【山本ゆりさんインタビュー】フーディストアワード2020グランプリに決定!170万人を魅了する料理SNSの秘密に迫る
日々の料理や食を楽しみながら、ブログ、Instagram、Twitterで活躍するフーディストのみなさんの活動を称える「フーディストアワード」。今年で第6回目を迎え、各部門の受賞者を発表しました。
栄えある「フーディストアワード2020」の総合グランプリは、山本ゆりさんが受賞されました。そこで今回、2年連続総合グランプリ受賞となる山本さんに、レシピブログ編集長の久永千恵がインタビュー。ブログをはじめたきっかけから、「誰でも・どこにでもある材料で・今すぐつくれる」レシピづくりの秘密、読んでいる方々への思いまで、“ぶっちゃけトーク”をしていただきました。
【プロフィール】
・山本ゆりさん(写真左)
料理コラムニスト。1986年、大阪府生まれ&在住。3児の母。レシピ本の出版は『syunkonカフェごはん』(宝島社 刊)シリーズなど、書籍総売り上げは累計で670万部を超えるベストセラー。身近な材料で簡単にできる料理と、ユーモアあふれる日常を綴ったブログが大人気。
https://ameblo.jp/syunkon/
・久永千恵(写真右・聞き手)
レシピブログ編集長兼フーディストサービス統括リーダー 。デザイン専門学校の企画営業や出版社勤務、大手ECサイトのディレクターを経て、アイランド株式会社に入社。現在は料理ブログのポータルサイト「レシピブログ」の編集長及び、フーディストサービス統括リーダーを務める。
「トリュフ(少々)」……ないやろ! 1年365日レシピ本を愛した日々
久永:まずは2年連続「フーディストアワード」総合グランプリの受賞、おめでとうございます! 今年は特にテレビ、雑誌への出演や、書籍の発売、『料理レシピ本大賞2020』入賞と目覚ましい活躍でしたね。
山本:恐縮です、ありがとうございます。今年は例年より、いろいろなメディアへに出演させていただいたように思います。
新型コロナウィルスの影響もあって、自炊をする機会が多かったこともあるかも知れません。
また昨年からは地震や豪雨などの災害も多く、「火を使わず料理をしたい」「時短で料理をしたい」といった、電子レンジレシピへの反響も大きかったですね。この1年のテレビ出演のほとんどが電子レンジレシピでした。
久永:在宅時間が増えて、手軽に料理をしたいという方が増えましたよね。今日はゆりさんがブログを始めたきっかけから伺っていきたいと思うのですが、ブログを始めたのはなぜですか?
山本:小学生の頃から料理本が大好きで。ほぼ1年365日暇さえあれば読み続けているような子だったんです。材料に「トリュフ(あれば)少々」なんて書いてあるレシピ本を、食い入るように眺めて「そんなん、家にないやろ!」ってツッコんだりしながら(笑)、つくれる料理を真似したり、家にある材料で代用してつくったりしていました。
その後、就活をすることになったとき、自分は何が好きで、将来何をしたいのかじっくり考えたんです。そのとき改めて私はレシピ本を愛しているし、文章を書くのが好きだということを再認識し、自分でレシピ本をつくりたいと思うようになりました。
そのうち「そういえば、笑いの要素があるレシピ本はないなあ」と気づいて、そういうゆるい、ちょっとふざけたレシピ本をつくりたいなと思うようになりました。それで、どうしたらレシピ本を出版できるのかいろいろ調べているうちに「料理ブログ」なるものがあることを知ったんです。
いつかレシピ本を出したくて「レシピブログ」に登録
久永:レシピ本を出すには料理研究家のお弟子さんになるなど、いろんな方法がありますよね。その中で「料理ブログ」という方法を選んだのはどうしてですか?
山本:どうしたらレシピ本を出せるかなっていろいろ調べていたところ、フードコーディネーターのSHIORIさんやHAPPY(石井良江)さん、YOME(大井純子)さんなど活躍している料理研究家の方々が料理ブログをやっていることを知りまして。
しかも、みなさん「レシピブログ」に登録していたんです。そこで、「ブログに毎日レシピを上げ続けていたら、私もいつかレシピ本を出せるかも知れない」と思って、「レシピブログ」を始めました。
久永:どういうコンセプトでブログを始めたんですか?
山本:最初から今と同じ「どこにでもある材料で、誰にでもできる」というコンセプトでした。これまで読んできたレシピ本が、材料がそろわなくてつくれないことが多かったので、本当に端から端まで家にある調味料だけでつくれる本を作りたいなって。いまもこのときのまま、当時と同じ思いでブログを続けています。
12年続けてきたブログルール
久永:かなり考えてブログを始められたわけですね。それから12年経ち、いまや人気フーディストになりました。写真や文章などブログでは、どのような点に気をつけていますか?
山本:写真はスマホで撮っています。気をつけているのは、自然光でできるだけ美味しそうに撮ること。これだけです(笑)。スマホのカメラの性能が上がる前は、デジカメで撮っていましたけど。
文章については、基本的に好きなことを書けばいい場だと思っているのですが、やはり公というか、誰でも観れる媒体なので、いろんな立ち場、いろんな思いを抱えている方が読んでくださることはとくに意識しています。何回も読み返して、不快な表現がないか、わかりにくいところがないか、気をつけてチェックするようにしています。
あとは、自分の意見を押し付けない。「~しましょう」とか、絶対言わない(笑)。私は先生じゃないですし、「どの立場から言うとんねん!」と(笑)。それから見栄を張らない。最初から、「この料理はブログ用の盛り付けで、普段はこんなんしてないですよ」、と書くようにしてます。たまに普段の適当な盛り付けのご飯を載せることもある。隠したって、どうせボロが出るので(笑)。
あまり公の場だとかオフィシャルブログみたいなのを意識せず、知り合い、友達に向けて書くようにしています。見てくださってる方がたとえ何万人いたとしても、読んでくださっているのは1人1人の方なので。「みなさん」とか言わずに、1対1のスタンスで書きたいなと思っています。
久永: すごい! ゆりさんのプロ意識の高さを感じます。コメント欄についてはいかがですか? ゆりさんのブログには、たくさんのコメントが寄せられると思うのですが。
山本:コメント欄はいつでもオープンにしています。一度も閉鎖したことはないですし、もちろんいつも全部読んでいます。子どもが生まれる前はコメント全部に返信もしていました。
200件コメントをいただいたら、200件コメントを返すような状態だったので、コメントへの返信で1日が終わってしまったこともしまうことも多くて(笑)。なので今は、質問にだけお答えする形にしています。
久永: それだけのコメントに返信するのは大変じゃないですか? 途中でお休みしようと思ったことはありませんでしたか?
山本:ないですね。むしろコメントを読むのが1日の楽しみなので……。ありがたいことに、めちゃくちゃ優しい読者さんが多くて、コメント欄の雰囲気が本当に大好きなんです。
質問が多いと、時間的に全部の質問にお答えするのはどうしても難しくなってしまうのですが、私にとっては百回目の質問でも、質問してくださった方にとっては初めての質問なので。何回聞かれてもできるだけ同じテンションで、同じ丁寧さで答えたいなと思っています。
またコメントを読むことで、「このレシピのここが難しいんだな」とか「この材料はみんな代替品でつくりたいんだな」とかもわかるので、本をつくるときの参考にさせていただいています。コメントがなかったら、ブログをここまで続けてないと思います。
調味料の記載順は粉から。読者に寄り添うレシピ本
久永: 2011年に初めてレシピ本を出されて、最新作で10冊目ですね。エッセイも2冊出版されています。
山本:はい、まさかこんなに出させていただけるようになるとは……本当にありがたいです。どんなレシピ本にしたいか、テーマや構成、台割、ページ割、メニュー決め、料理のスタイリングや文章など、写真とデザイン以外は全部やらせていただいてます。
レシピ本をつくるときは、これまでの常識にとらわれず、読んでくださる方がつくりやすい方法で書くようにしています。調味料の記載は通常、量が多い順に上から書いてあることが多いんです。だけど3冊前のレシピ本から、粉→液体→油の順序にしています。これで、1回1回計量スプーンを洗わなくても大丈夫。食材も、野菜⇒肉や魚の順に書けば、まな板をその都度洗わなくても済みます。
言われないと気づかないけど、「そういえば不便に感じていたな」とか、「こうしたら便利だよね」っていうやりかたを探すようにしています。
いままでと違う読者に出会えたSNS
久永:現在はTwitterやInstagramもやられていますよね。ブログとどのように使い分けているんですか?
山本:TwitterとInstagramは趣味の部分が大きいです。Instagramは周りの友だちがみんなやっていて、「やってないん?」って言われたので始めました(笑)。
Twitterでは材料が少なく、いますぐつくれるレシピを上げることが多いです。分量も、ブログでは2人分でも、Twitterでは1人分に変えて載せたりしています。
例えば先日は「卵かけ」ご飯をアップしました。もはやレシピでもない(笑)。
Twitterの拡散力って、本当にすごいなあと思います。スピードも早いし、1時間後にはもう「つくりました」って写真が上がっていたり。Twitterは自分がフォローしていない人にも届くソーシャルメディアなので、今まで絶対に届かなかった方までレシピが届いて、面白いなあと感じています。
久永: 具体的にTwitterではどのような層に届くようになったんですか。
山本:男子学生や、ひとり暮らしの男性にも見ていただけるようになりました。
中には、私のレシピで摂食障害を克服できて今では料理を仕事にしているとか、包丁や火を使えない方々が野菜を手でちぎってレンチンするレシピで自炊できるようになったとか、そんなリプライが寄せられることもあります。すごい嬉しいですし、なんだか泣けますよね。
読者に誠実に 企業の思いがわかれば熱量が変わる
久永:アイランドでは企業ともたくさんコラボレーションしていただきました。印象に残っているお仕事はありますか?
山本:サントリーさんのプレミアムモルツのお仕事で、実際に工場見学に行かせていただいた時のことはすごく印象に残っています。
工場でビールの話はもちろん、原料となる天然水のことをいろいろ教えていただいたんですけど、天然水の採れる地下水の湧水する山をつくるために植林にも力を入れるし、愛鳥活動もする。100年後の山を守る活動をしているんですよね。そういう話を通じて、企業の思いを知ることができると、ブログに書くときもものすごい熱量で書いてしまいます。
日清食品さんと「日清ラ王 袋麺」シリーズのアレンジレシピ開発をしたときもとても楽しかったです。よくお話を伺うと、本当に心から日本の食生活を良くしたいと思っていることが伝わってきて。
アイランドさんとのお仕事は、こんな風に開発者の方に直接お話を聞けたり、売り上げやシェア、企業の考え方を知れたりすることが多くて嬉しいなと思っています。
久永: 企業からのお仕事を受ける時、何かご自身の中で基準はあるんですか?
山本:ブログのコンセプトが「どこにでもある材料で誰でもできる」なので、そこをぶらさずにいられるような、読者さんのほうを向くことを良しとしてくれる企業さんのお仕事を受けるようにしています。
珍しい調味料の場合は、代替品を書かせていただいたり。PR企画だからといって、急にかたい文章になったり、思ってもないことを書くと、読者さんに嘘をつくことになってしまうので……。
山本:「紹介していたアレ買ってんけど、思ってたんと違う」とは絶対思わせたくない。できるだけ商品については正直に書かせてほしいとか、代替品を提案させてほしいなどと伝えています。
久永: 企業の方々からも、ゆりさんのレシピの評判はすごいんですよ!クオリティも高いですが、例えば5つレシピをつくって欲しい、というオーダーがあったら、指定の数以上、ときには倍くらいのレシピを出してくださるそうですね。
山本:はい。ほどほどでもいいんでしょうけど、ご指定いただいた数よりは、多くご提案しています。絶対これがいい!という自信がないので(笑)。できるだけたくさんのレシピの中から選んでいただけるようにしたいなと。
ひとりで始めたブログが、子どもから高齢者まで広く伝わるように…
久永:ブログを12年続けて、どのような変化を感じていますか?
山本:親子2代でサイン会に来てくださる方がいらっしゃったり、「ゆりさんの本、お母さんにもらいました」とか、逆に「娘に教えてもらいました」と言われたりすることも出てきました。それと「電子レンジだけで安全にご飯をつくれる本だからと祖父にプレゼントしました」、「90代の祖母が使っています」とコメントを頂いたこともあります。
私自身にも、大きな変化がたくさんありました。レシピブログに登録した時は独身だったのに、今では子どもが3人います。起きている間じゅうずーーっと仕事しているような感じなので、子どもとちゃんと向き合えないことも多いです。
子どもがご飯を食べてる脇で、パソコンを打ったりしているし、撮影や締め切りでバタバタしていて、スケジュールはいつもぐちゃぐちゃ。子育てと仕事を、美しく両立なんかできていないです(笑)。
ずっと悩んでいましたし、今でも悩んでいますが、そうしないと絶対間に合わないし、どうしようもないので……。
一時期、あまりに慌ただしく、子どもと遊ぶ時間も取れなかったので、「もうやめたほうがいいかな」って子どもに言ったことがありました。そしたら9歳になる一番上の子が「やめんといて! もっとテレビとか本とかに出て欲しい!」って言ってくれて。それもあって、少し割り切れるようになりました。「もうええわ!」と(笑)。
―― ブログやTwitterなどを始められて様々な経験をされてきたかと思いますが、今後どんなことにチャレンジしたいですか?
山本:もっと面白く、つくりやすくて美味しい本をお届けしていきたいです。2021年には、3冊目のエッセイ本も出版する予定です。動画ですか? ……それはちょっと恥ずかしいので、できたら文章で表現し続けていきたいと思っています。
◇ ◇ ◇
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https://foodistnavi.jp/
取材・文/石川香苗子 撮影/トヨサキジュン
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