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【PickUpMatch】#002.ベガルタ仙台vs.川崎フロンターレ

 東日本大震災10年プロジェクトと位置付けられたこの試合。2011年4月23日震災によるリーグ戦中断明けに行われた最初の試合が仙台対川崎だった。その時から両クラブの関係は続いている。
 フロンターレもクラブとして陸前高田を訪問したり、被災地の小学生たちを等々力に招いたりとクラブをあげて復興支援に取り組んできた。
 そんな背景もあり、節目の2021年は注目された一戦になっているのだ。今年はコロナウイルスにより、9,500人という収容人数の上限を設けた中で行われたが、ベガルタサポーターがフロンターレの横断幕を掲げるなどJリーグならではの歴史や文化が根付きはじめていると感じさせられた。

 さて、試合の位置付けや意味合いはここまで。実際ピッチに立てば長丁場リーグ戦の重要な試合のひとつである。もちろん互いに容赦はしない。これは勝敗をかけた戦いなのだ。

Topic①:王者の試合運び

 前半立ち上がりから戦前の予想通りボールを握ると開始12分はやくも先制ゴールを奪う。ワイドに開いた田中碧のセンタリングから今季初スタメンの小林悠がゴール。
 続く25分には、遠野が移籍後リーグ戦初ゴールを挙げ、一気に追加点。その後も立て続けにゴールを決め、前半で試合を決める4得点を奪った。

 単にボールを保持するだけでなく、高い位置でボールを奪い返すインテンシティとどのプレイヤーが出てもクオリティが大きく下がらないフロンターレの層の厚さがそこにはあった。
 中盤の3枚が前線に顔を出すだけでなく、きちんと中盤でボールを回収、奪い切り安定感をもたらす。また、センターバック2人も横並びになりすぎず簡単には裏を取らせない。確立したチームの土台は簡単には崩れず、それが結果として前線の選手たちが自由に動き回る余裕を作るのだ。

 前線の3枚も今シーズン初スタメン組。左から長谷川、小林、遠野だ。組み合わせも公式戦ではやったことないはずなのに阿吽が合うというのはチームとして成熟度が増している証であり、充実したトレーニングができているのであろう。

Topic②:MOMは圧巻のプレーを魅せた田中碧

 この選手の成長には度肝を抜かれる。毎試合毎試合成長し続けているのがわかり、サポーターの1人として目を見開いてしまう。
 よく言われる言葉を使えば、「いろんなところに顔を出す」選手であり、何人ピッチ上にいるんだと思わせるくらい機動力がある。

 フロンターレ下部組織出身で叩き込まれた足元の技術は、ピッチを動き回っても決して精度が落ちることはない。中盤で潤滑油となりつつ、攻撃が一度停滞したと思えば自身がボールを前に運んで局面を変えてしまう。
 長谷部誠の浦和レッズ時代を思い出させつつ、ゲームを読む力の非凡さを兼ね備えたプレイヤーは、今後確実に日本を代表するプレイヤーになるだろう。
※あえてファンが増えそうな写真を載せておく。

 特筆すべきプレーの時間を下記にまとめておく。ぜひ関係者の皆様ご査収を。

・前半20分
 山根がサイドではめられ、ボールを失うと見た瞬間、田中碧は一歩二歩右に動く。これがのちに効いた。対面する相手にボールが渡ると中へのパスコースを切りタテへ仕掛けさせるとすぐさま体を入れボールを回収した。見事。

・前半44分
 セットプレーの流れから、相手のカウンターに転じるシーン。仙台の横パスが緩いとなれば迷わずボールにプレスに行き、ファールなしで奪い返してしまう。

・前半47分
 極め付けはこのシーン、前半終了間際。シミッチがボールサイドに流れてしまったため中央にスペースが空いてしまった。でも、ここに戻す走力と危機察知能力が田中碧にはある。
 キャプテンマークを巻いたインテリオールのクレバーな守備だった。

Topic③:遠野大弥の勢いと旗手怜央の台頭

 まず遠野大弥選手。ゼロックス杯で決勝点をアシストしたのは記憶に新しいが、スピードだけでなく正確なコントロールと両足遜色なくキックができ、ラストパスのセンスも高い。
 今季初スタメンを飾った今節、相手ディフェンダーの間(中間ポジション)を取り続け、相手守備網のマークを引きつけるとこぼれ球を正確なコントロールショットで初得点を陥れた。
 まさに精力的にピッチを動き回り、右サイドバックの山根選手との関係も◎。家長とは違う川崎フロンターレの新たなオプションを見せられた気分だ。個人的なイメージでは、よりドリブルで切り裂くプレーをするのかなと思いきや、周りとの連携が抜群にうまい。
 ここにさらに一人で局面を打開し得点を奪ってしまう力強さが加われば先発奪取も現実味を帯びるし、代表入りさえ見えてくるのではないだろうか。フロンターレの下部組織出身の三好とも違うイケメンウイングが今後も注目である。

 旗手怜央は昨シーズンと比べ一皮剥けた印象。DAZNの中継の際にも紹介されていたが、旗手自身は自分がサイドバックだとは思っていないと言っていた。
 まさに僕もそれが正しいと思っていて、単にスタートポジションがサイドバックと呼ばれる位置なだけ。プレーが流れれば枠に収まらずプレーしていた。
 頭の発想を切り替えるとよくわかる。特にフロンターレは中盤を逆三角形にした4-3-3の布陣を敷く。つまり、頂点を変えれば4-3-3の位置どりは変わるのだ。

 もう少し詳細に記載する。仮に今節のスタメンで考えてみたい。頂点を小林悠と置いたとき、右ウイングに遠野大弥、右サイドバックは山根、センターバックは山村と車屋ということになる。つまり、旗手の位置は左サイドバックだ。
 でも、頂点を長谷川竜也と置いたらどうだろうか。小林悠が右ウイング、遠野大弥がシャドーポジションになり、後ろはその分左へとスライドしていく。このとき、旗手の位置は左ウイングや左のシャドーポジションということになるのだ。
 時間帯やプレーの流れに応じて自然にフロンターレは位置を工夫する。そして、それが攻撃に厚みを生み、旗手のシュートチャンスを演出するのだ。この戦い方であるならば必ずしも左サイドバックが左利きである必要はないし、むしろ右利きであることが武器になる。
 例えば51分のシーンなんかはまさに関わり方が特徴的なシーン。困った田中碧をサポートするためにすすっと寄って局面を変えてしまった。
 現に旗手はこの試合チーム2位となる3本のシュートを放っているし、後半38分には得点まで決めた。この選手の輝きが増せば増すほど新たなサイドバックの可能性を日本サッカー界に示すきっかけになるに違いない。

 いやー、それにしてもフロンターレ強し、、。
それでは。

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