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【J1第34節ジュビロ磐田対ヴィッセル神戸マッチレビュー】~来季の課題と期待~

前節札幌戦のレビューで「ジュビロの強みは安定したビルドアップ」と無意識のうちに書きました。ここ数節のジュビロは、相手を動かしながら起点を作り、相手ゴールへと迫ることができていたからです。しかし、強みというには少し語弊がありました。なぜなら、ここ数節の相手はジュビロのボール保持を許容してくれたからです。

ここで1つ疑問が浮かびます。
”ビルドアップが安定しない場合どうするのか”
最終節はこの問いを投げかけられた試合であり、明確な答えは提示できませんでした。しかし、J2の前に現状の課題を認識できたという意味では、とても有意義な試合だったと思います。

この試合の中では課題だけでなく、収穫もありました。今回は来季の課題と期待に焦点を当ててまとめてみます。

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〇スタメン

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神戸は3421。引退を発表しているビジャはリーグ戦最後の試合(天皇杯が残っている)。現地観戦者が羨ましい!
ジュビロは442。山本選手に代えてエベシリオ選手。エベは今季3試合目、リーグ戦初先発。

【ジュビロ磐田ボール非保持時~後手後手の対応~】

冒頭で述べたように、この試合は安定したビルドアップができませんでした。その要因は大きく分けて2つ挙げられます。

①神戸のビルドアップに対応できなかった(守備面)
②いつもの攻撃の起点が潰された(攻撃面)

まずは ①について。
システムが異なるチーム同士の対戦時、個人的に真っ先に注目するのはシステムの噛み合わせです。神戸はボール保持時になると、左右非対称な配置に。

右サイドは、シャドーのポドルスキ選手が担当。左サイドはWBの酒井選手が担当し、シャドーの古橋選手は内側へ。サンペール選手と山口選手は横並びではなく、サンペール選手がアンカー、山口選手と古橋選手の2人がインサイドハーフのような形になりました(下図)。

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これにより、神戸は最終ラインと中盤の2か所で数的優位を獲得(上図、まるで囲った部分)。それに対し、ジュビロの守り方はブロック形成。

この日のキーマンであったサンペール選手に対しては、2トップが意識はするものの、数的不利な状況では自由にパス供給を許す。かといって中盤は山口選手や古橋選手を見なければならず、どうするのかという状況に。

数的優位を利用した神戸のビルドアップについて詳細に。

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上図
①ハーフDF(3バックの両脇CB)のオマリ選手に昌也がアプローチ
②オマリ選手から酒井選手へパス。
③対面する大貴は縦をケア

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上図
④サンペール選手に横パス(ジュビロの2トップはケアできず)
⑤ビジャ選手がサイドに流れることで藤田選手を引っ張る。
⑥空いたスペースに走りこむ山口選手にスルーパス

⑥の場面はサンペール選手に注意が向き、走りこむ山口選手に対して対応できず。ジュビロは中盤が数的不利のため、神戸の誰かが浮いてしまう。またこの際、逆サイドにポドルスキ選手が張っており、宮崎選手はケアせざるを得ない状況を強いられ山口選手に対応できず。

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サンペール選手は気になるが、対応しようとすると中盤の選手(主に山口選手)が浮くシーンが発生(上図)。前半は特に、サンペール選手を起点として山口選手に走り込まれ決定機を作られるシーンがいくつか(44分など)。

かといって、守備ラインを下げると、

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上図
①サイドに張っていたポドルスキ選手が内側へ。それにより、対面する宮崎選手も中央へ。
②空いた右サイドに西選手が上がり、サンペール選手からのサイドチェンジ。

憎たらしい。

じゃあ虎太朗がスライドすればいいじゃん、とすると

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数的優位を活かして逆サイドへ。本当に憎たらしい(褒めてます)。
いいように動かされて空いたスペースを利用する連続。ジュビロは常に後手に回り、ボールの奪いどころを見つけられず。ロングボールを蹴る際もジュビロの左サイド(身長が高くない宮崎サイド)を狙う徹底ぶり。憎たらしい(褒めてます)。

下図は神戸の前半開始15分間のパスソナーです。
パスソナーについてはレビュー下のリンクから。

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灰色:ショートパス、青色:ロングパス、赤色:ミスパス

①センターサークル付近でボールを保持し、両サイドと中央まんべんなく使っている。
②ミスパスはほとんどが前方向。ボール保持のための保持ではなく、ゴールを取るためのボール保持である。
③左から2列目の中央付近(サンペール選手)や右サイド(ポドルスキ選手)のサイドチェンジで局面を変える。


【ジュビロボール保持時~起点を潰されたジュビロ~】

15分を過ぎるとジュビロがボールを持てる時間も増えるが、いつも通りとはいかず。理由は、これまでジュビロの攻撃の起点となっていたスペースを消されたから。

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ジュビロの起点は大きく分けて2つ(上図)。
①SHが内側に入ってハーフスペース
②SHが内側に入ったことで空けたサイドの裏

そのため、ジュビロのSHは内側でもプレー可能な選手が重宝され、かつ2トップはフィジカルの強い海外選手が起用されていると考えています(それだけではないですが)。

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この試合、ボール非保持時の神戸はシャドーの選手が中盤に下がり5-4-1。特徴的だったのは4のサイド(古橋選手とポドルスキ選手)が内側に絞り、サイドはWBの選手が専任すること。

これにより、ジュビロは起点①のハーフスペースに蓋をされ利用できず(上図)。

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ハーフスペースが使えず、サイドに逃げてもそこにはWBの鋭いアプローチ。それにより、起点②のサイド裏もなかなか使うことができませんでした。

36分には、ジュビロゴール近くで山口選手がボールを奪い、パスを受けたポドルスキ選手が左足一閃。めっちゃいいコース。ほれぼれしました。

ボールを受ける前に力也は首を振っており、山口選手が来ていることはおそらく把握していたと思います。たしかにその段階ではそこまで距離が近くなく、トラップで逃げ切れると判断したのでしょうが、一瞬で距離を詰めてボールを奪いきるのはさすがの一言。

ジュビロが来季も安定したビルドアップを強みとするなら、このような失点は起こりうることなのでチームとして我慢する姿勢が求められそうです。
去年あたりはマリノスも危なっかしかった記憶があるのですが、それもはるか遠い昔。。。

前半をまとめると、起点をつぶされボールを保持できず。相手にボールが渡れば奪いどころがないという状況に。ジュビロの強みである安定したビルドアップができず完全に神戸ペースで前半終了。自分たちの強みを発揮できない状況で、どのように対処していくかという課題を突き付けられた前半でした。

【後半~前半の修正と修正に対応された際~】

上述したように、攻守両面で課題を突き付けられた前半。どのように修正を施し対応するのかが注目の後半立ち上がり(修正してくれるだろうという期待が持てるだけで幸せを感じてしまう)。後半開始とともにジュビロは藤川選手に代えて荒木選手を投入。

交代の主な理由は守備強度を高めることでしょう。ジュビロは後半から、相手のビルドアップ時の対応を変更。

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守備面の大きな変更点は2点。
①ハーフDF(3バックの両脇CB)にSHが対応。
②サンペール選手に対し、中盤の選手(主にエベシリオ)がマーク

①については、SHに呼応するようにSBが相手のWB(上図、西選手)、シャドーにCBが対応し、逃げ道を封鎖。この1連の守りはとてもよかった!

下図は後半開始15分間の神戸のパスソナーです。

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灰色:ショートパス、青色:ロングパス、赤色:ミスパス

①自陣付近でのパスが多い。加えて、ゴールキーパー方向へのパス多い。
②縦方向(上下)のパスが多く(特に左サイド)、ビルドアップを阻害できている

ただフェルマーレンやイニエスタがいたらエベシリオの後ろのスペースをがんがん使われそうなので、出場していなくてよかったとしみじみ思いました。というか、ここにフェルマーレンやイニエスタが入るかもしれないのは反則過ぎる。。。

サンペール選手もマークされ逃げ場に困る神戸。
51分。相手陣内でのパスミスを拾ったアダイウトンが左足一閃。
ゴラッソだし、アダイウトンの左足だし、衝撃過ぎて笑ってしまいました。ごめんなさい(笑)。

同点の勢いそのままに、ジュビロは神戸のビルドアップを阻害し面白いように敵陣でボールを回収。徐々にペースはジュビロへ。しかしシュートシーンは迎えるものの、追加点が取れないジュビロ。

68分。神戸はオマリ選手に代えて小川選手を投入。システムを3421から442へ変更。ジュビロと同システムに。
システム変更により、神戸はシステムの噛み合わせ上の数的優位を活かすことはできなくなりましたが、ミラーゲーム(システムの噛み合わせが同じ)ということで、ここから試合は攻守の入れ替わりが増加。

神戸の方がインテンシティ含め選手の質で上回る(質的優位)ことに加え(下図)、後半の途中からジュビロの前線が疲労しプレスがかからなくなる(これまでの試合の傾向)こともあり、試合は再び神戸ペースに。
後半のインテンシティ低下も来季の課題になりそうです。

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75分、78分。神戸に立て続けにゴールを決められ勝負あり。

自分たちの強みを発揮できない状況でどのように対処していくかという課題と、ハーフタイムにおける守備の再整備の経験という収穫を得た神戸戦。後半で見せた修正を経験として蓄え、前半のうちに自分たちで修正できるようになればと思うとわくわくします!(前半で修正するとハーフタイムに対処されるというデメリットもありますが)

ただし、後半の修正は相手のビルドアップを阻害することでトランジションベースで自分たちの時間を作ったに過ぎず、ビルドアップを阻害されたときにどうするかの回答を示したわけではありません。神戸戦を参考に、ジュビロのビルドアップ阻害を試みるチームが増えそうな気がするので、そこをどう乗り越えるか。乗り越えなければJ1昇格、ならびに昇格後の上位進出は困難だと思うので注目したいです。

その点で活躍が期待できそうなのが、この試合のもう1つの収穫であるエベシリオ。

【期待~来季の攻撃の鍵を握るかもしれないエベシリオ~】

4試合連続で力也と康裕のコンビだった中盤でしたが、神戸戦の力也の相方は、今季リーグ戦初先発のエベシリオ。前節名古屋戦は途中出場しましたが、持ち味を発揮できず(この段階ではそもそも何が特徴なのか知らなかった)。

しかし神戸戦では、彼の持ち味が随所に見られました。それはビルドアップ時に相手を剥がせることと、効果的な縦パスです。

エベシリオ選手はビルドアップ時、パスを受けるとターンをして前を向こうとする場面が多かった印象です。落ち着いてパスを回すことを選択することが多い康裕や力也とは異なるタイプだと思います。動きにキレがあれば振り切れそうなシーンもあったので、もう少し絞れてたら期待できそう。。。と思ってしまいました。

また、ボールに絡むことを好む選手だという印象も受けました。

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上図は、神戸戦のエベシリオのスタッツですが、タッチ数106回はチームダントツ。チーム2位が力也の63回なので2倍近くボールに関与していることが分かります。両チーム合わせてもサンペール選手の112回に次ぐ2位でした。
力也や康裕を静のイメージとするならば、エベリシオは動よりのイメージです。

もう1つの特徴として挙げた効果的な縦パス。

下図は、神戸戦のエベシリオと力也、名古屋戦の康裕の方向別パス本数とその割合です。割合に注目するとエベシリオの前方向への割合がとても高いことが分かります。試合を通してもそこにパスを通すんだ!というシーンが何度もありました。

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話を戻しますが、ビルドアップを阻害され自分たちのペースを作れなかった神戸戦。しかし、エベシリオのパフォーマンスは今後同じようにビルドアップを阻害された際の解決策として機能するのではないかと思いました。また、力也や康裕とも特徴が異なり、中盤の構成に厚みをもたらす存在になるのではないでしょうか。

~終わりに~

最終節ということで、来季のことを踏まえてまとめてみました。
来季は1年でのJ1復帰を目標としていますが、昇格後を考えるならば結果面だけではなく内容面でも評価しなければなりません。その際の参考になれば幸いです。

フベロさんの監督就任をきっかけに、今季途中から書き始めたレビューも無事に最終節を迎えることができました。いつもご覧いただいている皆様ありがとうございました。来季も時間の取れる限り、書けたらいいなと思っておりますのでよろしければご覧ください。
*レビュー以外について、オフシーズンも不定期で投稿予定です。企画等の投稿テーマを募集中です!

データ参考:
SofaScore https://www.sofascore.com/tournament/football/japan/jleague/196
Football LAB https://www.football-lab.jp/
SPAIA https://spaia.jp/
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