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FONTPLUS DAYセミナー vol21 [中村書体と筑紫書体]レポート

こんにちは、フォントかるた制作チーム2号の伊達です。

昨日セミナーを受講してきましたので、今日はそのレポートを書きます。
へっぽこカメラマンゆえ写真があまりよくありませんが、資料も素晴らしくたいへん面白いセミナーでしたので、全部は無理でもその一片でも伝われば。
FONTPLUS DAYセミナーについてはこちら。
https://fontplus.connpass.com

今回は、フォントかるたでもおなじみの「ナール」「ゴナ」の書体デザインで知られている中村征宏さんと、こちらもフォントかるたでおなじみ「筑紫A丸ゴシック」など数多くの筑紫書体をデザインされた藤田重信さんの超豪華な二本立て。

中村さんのセッションは、中村さんが書体を作り始める前にやっておられたお仕事のお話から始まりました。看板や、バイク・車にお店の名前を入れるお仕事から、印刷会社を経て、TVのテロップを描くお仕事など。

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TVのテロップって、今はほぼ全てデジタルフォントですが、最初は手描きだったんですね!手のひらより少し大きいくらいのサイズの紙に、端正な手描き文字や、それぞれのイメージに合ったデザイン表現が施され、それはもう職人技と言うしかない見事なものでした(写真は別会場の展示より)。

キャプションにもあるように、この上段にある「テレビのおばちゃま」や「悔いなき煩悩」の文字がナールLの原形になったのだそうです。確かに四角い枠いっぱいに文字が詰まったこの形!

ナールは、1970年に写研の「第1回石井賞創作タイプフェイスコンテスト」の1位に選ばれ、写植書体として発売されます。

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従来の丸ゴシック体(上)と比べ、文字枠いっぱいに広がったモダンで幾何学的なデザインのナール(下)。今でこそこのジャンルのフォントはいくつもありますが、きっと当時は衝撃的だったことでしょう。

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ナールは印刷物はもちろん、サインや道路案内などによく使われました。今でもたくさんあります。誰でも絶対目にしているはず。

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しかし、40年以上も前の書体デザイン。中村さんは今見ると「こうすればよかった」「もっとこうしたい」という思いもあるのだそう。で、それをやってみたそうです。へんとつくりのバランスや、線の入り方、空きのバランスなど。そして会場の参加者の方に「どっちがいいですか?」と聞かれました。

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ここで、藤田さん乱入(?)
「いや、ナールのバランスはこれ(オリジナルの)でいいんです!」「直したらダメです!」と。

会場の参加者の意見は、修正版もいいけれどオリジナルのナールがやっぱりいい!という声が多かったようです。最終的には「オリジナルと修正版と両方欲しい」ということに(そりゃそうですw)。

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今でこそフォントはパソコンで描くのが当たり前になっていますが、中村さんが写研のお仕事をされていた頃は手描きです。今こんな風に文字を描ける人がどのくらいいらっしゃるでしょう。2号も若かりし頃は、雲型定規やガラスペンを練習しましたが、きれいな線を描くところへは到底たどり着けませんでした。ものすごく難しいんだよ!イラレのある時代でよかったと常々思っております。

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いくつか間が飛んでますが、どの工程を取っても神業。太い文字ならまだなんとかなりそうですが、ナールLのような細くて曲線的な文字はどう描いたら太さを均一にできるのか、本当にわかりません。

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中村さんが描いたのは、ナールLとそのLから紙焼きをとって(と、さらっと書きますが、紙焼きなんて今の人は絶対知らない。そんな話もおいおい…)肉付けをしたナールDの2書体。他のウエイトは、写研の内部で作ったものだそうです。


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こちらはゴナ。極太のUというウエイトから始まったそうです。JRで採用されたので、誰もがきっと一度は目にしていると思います。雑誌の見出しにもよく使われました。藤田さんは「70年代から年々(ゴナが増えて)雑誌の顔つきが変わった」とおっしゃってました。

ナールにしても、ゴナにしても。中村さんはいくつものバリエーションを作って、その中から良いものを選ぶことを繰り返されたそうです。
「どれがいいかなといくつか作ってみるのが、作る人の仕事ですよね」
というお言葉がとても印象的でした。デザインも同じなんですよね。無駄な作業のようですが、作ることがすなわち仕事なんだろうと思います。

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藤田さんはご自身の年表を作ってきて、それを元に幼少期から筑紫書体までの道のりをお話くださいました。「筑紫書体に導かれて生きてきたような気がする」という藤田さん。あらかじめ目標があったわけではないけれど、幼少期に大好きだった2代目カローラのテールランプの形から、高校の先生に無理やり勧められて写研に入社したことも、ファッションやデザイナーさん達との出会いも、すべてのことが一直線に筑紫書体に向かっていたように感じられました。何かを成し遂げるというのは、そういうことなのかもしれません。

ともかく、筑紫書体は見ない日はないほどの人気です。80年代、90年代のナールやゴナもそうでした。もちろん、書体にも流行り廃りはあるのでしょう。でも、その時代に求められただけでなく、そこにはそのデザインが生まれるだけの道のりや下地や技量があって、その核にある魂みたいなものに人が共感するからこそ使われる、使いたくなる、そんな風にも感じました。

ありがとうございました。

フォント名を読み上げて、そのフォントで書かれた札を取る。「フォントかるた」の制作チームです。書体やフォントに関するあれやこれを楽しく綴ります。https://www.fontkaruta.com