腹巻きを求めて三千里

腹巻きが欲しい。

私は胃腸が弱いです。そんな私にとって夏というのは非常に辛い季節です。
なぜかというと、クーラーが私の胃腸をいじめるから。

東京の夜は蒸し暑く、北海道出身の私には辛いものがあります。そのためクーラーをつけたまま眠るのですが、このクーラーがなかなか曲者。私の胃腸をチクチク刺激する。チクチク言葉よりチクチク。知久寿焼。さよなら人類。

こりゃどうにもならんので、快眠ライフのために腹巻きを購入することにしました。
いつものようにAmazonでひょひょひょいっと検索しますと、いくつか商品が出てきます。ここで初めて気づきました。日本の腹巻き業界はグンゼが牛耳っている。
そして何より、競争が起きていない。寡占状態にある。どれもが地味で代り映えしない。
これは非常に由々しき事態です。

私が求めるのは温めるというよりも、保温してくれるもの。そして人一倍代謝がよく発汗が多いので、通気性も必須。いうなればヒートテックとエアリズムのあいのこみたいなやつが欲しいです。
しかし、私の条件を満たす腹巻きは見つからない。
なぜなら技術競争が起きていない。
試しに天下のユニクロ様で探してみたら、女性もの下着が大量に出てきて焦りました。ファーストリテイリングすら腹巻き業界を見捨てたのね。

そんなことを友人に相談したら、ジェラピケなら種類あるんじゃない？　と言われた。
ジェラ……ピケ……？
完全に盲点だった。
Amazonもアルゴリズムが私用に最適化されているため、オススメされるものは自然とメンズものになる。すると当然ジェラートピケはオススメされないのだ。

改めてAmazonで『ジェラートピケ　腹巻き』で検索をかける。予想外の検索ワードにコサイン類似度が困惑してた。
出てきたのはふわふわもこもこで可愛らしいデザインの腹巻き。きゃわ。一瞬でハートを、いや胃腸を射抜かれた。あなた、腹巻きじゃなくてウエストウォーマーっていうのね。嫌いじゃないわ、その名前。

カートに入れ、購入ボタンを押しかけたその時、ある単語が目に入る。
『レディース』
失念していた。ジェラートピケは女性に人気のブランドだ。
私はホソホソの実を食べたガリィなのでレディースも入りそうではあるが、サイズが気になる。
しかしサイズを調べようにも、フリーサイズとだけ書いてあり数値はわからない。
しょうがないからレビューを確認すると、そこには予想外の画像が投稿されていた。

犬が、ウエストウォーマーをしている。
それもプードルのような毛足が長いタイプの犬だ。
もうどこからどこまでがジェラートピケなのか分からない。
ワンコロも胃腸が弱いとかあるのか、と仲間意識が芽生えた。

そして同時に、私はこの商品の対象ではないことが確定した。私はレディースでもないし、犬でもない。

メンズの人間には結局グンゼしかないのだ。
いやまあ、グンゼで文句はないんだけどね。

でもやっぱ女子みたいに、私もデザインで選んだりしたいじゃない。来週は彼氏が泊まりに来るから、思い切って可愛いデザインの腹巻き買っちゃお！　とかしたいじゃない。

「えー、〇〇ちゃんその腹巻きめっちゃ似合ってる〜！　買っちゃいなよ〜」と、似合ってもない腹巻きを買わせる嫌な女になりたいじゃない。

「最近腹巻き新しくしたのに、彼氏が気づいてくれないの」とか悩み相談に乗りたいじゃない。

「こないだ彼氏にプロポーズされちゃって、婚約腹巻きも貰っちゃった」とか幸せのお裾分けされたいじゃない。

「この前お家泊まりに行ったら、私のじゃない女物の腹巻きがあったの」と結婚前の友人が浮気を疑い怒り狂うのをなだめたりしたいじゃない。それ、本当は私の腹巻きなんだけどなぁ、なんて内心思ったりしたいじゃない。

結婚式の腹巻きトスで腹巻きキャッチしちゃって、次の結婚は私かも、なんて淡い期待を抱いたりしたいじゃない。

でも結局良い人は現れなくて、会社と家の往復で終わる毎日。浮気なんかしても、結局本命の彼女には勝てないんだなあ、なんて。
私が振った男たちも、今では別の人と結婚して幸せな家庭を築いてる。あーあ、どこで間違えちゃったんだろ。
ジェラートピケの腹巻きだって擦り切れてボロボロ。最後に新しい腹巻き買ったのいつだっけ？　もう覚えてないや。
前はお店にサイズ測りに行って、ちゃんと合うサイズの腹巻き買ってたのにな。
もうAmazonでいいや。

そうして検索結果に出てくるのがグンゼの腹巻きです。
私達に最後に残されたのは、デザインも色も地味なグンゼなのです。
グンゼはいつまでも私達を待っている。私達のお腹周りをそっと抱きしめてくれる。
人も腹巻きも、見た目で判断してはいけない。

余談
先日恵比寿に用事があって、アトレに入っているジェラピケの店舗の前を通りました。店員の女性はもちろんジェラピケの服を着ているみたいで、部屋着みたいな恰好して接客してるのが異様でした。あれって家から着てきてるのかな。