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「ABC殺人事件」;出来るだけ他者に伝わるように書く感想文⑧

「ABC殺人事件」(小説/1936年)
 アガサ・クリスティーが書くポアロシリーズのなかでも傑作とされる作品のひとつ。僕は1987年に初版が刊行された田村隆一訳のもので読んだ。同じハヤカワ文庫でも、2003年に刊行された堀内静子訳ものもあり、そちらの方が、本のデザインとして万人受けしそうなものである。

 後世の作品でも「いろは」の順番や、「あいうえお」の順番に殺人事件が起こるものは大いにあるが、「ABC殺人」のアイデアと「ミッシリングテーマ」のマイルストーンと言える作品だと思う。「ABC殺人」とはアルファベットの順で、犠牲者の名前が連続する作品や、地名がそ連続する作品がそれに該当する。また、「ミッシリングテーマ」とは連続殺人事件において共通項がそれぞれにあることを特徴とする。

 そんな本作品はめっちゃ面白い!!

 語りはおもにヘイスティングスという大尉。彼がポアロにつき従いながら記述し、場面々々では会話調で話が進んでいく。ホームズ形式を踏襲していると言える。ネタバレしないために内容はもう何も言わない。


 とにかく読者の目線の動かせ方が面白い。犯人捜しなのか、アリバイ崩しなのか。
 少なくとも僕はクリスティの思惑通りこの本を読まさせられた。ポアロの悠然とした態度には腹を立てさせられたし、次々と浮かんだ証拠とアリバイに首を傾げさせられる。


 ABCというものに踊らされ、手のひらで転がされ、最後にはそっぽを向かれる作品。俯瞰してこの作品を鑑賞すると何とも綺麗な結末は待っている。犯人探しが転換する中盤と、アリバイ崩しの怒涛のラストをぜひとも見て欲しい。

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