旅立ちの日に

言わずと知れた卒業ソング。
平成生まれの子供達の卒業式に必ず歌われた曲だが、私はイントロから涙が溢れてしまう保護者であった。

我が子の卒業に感無量?
そうではない。

結論から言えば
「まさか自分の子供が学校を卒業したり、さらにその先へと進んだり夢を実現させたりするはずがないのに」そう出来る未来があったんだと
何となく実感した、そのことに感動したのだ。

私はカルト宗教を信奉する祖母と母に厳格に育てられた所謂宗教3世である。

1975年には世界が終わる、
いや1914年に世界が激動したことを認識できた世代が死に絶える前には世界は終わりを迎える、という教理でマインドコントロールされて育てられた人間だ。

大きくなったら何になる?
夢は?
そう聞かれてとりあえずはパン屋さん…などと答えることはあっても
西暦2000年代は来ない!と信じることを強要されてきたから、私にとっての夢や就きたい職業など絵空事であった。

まさか世界が終わらないなんて、
聞いてないよ!!!
という心境で2000年代を迎えた。
親のカルトから家出同然に逃げてからは、1995年生まれの長子は8歳にはならないで死ぬと本気で信じていた。

カルトの神は、背いたもの、教理に耳を貸さぬものをすべて滅ぼすからだ。
しかもあと数年以内に。

なのに、世界は存続し続けている。

自分の学校の卒業式には泣いた記憶がない。
卒業も入学も進学も恋愛も就職も、
数年後に来るべきハルマゲドンを生きて乗り越えぬ限り意味のないものであると生まれながらに叩き込まれてきたからだ。

その親から強制されたカルトを自ら振り捨てたのは1994年
戒律を破り破門され親と家を捨てた。

だが、自分は神に背いたわけだから、
当然未来はない。
死ぬ覚悟で出てきたのだから。

なのに。
我が子は生まれ育ち
今日卒業式を迎える。

飛び立とう
この広い大空に

8歳にはなれないで死ぬと信じていた我が子が
何の呪縛にも囚われず飛び立てるのだ。
これが泣かずにいられようか…

カルトの親に育てられることの恐ろしさは、渦中にいた人間にしか分からない。
私が上に書いたことはおそらく、同じ目に遭って育って来た者にしか理解できないだろう。

卒業式のあの歌は
私にとっても旅立ちの日に、であったのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?