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改善が失敗する理由 その参

 前々回の記事『改善が失敗する理由 その壱』では、手法や知識のつまみ食いで改善を始めると失敗するとお伝えしました。

 そして、前回の記事『改善が失敗する理由 その弐』では、全社的な取り組みは段階を踏まないと失敗する可能性が高いということをお伝えしました。

 本日は第3弾となります。

 世界の自動車産業界の中でもトップを走り続けるTOYOTA。

 そのTOYOTAの躍進を支えるTPS(TOYOTA Production System:トヨタ生産方式)は、世界で最も有名な生産方式であると言っても過言ではないでしょう。

 ですが、このTPSを導入している日本の製造業は、全体の2割にも満たないのをご存じでしょうか?

 優れた生産方式であるTPSを、なぜ多くの企業が導入しようとしないのか?

 それとも導入したくても導入できないのでしょうか?

 TPSはTOYOTAでなければ上手く行かないのでしょうか?

 それについて、本日はお伝えしたいと思います。


改善手法が自社に適合していない

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 TPS導入に関しては、様々なことが言えますが、一番多いのは先にお伝えした『手法や知識のつまみ食い』です。

 「カンバン方式」とか「5なぜ」などのTPSのごく一部のみに注目して、その方法だけを導入したり、L/T(リードタイム)の短縮に躍起になったりといった具合です。

 こうした例は、枚挙に暇がありません。

 一方で、真摯にTPSに取り組んだ結果、導入を諦め、独自の生産方式の確立を目指した会社がいくつもあります。

 中でも『日立ツール(現三菱日立ツール)』の取り組みは有名だと思います。

 最初に申し上げておきますが、日立ツールの取り組まれた内容は、先に記事でお伝えした「手法や知識のつまみ食い」でも「段階を踏まない全社的取り組み」でもありません。

 それどころか、TOYOTAからの直接指導を受け、テストを繰り返した上で全社的に展開して行かれた、非常に真摯で真剣な取り組みだったのです。

 でも、TPSを導入した結果は、生産のパフォーマンスが悪化するという、想像だにしないものでした。

 結果的に日立ツールは、元の生産方式に戻らざるを得なかったのです。


TOYOTAと日立ツールの違いとは?

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 TOYOTAと日立ツールとの違いは、その製品を見れば一目瞭然でしょう。

 TOYOTAは自動車を製造・販売している会社です。

 1台の価格が高額なので、フルモデルチェンジは数年に1回です。

 しかもモデルチェンジしたとしても、大多数の部品は同じものが使われます。

 しかも生産プロセス(工程)は、排気量や車体の大きさに違いはあるものの、車体構成に大きな違いがありませんので、基本的には同じ製品を大量に生産することが可能です。

 それに需要の変動も緩やかです。

 いきなり今日100台売れて、明日は1台も売れないということはありませんし、もしバックオーダーを抱えても待ってもらうことができる市場を形成しています。

 つまりTOYOTAは非常に安定した市場で商売をしていることになります。

 対して日立ツールはどうでしょうか?

 日立ツール(現三菱日立ツール)は、ドリルやタップ、エンドミルや刃先チップなどの切削工具を主力商品としている会社です。

 切削工具の場合、1個単位の価格は高額ではなく、100個単位でまとめ買いも十分できる価格です。

 しかも、新素材が開発されれば、それに合わせたフルモデルチェンジが要求されます。

 ですので、新商品が出たら旧商品の価値はなくなり、同じものを生産することができなくなるのです。

 同じものが生産できなくなるということは、それまでの生産プロセスが使えなくなることもあるのです。

 その上、ツール市場は需要の変動が非常に激しい市場です。

 市場の要求も厳しく、顧客を待たせることは絶対にできません。

 納期遅れを起こしてしまったなら、ライバルに市場を奪われるからです。

 価格競争も新製品開発も非常に厳しく、大きなばらつきがある荒れた市場だと言えるでしょう。

 こうした市場(環境)の違いが、TPS導入を阻む最大の要因だったのです。


導入するか以前手法は自分たちの市場にマッチしているか?

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 ビジネス誌で喧伝されている経営改善手法を導入したのに、上手く行かなかった。
 海外の企業が導入して成功したマーケティング手法が、結果に結びつかない。
 親会社から下ろされた改善手法が、自社では全く通用しなかった。

 上記のどれもが改善あるあるですが、その一番大きな理由は市場(環境)の違いだと言えます。

 改善が上手く行くか、それとも失敗に終わるかは、その手法が企業の市場に適合しているか否かにかかってきます。

 ですので、その改善手法が自社の市場(環境)に適合するのかどうかを確認するのは、改善を成功に導くか、失敗に終わるかを決める非常に重要なカギなのです。

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