プロダクトのブランディングで、誰もがやってるようでやっていない、たった一つの大切なこと
みなさんこんにちは、FOLIO BACKSTAGEです。
今回のテーマは、「デザイナーとブランディング」をキーワードに、 FOLIOのデザイン部・松岡さんにお話をうかがいました。
どんなプロダクトも「ブランディング」はとても大切で、プロダクトを作って広めていくためには、ブランディングを避けて通ることはできません。
しかしブランディングにはデザインはもちろん、社内の関係者全員から合意を得ながら進めていくという、なかなか高度なビジネススキルとコミュニケーション能力が必要となってきます。
この記事では松岡さんに、デザイナーの立場から、プロダクトのブランディングをどう進めていくか?そのコツやノウハウについてお聞きしました。
どんなブランディングも基本は変わらない
司会:
早速ですが、今回は「デザイナーとブランディング」というテーマで、ブランディングの手法やノウハウについてお聞きしたいと思いますが、まず今回主役となるプロダクトについて教えてください。
松岡:
先日ローンチした、金融機関向けのプラットフォームサービス「4RAP」というプロダクトです。いわゆる生活雑貨や日用品などの消費財ではなくて、B2B向けのプロダクトです。
かなり専門的なプロダクトなんですが、ブランディングという意味においては、B2B向けのプロダクトも、一般のお客様向け(B2C)のプロダクトも、基本的な手法やノウハウは同じなので、業界や業種は何であれ、ブランディングの進め方について悩んでいる方の参考になればと思っています。
司会:
B2B向けもB2C向けも、ブランディングという作業においての考え方は同じということですね。
松岡:
あえて違いを言うなら、B2Bは商談のしやすさや専門領域のわかりやすさが重要になると思うので、エモーショナルなものよりも好みや流行に左右されにくい、ニュートラルなブランディングの方がいいなという点は意識していましたが、基本的な手法は同じです。
「正解のないもの」を形にするために大切なこと
司会:
具体的にどういう流れで進めたのかを教えてください。
松岡:
まず最初に、私ともう一人のデザイナーとマーケティング担当の3人で、ブランディングをどうやって進めるか?についての議論がありました。
そこで、今までFOLIOではコーポレートのリブランディングや新規のプロダクトのブランディングはどうやってたのか?という話を踏まえて、今回の方向性をざっくりと決めました。
その後、CEOである甲斐さんをはじめ、今回のプロダクトに関わっている経営企画の方々やエンジニアのリーダーなど、合計8人のメンバーが集まって私が今回のブランディングの進め方を説明し、合意を得てからスタートしました。
司会:
ここがとても難しいポイントだと思うんですが、ブランディングやデザインって、正解がないですよね。正解がないものに向かって、デザイナーと経営陣とエンジニア側が、それぞれの考えていることをすり合わせて、互いにフィットさせて、それを具体的なデザインに落とし込んだりヴィジュアライズしないといけないですよね
松岡:
はい、とても大変です。ですので、こちらが考えて提案したものを承認してもらう、というよりも、一緒に決めていくというスタンスを大切にしていました。
これを実現させるために、「ブランド・アイデンティティ・プリズム」という手法を使ってブランディングをしました。ブランドマネジメント界における世界的権威のジャン・ノエル・カプフェレさんという方が考えた手法なのですが、ブランドに必要な要素を整理するためのフレームワークです。
司会:
もう少し詳しく教えてください。
松岡:
これは、ブランドのアイデンティティを決めるための手法で、ワークシートを使っておこないます。ブランドに必要な要素を6つの項目に分類して、その項目にひたすら言葉を埋めていきます。言語化することでプロダクトに関わっているメンバー全員の認識を合わせていく、というこの作業を最初にやりました。
司会:
デザイナーが手を動かすのではなくて、全員でその作業をするんですね。この手法を取り入れつつ、ブランディングのプロセスを進めるにあたり意識したことはありますか?
松岡:
過去にFOLIOでやった事例をなるべく倣うことを心がけました。新しいことをいきなりやるのは戸惑いが生じてしまうので、過去の事例を取り入れつつ、今回新しくチャレンジする手法も取り入れつつ、バランスに気をつけてブランディングを進めました。皆がやったことのある方法で進めた方がリラックスしてアイデアも出しやすいと思ったので、それを意識しました。
ブランディングの具体的な手法
司会:
確かに後になると傷口が広がって取り返しのつかないことになりますよね。少々話は戻りますが、ブランド・アイデンティティ・プリズムでは、6つに要素を分けて分類するようですが、具体的に詳しく教えてください。
松岡:
はい、この上の図が実際のブランド・アイデンティティ・プリズムです。
左上から左回りで解説していくと、まず左上にある【ブランドの特徴】というのは、そのブランドの製品面とかサービス面における機能的な特徴や、他の商品やサービスと比べてどのような品質の良さがあるのかを記入する項目です。
その下にある【ブランドの役割】ですが、これは消費者や一般のユーザーにとって、そのプロダクトがどんな役割を担うのか?を記載する項目です。
【ターゲット】は、今回対象となるのがToBなのでターゲットが企業となりますが、自分たちの商品やサービスのターゲットになる人はどういう人なのか?どんな企業の中の、どのような担当者で、どんな課題を抱えている人なのか?を書く項目です。
右上にある【ブランド・Life-vision】は、ターゲットに限らずすべての生活者と自分たちのブランド両方が望んでいる社会の未来像を書きます。
そして次の【ブランド・パーソナリティー】は、ブランドを人に例えた時の性格とか見た目などの個性のイメージを書きます。
最後の項目【ブランド提供価値】は、そのブランドが生活者に提供できる喜び度合いを示すもので、そのブランドができることで、生活者はどういう点が嬉しいのか?を記載します。
司会:
この6つの項目について、メンバーが考えや思いを書いていくんですね。その後はどうするんですか?
松岡:
全員が書き終えたら、8人でこれを見ながら「コアとなりそうなもの」に星(★)をつけていきました。同時に「これはちょっと違うのでは?」というものには別の絵文字などをつけていって、最終的に星(★)がついているものの中で一番重要なのはどれなのかを話し合いました。
この作業が終わったら、今度はムードボードの作成に入りました。
ムードボードというのは、出てきたキーワードから連想されるデザインイメージや色のイメージを集めたものなんですが、それを8パターン作りました。この作業は私ともう一人のデザイナーと二人でやりました。
司会:
ムードボードの作業をする時に気をつけることがあったら教えてください。
松岡:
ブランド・アイデンティティ・プリズムの作業の時に、みなさんからもらった言葉を一度整理して取捨選択する作業をしたのですが、ムードボードを作成する時は極力その言葉から連想されるイメージをたくさん出すようにしました。あまり絞ったり限定しないよう、自由にイメージを出すことを心がけました。
このようにして8個のムードボードを作った後は、また8人でこのムードボードを見ながらどれが理想のイメージに合うのかを話し合って、最終的に3つに絞りました。
非デザイナーのメンバーと、どうやって認識を合わせるか?
司会:
ここで一つハードルがあると思うのですが、ブランド・アイデンティティ・プリズムでは皆さんから「言葉」を出してもらいましたよね。それがデザイナーお二人の手によって、色とか形のようなデザイン的なものに変化しました。このような色とか形のような感覚的なものを、非デザイナーの人たちと共通認識を持って同じ方向を向いて作業をするのってとてもむずかしいと思うのですが、意識してることがあったら教えてください。
松岡:
そうですね。それぞれのムードボードが一体どんなものなのかを言葉で説明するように気をつけていました。「なんとなくこんな感じになりました」というのは避けて、ブランド・アイデンティティ・プリズムの中で出てきたキーワードを使って「これは大胆で勢いのあるフレンドリーなイメージのムードボード」「これは白を基調に明瞭で淡白なイメージにしたもの」「この場合は爽やかで成長性や若々しさを感じさせる方向性」というように説明しました。
司会:
ムードボードのビジュアルや色って、ネットで検索して色々なデザイン例とかカラーリング例を探してくるんですよね。その時に松岡さんの中で、単語とビジュアルを一致させないと画像って集められないですよね。何を意識して集めるんですか?
松岡:
例えば、「信頼」というキーワードに合うデザインを見つけたい場合、「信頼」と検索しただけでは信頼っぽいイメージって出てこないんですね。
そこで信頼が大事とされる仕事ってなんだろう?と考えると、私は病院や弁護士事務所等が思い浮かびました。
そこから色々な病院や弁護士事務所のwebサイトや印刷物のデザインを探してみると、信頼感をデザインに落とし込んでいるものが見つかるので、そういうものをピックアップしていきます。
司会:
それは具体的でとてもわかりやすいですね。ムードボードを作った後の進め方を教えてください。
松岡:
それぞれのムードボードに対する意見や感想を雑談形式で話し合って意見を出し切ってから投票をおこなって絞っていきました。
そうすると幾つかムードボードが残りますが、それに対してそれぞれ、メリットとデメリットが何かを考えてメモを取り、最終的にブランド・アイデンティティ・プリズムのブランド・パーソナリティーに合うものは何かを軸に絞っていき、3つに絞られたので、その3つのムードボードに合うラフデザインを2~3パターン作りました。
ムードボードにはビジュアル要素になる写真・イラストのデザインサンプルや、UIのデザインサンプルもピックアップしてあったので、それらを参考にラフデザインを組み立てていきました。
ラフデザインを作る上で意識していること
司会:
ラフデザインって、数種類しか出さないデザイナーと、何十種類も出すデザイナーがいると思うのですが、松岡さんがラフデザインを出す時に気をつけていることがあったら教えてください。
松岡:
ムードボードに合うデザインのパターンって、10パターンもないと思っていまして、あんまり多いと微々たる差になるんですよね。だから見る方も「どこが違うの?」ってなりますから、あまり幾つも出さないようにはしています。
私が大事にしているのはラフを出す前のプロセスなんです。そのプロセスを大切にしないと意味がないデザインになってしまうので、それまでの過程でメンバーの共通認識を合わせるために言葉にしたりイメージにして共有することがとにかく大切なんです。あと、ラフの前から関係者や上層部を巻き込んでおくと、決定権を持っている人がラフの段階でひっくり返す、という事態が起きないので、そういう意味でもあらゆるフェーズにおいて色々な形で共有をしておくことが大切です。
司会:
ラフを3つ出してからのプロセスについて教えてください。
松岡:
ムードボードの時と同じ用に、それぞれのラフに対する感想や雑談ベースの意見を言ってもらって、その後に投票して、票数が集まったものに対してメリット・デメリットを洗い出しました。また初心に立ち返ってブランド・パーソナリティーと照らし合わせて話し合いをしました。
司会:
デザイナーの立場として、ビジネスサイドやエンジニアサイドのどんな声を気をつけて聞いていましたか?
松岡:
実際にこのサービスを使ってくださるお客様と会うのはビジネスサイドの方やCEOの甲斐なので、その人達がこのサービスを先方にプレゼンしやすいかという点は意識していました。エンジニアサイドの場合は、今後そのサービスが成長するにつれてウェブサイトをどんどん更新していくことになるので、拡張性が高いかという点も気にされていたので、そこの声は極力拾うように意識しました。
司会:
よくこういうプロダクトのデザイン案を決める時、全社を巻き込んでやることってありますよね?その手法は取らなかったんですか?
松岡:
全社員を巻き込んでアンケートを取るのはよくやる手法ですよね。ただ今回はプロジェクトメンバーだけで決めました。理由としては、これまでブランディングに向き合ってきたメンバーたちは、今までの背景とか過去に取捨選択してきたものをよく知っているので、そういう人たちだけでアンケートを取ったほうが一番いいものや正解を選べるのかなと考えたんです。ただ社員全員のアンケートを取るのを否定しているわけではなく、これはケースバイケースだと思います。
司会:
いよいよラフデザインを絞って一つにする、というフェーズですね。どうやって決めたんですか?
松岡:
最後に2つのラフ案があるCとD、3つのラフ案があるFが残ったんですが、ここから最終的にD案の1と2が残りました。
そして「拡張性の高さ」、「FOLIOのコーポレートブランディングとの関連性の高さ」、「デザインが個性的すぎずニュートラル感が高いか?」という3つの基準で議論を重ねて、最終的にDの1に決まりました。
ブランディングで一番大切なこと
司会:
デザインの方向性を決めたら、あとはディテールを作っていく作業になると思うのですが、ここはどうやって進めるんですか?
松岡:
まず、中のコンテンツのワイヤーを詰めていって、それに合わせてデザイン作業をしました。ビジネスサイドやエンジニアサイドからは、ワイヤーの細かい要望やコンテンツの順番に関する細かいリクエストがあったので、それに対応しながら作業をしました。
ただ、ここもポイントなのですが、私一人でこの作業をするのではなくて、メンバーと一緒に確認しながら進めていきました。
司会:
今回のブランディングにおいて、松岡さんなりの一番のポイントはどこですか?
松岡:
色々なコツやポイントをお伝えしてきましたが、私がブランディングで一番大切にしていることは「発散と収束」です。
プロセスにおいて大切なことは、発散と収束を繰り返すことだと思います。メンバー全員が言いたいことを言って、時には脱線してもいいのでどんどん発散してもらう時間と、出てきたアイデアを絞ってそれを収束させていく、これを何回か繰り返すことをプロセスに入れることがとても大切です。
司会:
発散と収束において気をつけていることがあったら教えて欲しいです。
松岡:
完璧に実現するのはなかなか大変ですが、なるべく全員が言いたいことを言える環境を作ることですね。誰かの中にわだかまりがあったり、気になっているけど言えないことなどがあると、最終的に誰も納得感を持てないブランディングになってしまうので。
司会:
松岡さんが、ブランディングで大切にしていることがあったら教えてください。
松岡:
どの角度から見ても、同じイメージを持てることが大事だと思っています。ブランディングがないと、営業の人と話した時、ウェブサイトを見た時、サービスを触った時で、それぞれ全然印象が違う、という状態になってしまうので、それを避けてどの角度から見てもイメージを一致させるためにブランディングは大切だと思っています。
ブランディングを振り返って
司会:
今回のブランディングを振り返ってみて、反省点や良かったことがあったら教えてください。
松岡:
ブランディングを進めるにあたり、デザイナー以外の皆さんが非常に協力的だったことが、今回最後までやりきれた1番の理由だと思います。結局デザイナーだけがいくら頑張っても形にすることはできませんし、納得感が得られるものはできないので、協力してありがたかったな、というのが振り返って思うところです。またデザイナー以外のみなさんが協力してくれるように色々工夫をした点が良かったポイントですね。
今回の最大のポイントは、ブランド・アイデンティティ・プリズムを最初にデザイナー以外の人に埋めてもらったことです。一番最初にやることがデザイナー以外の人が考えて手を動かすということだったので、これをやってもらったおかげで、一緒に考える土台ができました。
司会:
今回のブランディングで、大変だったことや苦労した点を教えてください。
松岡:
大変だったのは、ほぼ完全にリモートワークという状況下で、物理的に対面での会話でないので、メンバーの心の機微がわかりづらかったことです。正直な気持ちが表情などでわからなかったので、そこが悩みどころでした。
それを解決するために、miro(オンライン上のホワイトボード)をフル活用して、言葉をイメージで伝えたりすることでコミュニケーションを取りました。
デザインの仕事で苦労することの一つが、最初のフェーズで言ってくれればいいのに、後戻りできないフェーズになって「実はこうして欲しかったんです」と言われることなんです。そうすると全部やり直しになってしまうので、そこは意識して進めていました。特に決定権を持っている人が多い場合は、こういうことが起きがちなので気をつけるようにしています。
司会:
最後に、これからブランディングする人に向けて、アドバイスはありますか?
松岡:
自分ももっと頑張らないといけないところですが、日頃からデザイナー以外の人とコミュニケーションを取っておくことはとても大切だと思います。そうすることで共通言語が増えるので、ブランディングをやる時にもスムーズなコミュニケーションを取れると思います。
あと、ブランディングには様々なやり方やフレームワークがありますが、どの方法でおこなうのかはあまり重要でなくて、プロジェクトメンバー全員でサービスの特性やビジョンの認識を合わせることや、メンバーの忌憚なき意見と気持ちを引き出すことが重要になってくると思うので、それができるような、自分とチームに合ったやり方を見つけることが大切だと思います。
司会:
確かに共通言語を増やしておくのは、スムーズに仕事を進める上で大切ですよね。本日はありがとうございました!