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FIFA規則違反の制裁について情報公開すべきと考える理由

 補強禁止というJリーグで前代未聞の制裁を受けているジュビロ磐田。更にはJ2降格により有力選手を引き抜かれてシーズンを戦えるスカッドが確保できるかも不透明でしたが、若干の放出はあったものの主力選手のプロテクトに成功。J2を戦える陣容は整いました。

 間もなく新体制発表会を経て2023シーズンがスタートする磐田ですが、その前に済ませておくべき事があると考えています。それは、FIFA規則違反の制裁に関する情報公開です。この記事では、対外的な説明が必要と考える理由について述べていきます。

FIFAの制裁

 改めて制裁の内容を振り返ります。詳細はこちら。かいつまんで説明すると選手登録に関して以下の決定が下されました。

  • 2023年の新規選手登録禁止(トップのみならずアカデミーを含む全カテゴリーが対象)

  • アカデミーにおいて、他クラブから加入する新高校1年生・新中学1年生・新小学5年及び新小学6年生はJFA登録が必要な大会への参加が不可

 内定が決まっていた東京国際大学の師岡 柊生選手の仮契約解除が話題になるなど、世間的にはトップチームの補強禁止に注目が集まっていますが、ここではアカデミーにフォーカスを当てて話を進めていきます。

ジュビロ磐田というクラブの立ち位置

 少し古いデータですが、2021年度の営業収益は31億円でJリーグ全体で比較すると15位。年によって多少の変動はあるものの、だいたい30億円規模のクラブとなります。1位の川崎が約70億なので2倍以上の開きがありますね。

 トップチームの強化には有力選手の獲得が不可欠ですが、体力(資金力)が豊富とはいえない磐田がJ1クラブとマネー競争すると分が悪そう。今後、売上増を目指すのは当然ですが、スタジアムのキャパは上限が決まっており入場料収入を劇的に増やすのは不可。スポンサー企業の獲得に注力していきたいところです。

 クラブの方向性としては高額な有力選手をぽんぽん引き抜くより、スポンサー企業を増やして売上を伸ばしつつ、アカデミーを強化して育成した選手の内部昇格または大学経由での獲得・・・が現実的な路線となりそうです。「アカデミーの強化」と一口で言っても様々な側面がありますが、そのうちの1つにスカウティングによる将来性を秘めた選手の獲得があります。

クラブのリリース

 FIFAからの制裁に話を戻すと、1月8日時点でこの件に関してクラブが行ったリリースは3つのみ。

  1. FIFA決定およびスポーツ仲裁裁判所(CAS)への上訴のお知らせ

  2. 師岡 柊生選手 来季加入仮契約解除のお知らせ

  3. スポーツ仲裁裁判所(CAS)による仲裁判断のお知らせ

「1」で選手の移籍に関してFIFA規則に違反するとして処分が下されたがCASに不服申立てを行い、「2」で内定選手の仮契約解除、「3」でCASへの上訴が認められず制裁を受け入れる、というリリース内容です。

 説明は事実経緯のみにとどまっており、何が原因で 何故防げなかったのか、二度と同じ事態を引き起こさないようどう取り組むのか、といった説明がありません。「3」のリリースの最後に以下の記載がありますが、具体的な説明が無いので本当に改善できるのか説得力に欠ける印象です。

この度の結果を非常に重く受け止め、当クラブのガバナンス体制を改めて見直し、再発防止を図ってまいります。

「ファビアン ゴンザレス選手に関するスポーツ仲裁裁判所(CAS)による仲裁判断のお知らせ」より

FIFA規則違反の意味

 個人的には、今回の事態をオブラートに包まずに表現するとクラブの不祥事だと捉えています。FIFA規則に対する違反は、一般企業で例えるなら関係省庁の法令違反と同じ。意図の有無に関わらず、例え過失であったとしても違反は違反。遵守すべきプロトコルの逸脱に該当します。

 不祥事を起こした企業が取るべきは、責任の明確化・原因究明とその説明・再発防止策の構築とその説明。1にも2にも対外的な説明を行うこと。何故これらが必要かと言うと、ステークホルダーの信頼回復に必要不可欠だからです。

ステークホルダーの信頼

 ステークホルダーの1つにサポーターという存在があります。サポーターは良くも悪くも少し特殊な存在で、不祥事により選手補強がNGとなってもクラブに対する信頼を損ねるどころか、やってやろうじゃねーかとむしろ逆境を逆手に取ってやる気に満ち溢れている人も多いはず。

 サポーター以外にどんなステークホルダーがいるでしょうか。アカデミー強化に必要な将来性ある選手のスカウトという観点で見ると、選手の指導者や保護者も広い意味でステークホルダーと言えそうです。選手の進路決定は選手本人の意志に加えて指導者と保護者の意向の影響も大きいと想像するからです。これらの人々に、数多くあるクラブからジュビロ磐田を選んでもらわなければなりません。

 FIFAの規則違反により制裁をくらっても、サポーターの信頼はそう簡単には揺らぎません。しかし、選手の進路に関わる指導者や保護者はどうでしょうか。指導者や保護者の立場になって想像すると、制裁を受けながらも事実経緯の説明にとどまり自浄作用の様子が見えないクラブに自分の教え子や子供を行かせたいと考えるでしょうか。スポンサーも同様です。今までと同じ様に(今まで以上に)スポンサードしたいと思うでしょうか。

 もちろん、移籍に関する話なので全てをオープンに出来ないのは想像に難しくありません。全てどころか、オープンに出来ない事の方が多いのかもしれない。でも、だからといってこのまま事実経緯の説明にとどめて良いのでしょうか。クラブの主張どおり、当該選手とタイのクラブとの契約の存在を知り得なかったのだとしたら、その主張の根拠だけでも説明すべきではないでしょうか。

FIFA規則違反の影響範囲

 2023シーズンをJ2リーグで戦うジュビロ磐田。主力選手のプロテクトに成功し、レンタルバックの選手を加えた事により、補強禁止の影響は想像していたものよりも小さく見えます。でも、それは表面上の話。ローカルレベルの育成に目を向けた時、また スポンサー企業目線で考えた時、対外的な説明を行わずクラブの信頼を取り戻せないとしたらその影響はどれだけ深刻なものとなるか。僕は補強禁止以上にそれが心配なのであります。

 近々、2023シーズンの新体制発表会が行われます。会見で新しく就任する浜浦社長からどの様な説明がなされるか注目したいと思います。


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