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#vol.9 日本という国を理解する5冊の名著

 主に大学生時代に読んだ本をまとめておこうと思う。
 日本という不思議な国に生まれた以上、日本という国を理解しておくことは必要だとなんか感じて大学3-4年生にかけて読み漁った記憶がある。
 というわけで今回も気になった本はぜひ書店でお買い求めくださいませ。

⒈ 日本の歴史をよみなおす-網野善彦

 日本の歴史を雑観するならこの一冊からはじめるのがおすすめ!
 歴史が大の苦手だったぽすたも楽しく読み切ることができた。
 日本という国を「文字・貨幣・天皇」など世の中の人々を動かす要素を切り口に語られ、なぜその形に至っているのかを網野さんなりに分析してくれているのだ。

 鎌倉時代までの人びとは、文字にたいしてある畏敬の感情をもっていたと思うので、それが文字そのものの美しさにつながっていたのだと考えられますが、そうした意識はなお生きていたとしても、文字を使う人にとって、それはきわめて実用的なものになってきた。
 そこにこうした変化がおこったのだといえると思いますが、村や町ができていくことと、このような文字の普及、その実用化とは深いかかわりがある。
女性と平仮名ーp.38
 天皇の称号が確定したとき、天皇は貴族をはじめすべての人民に、姓と氏名をあたえる立場に立つことになるので、天武が「八色の姓」を定めて、これを氏にあらためてあたえ、序列を定めたことはよく知られています。
「日本」という国号の歴史ーp.189

 日本にいまも残り続ける、文字や天皇が当時どんな役割をしていたのか、社会を動かす要素としての立ち位置を概観することができる良冊だと思います。

⒉ 逝きし世の面影-渡辺京二

 日本人の知らない日本の特徴を異邦人の目を通して概観できる一冊。
 日本で生きる上での作法や立ち居振る舞いの教科書にもなりうるのでは?と感じる一冊だと思う。
 少し分厚いので、肩の力を抜いて読むのがおすすめ!滅んだ古い日本文明の在りし日の姿を偲ぶには、私たちは異邦人の証言に頼らねばならない。なぜなら、私たちの祖先があまりにも当然のこととして記述しなかったこと、いや記述以前に自覚すらしなかった自国の文明の特質が、文化人類学の定石通り、異邦人によって記録されているからである。

日本人が落ち着いた色の衣服を好む事実は、すべての外国人観察者が共通に認めたことである。しかも、それを節倹や贅沢の禁止の結果だと考えたものは、彼らのうちに誰ひとりいない。それを趣味の洗練とみなした。
ある文明の幻影-p.45

 つまり開国初期〜明治期にかけて来日した外国人の日本に対する見え方は「洗練された」「清潔さ」「丁寧さ」といった印象だったことが事細かに記載されている。

 松岡正剛さんも指摘しているように、”日本が編集の国”という側面が海外からの文化を日本独自に洗練させ、独自の文化として生活様式に入れ込んでいるという豊かさを感じずにはいられない。

⒊ 日本問答-田中優子・松岡正剛

 日本という国を対話形式で紐解いてくれるとても読みやすい一冊。
 そんな視点もあるのかと常に驚きに満ちており、知識欲を掻き立てられる。
 松岡正剛さんの読み解く世界観がとても好きで、多くの著書を読んでいるのだけど、この本は特に読みやすくおすすめ。
 何冊か読んでいると、松岡正剛の思考を自分の中にインストールできるようになってくるので、ぜひいろんな視点で物事を捉えていきたいみたいな人も読んでみるとよいかなと思います。

 日本は領土が小さくて、つねに乏しい資源を生かすしくみが必要な国です。お米はごはんになるだけでなく餅や団子になり、藁は米俵にもしめ縄にもなる。(中略)デュアルでリバースな方法が出やすかったんでしょうね。「木と紙の国」であることが「ものづくり」の共通基盤になってきたわけです。
普遍に向かわない価値観-p.31
 「分」。身分とか本分、分をわきまえるというときの「分」、それから分際とか分限の「分」。日本社会は「分」をちゃんともっていた。(中略)武士が権力を握ってからも、天皇もそのままありつづけます。天皇と武士の関係はヒエラルキー構造じゃないから、武士たちも王朝をなくしたいとか革命したいとかは思わない。武士が天皇になるという発想は、そもそも将軍家にはないんです。将軍は天皇にさぶらう者という構造だけ、いつまでもつづいていく。
ヒエラルキーにならない社会-p.112

⒋ 日本人の美意識-ドナルド・キーン

 外国人の眼を通して、日本文学や日本の文化が語られる名著。
 おそらく、日本について学ぼうという時には必読書なのではないかな。
 西洋社会と比較しつつも、日本文学が独自の成り立ちを果たした要因などを社会的考察などを踏まえながら鋭く切り込んでいる。こんな発見もあるのかと読むたびに学びがある一冊。

 日本の詩歌に圧倒的によく歌われる主題と言えば、桜の花と秋の紅葉とであろう。(中略)美しいもののほろび易さは、見るものの涙をさそわずにはおかない。前にも見たように、ほろびは、美の必要な条件になったのだ。
平安時代の女性的感性-p.49
 17世紀のルネサンスにおける日本の統治者は、世俗の秩序に対する危険思想としてキリスト教を禁じ、また迫害した。そしてその代償であるかのように、儒教を奨励したのだ。なぜなら儒学は、それぞれの人間が、社会における自分の分をわきまえることを教えるからである。(中略)17世紀の日本は、厳格極まりない、封建国家の道を歩み出したのである。長い内戦の後に来た平和を享受しながら、国は繁栄し、社会秩序は、立派に保持されていた。しかし西洋的な意味における個人主義だけは、どんなことがあっても許されなかったのだ。
日本文学における個性と型-p.76

⒌ 菊と刀-ベネティクト

 卒論を書く時にとても参考にした一冊(卒論の内容もいつかどこかで触れたい)。
 第二次世界大戦中、日本人の気質や行動を研究した文化人類学者のベネティクトが書いた超名著。
 日本人の心理や行動を鋭く分析しており、日本人の私たちにとってもとても多くの発見がある。とても面白いのでぜひお手に取ってみていただけると嬉しいです!

 本書の研究課題は序文で説明される。(ここからもう引き込まれる、、。)

 日本人の戦争のやり方そのものを、軍事問題ではなく文化的な問題として取り上げる必要があった。平時と同様に戦時においても、日本人の行動は独特である。日本人は日本人なりのやり方で戦争に取り組んだ。
第1章 研究課題-p.19
 日本は戦争の大義をほかの観点から見ていた。つまり、各国が絶対的な主権を持っている限り、世界の無秩序は一掃されない。日本は国際的な上下関係を確立するために戦う必要がある。(中略)日本では、階層というものにこのような高い価値を置いていた。
第2章 戦時下の日本人-p.45

 先ほどまで読んできた本と繋がりが見えてきてとても楽しいのではないかな。
 現代社会でも部活の上下関係や会社内でも階層があることで、ある意味秩序が保たれている。
 そういう見方を日本人はするし、そこに鋭く切り込んでいるのが新しい。

 「天皇」「応分の場」「恩」「恥」このあたりのキーワードから洞察が繰り広げられる。例えば「恥」で一箇所引用しておこう。

 日本の生活においては、恥が最高の地位を占めている。恥を深刻に受け止めるあらゆる種族や民族について当てはまるのだが、恥が最高の場を占めているということはとりもなおさず、だれもが自分のおこないに対する世評を注視するということである。世間からどのような判定が下されるのか、それを思い描くだけでも、他人の判定が自分の行動の指針となる。
第10章 徳目と徳目の板ばさみ-p.356

 現代の日本人もどきっとする内容なのではないだろうか。
 日本という国は常に世界から見て、独特な社会だし、その国を構成する日本人への関心が高い。
 その反面、私たち日本人はそれが常であり、疑問を持たぬからこそ、日本という国の不思議な成り立ちや風土に疑問を持たないのだが、一度関心を持ってしまうと沼ってしまうくらい深い領域なので、ぜひ興味を持った方は紹介した5冊読んでみてくださいませ。

それでは〜。

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