azul, porque esa es la verdadera Casa que nos identifica aunque no hemos ganado ningún título ahí”
「ファンが『エスタディオ・アスル』と呼び続ける理由は、そこでタイトルこそ獲得していないが、その名称こそが真のホームであり、自分たちを象徴しているからだ。」

と語っていた。
クラブにとって、“la verdadera casa”(真のホーム)に戻ってきたことの意味合いは大きい。

開幕のパチューカ戦のチケットは完売だった。
本来のホームスタジアムで闘うことで、選手だけでなく、サポーターもこれまで以上に熱くなり、選手を後押しする。
ここまでホーム戦は5試合中4勝。
次節からは、チチャリートが復帰したチーバスや上位を争う強敵モンテレイをホームで待ち構える。クルス・アスルのタイトル獲得に向けてキーポイントとなるかもしれない。

エスタディオ・アスル

新指揮官を迎え、青に染まった満員の ”新” スタジアムが味方にし、リーグに旋風を巻き起こす。メキシコの台風の目に注目だ。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?