【書いてみた】連作短編|星降る月夜、宿り木の下で③

では、次のニュースです。
昨日未明、――区の――路上で、男性が遺体で発見されました。
遺体には争った形跡や目撃情報がなく、警察は自殺と他殺、両方で捜査を進めています。
では、次のニュースです⋯

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人混みの中にいるのに、騒がしさが気にならない。
というか⋯何も気にならない。
私は今、無という感覚を味わってる。

さっき見たあの子の顔を思い出す。

⋯あの子の顔、すごくきれいだった。
よくわかんないけど、人は亡くなったらお葬式の前に、化粧ってするんだっけ?

寝てるだけかと、思うくらい。

〝連絡がないのは元気な証拠!〟
そんな言葉を信じたまま、そのままにしてしまってた⋯

どうして?何で?
私じゃ、ダメだったの?
なんで私を置いてったの?
出来ることなら何でもする!
だから⋯だから⋯わたし

『⋯え?』
さっきの人混みが急に消えていた。
周りも暗い。
···下を向いて歩いてたせい?
道を間違えたの?

その時、目の前にふわりとした薄明かりが小さく見えた。

少し来ない間に、こんなお店が出来たの?
この飾り⋯ランタン、よね。
こんな場所で見れるなんて⋯

帰る気になんて、なれなかった。
私は入口のドアを前に押した。

「⋯いらっしゃいませ。」

カウンターの奥から、バーテンダーが声をかけてきた。

カウンターに座り、不機嫌な声でバーテンダーに注文をする。

『⋯度数がキツめのカクテルを。』

でもバーテンダーの返事は、私の神経を逆なでした。

「うちにはメニューは置いてございません。」

『⋯は?』
口調がキツイ。
自分でも分かってるのに抑えられない。

「メニューを決めるのは···お客様のお話」
『だから!度数がきついカクテル』
「ココロに何か、抱えてはいませんか?」
『⋯え?』

初対面、しかも数分しか経っていない。
何故この人は私の心を見抜くの?

改めてバーテンダーの顔を見ると
美しくも柔らかい笑顔が、私に向けられていた。

「今宵お話下さった事が、あなたのココロとカラダを潤します。」

軽い目眩を感じた数秒後、私の心の声が喉を通り、口を動かしていく。

『⋯大切に想ってた子が、亡くなったの。』
ここ数日から今日までの出来事を話す。

しばらくした時だった。

バーテンダーの後ろに構えている酒棚の一部が光った。
⋯グラス?
バーテンダーはそのグラスを取り出し、私の前に置いた。

次はボトルがひとつ、次は別のボトルがまたひとつと光る。
バーテンダーはボトルを集めてテーブルに置いた。

『⋯どうして私に話して⋯私を置いて行ったの⋯
私じゃ⋯頼りなかったの⋯』

バーテンダーが私に何かを話してる。
あまりバーテンダーの話が頭に入って来ない。

でも
バーテンダーが次に言った言葉は、何故かはっきりと私の頭に入り込んできた。

「そして⋯もう一つ理由があるとすれば⋯
物理的に話せなかった、のかも知れませんね。」

『⋯物理的に⋯話せ、なかっ⋯た⋯?』

バーテンダーが私の前にカクテルを置く。

「ギムレットです。
ここから導き出される言葉は[長いお別れ]
今宵はこの1杯が、あなたのココロとカラダを潤します。」

『長いお別れ⋯か。
私は⋯別れたくなかったのに⋯
でも⋯そうね。
私、最近のあの子の事、なぁんにも知らなかったんだなぁ⋯
何⋯やってたんだろ⋯私⋯』

「どうかご自分を責めないで下さ」
『でも、このカクテルおかげで分かったの。
私が⋯何をするべきか。』

「⋯え?」

『⋯ありがとう。』
私はグラスに口を付け、カクテルを一気に飲み干した。

『明日の月は⋯きっと綺麗なんでしょうね。』

深い眠気に誘われたので、意識を手放した。

私が覚えてるのは、ここまで。

あとは⋯

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では、次のニュースです。
今日未明、――区――の交番に『人を殺した』と、女が自首してきました。
⋯調べに対し女は『復讐のためにやった』と容疑を認めており⋯
警察は先日、自殺と断定された男性の事件との関連があると見て、慎重に捜査を続けています。
では、次のニュースです⋯

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