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連載小説「私の話 2022」⑦

(上掲スキャンした原稿をテキスト化したものです)

 落ち着かない。両隣の客が帰って、やっと紙とペンを執り出した。来たときから変で、スマートフォンの音量が大きくなっていて大音量で音を出してしまったり、不安で回りをキョロキョロしようとして首が回らず挙動不審になってしまったりする。
 そして相変わらずペンが持てない。筆先が安定せず、思い切り力を入れて勢いで筆耕している。こうなってから金ペンから鉄ペンに変えたのだが、それでも自分ですら判読が困難だ。そして、よほど力が入っているのだろう、インクの減りが早い。
 今日も朝からというより昨日の夜から苦しんでいる。考えてみれば昨日の夜から変だった。SNSに、お休みの投稿をしようとして、自分が交流のために使っているアカウントではなく告知や広報のために使っているアカウントを使って投稿してしまった。
 そのようなこともあってか、寝ている間も色々なことが気が気でない。寝付いて1時間もせず、まるで水の中にいるような滝のような汗をかいて目が覚めた。そしてそれは1時間おきに続き、ついに午前4時には焦燥感で横になっていられなくなった。
 身体中、力が入っている。首の筋が肩から頭部まで吊るように痛い。頭の中でジリジリ音がする。汗が吹き出して止まらない。強烈な不安に襲われる。悲鳴を上げたいが、そうしたところで誰も助けてくれないのが判っている。
 死ぬことを具体的に考える。服毒はしたことがあるが1ヶ月も発見されずに大手術になって一生、残る大きな傷跡が残るだけだった。そうして他にも色々な方法を考え、ひとつひとつ潰していく。
 訪問看護には救急ではないのだから電話をしてくるなと言われていて、この調子だと本当に死ぬときは一人なのだろうなと思う。そうこうしているうちにツィッターのツィートを見たブログ友達からダイレクトメッセージが届くが、返信するのも辛い。
 しかし頭がクラクラする。鎮静のためと言って処方されているヒルナミンは全く効かないのに寝不足というのは強烈だ。そして頭の中では相変わらずちりちりと音がしている。
 ここまで書いて隣に客が来たら、また緊張が強くなった。頭の中で音が酷くなる。店を出て帰途に就く。しかし、帰りのバスの車内でのことは全く記憶にない。それもそのはずで、心労の原因とも思える昨日のことを考えていた。
 昨日、私は中学校時代の友人である弁護士と契約をした。誰も住まなくなった実家の売却交渉と維持を依頼したのだが、問題は、その値段である。
 私は30歳くらいで会社を辞めているのだが、その往年の年収と、ほど一緒で、これから物価の上昇がなく同じペースで生活するとしたら3年間、暮らせる金額だ。もっと抽象的な表現をしたが、中学校の同級生には異常に高いと言われ、ツィッターの友達には「かなりのぼったくり」と言われた。主治医には具体的な金額を話すと「友達甲斐がない」「弱みに付け込まれている」と言われた。
(ごめんなさいペンが持てない)

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