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【月次レポート】株式市場の大幅下落。金融市場に迫るトランプリスクを解説!

▼3つのポイント
・米中の貿易協議が決裂、トランプ政権は制裁関税の引き上げを実施 
・株式市場は大幅下落、日経平均は7.45%の大幅下落
・今後も政治状況や金融政策の動向に注意する状況が続く

トランプ政権の関税引き上げにより、株式市場は大きく下落。

• 5日、トランプ大統領、中国製品に対する制裁関税の引き上げを発表

 5月の株価下落のきっかけは、5日にトランプ米国大統領が、中国の知的財産権侵害などを理由に10%の関税を課している2000億ドル分の輸入品に対し、10日から25%に引き上げると表明したことです。さらに、まだ追加関税を課していない3250億ドル分の中国製品にも「すみやかに25%の関税を課す」と言明し、中国側の貿易協議に対する対応が遅すぎると批判しました。

 株式市場では、米中貿易協議に対する楽観的な見方が強まっていましたが、米中貿易紛争の長期化懸念が広がり、6日から10日の週末にかけて日米中各国の株価は大幅安となりました。

• 13日、中国による報復関税引き上げ

 9日からワシントンで行われた米中貿易協議での交渉は決裂し、10日から米国側での関税の引き上げが実施されると、中国側も報復処置として6月1日より米国製品に対する輸入関税を引き上げることを発表しました。これを受けて休日明けの13日には米国株式は2%超の大幅な下げを記録しました。

• 15日、トランプ大統領、ファーウェイに制裁を発表

 15日にトランプ大統領は、中国の通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)に対する米国製ハイテク部品などの事実上の禁輸措置を発表しました。同社は、5G向けの通信機器やスマートフォンの大手企業であり、米国からは年間100億ドル、日本企業からは年間66億ドル相当の部材を調達しています。この影響を受けて、日米の半導体関連企業や電子部品企業の株式は大きく下落しました。

• 30日、トランプ大統領、メキシコにも追加関税を発表

 さらにトランプ大統領は30日、メキシコが違法移民問題を解決しない限り、6月10日以降メキシコからの輸入品すべてに5%の関税を課す考えを示しました。メキシコには世界の自動車メーカーが工場を構え、米国に輸出しています。そのため31日には、米国の自動車会社はもちろん、トヨタや日産、本田、デンソーなどの日系自動車メーカーや部品会社の株が大幅に下落しました。

 この結果、日経平均の5月末の終値は20,601.19円となり、4月26日の終値22,258.73円から7.45%の下落となりました。

なぜ米中の貿易紛争が、世界の株式に大きな影響を与えるのか?

 米国の中国からの輸入額は年間5000億ドルを超えており、これらにトランプ政権による25%の高率関税が課されると、1000億ドルを超える増税となり、小売価格に転嫁されることで消費の鈍化が懸念されます。米国は、GDPに占める消費の比率が7割近くあるため、経済成長への影響が懸念されています。

 また、中国から米国への輸出額は同国のGDPの3.6%を占めており、関税引き上げによる中国側企業の業績が落ち込む可能性が指摘されています。

 日本企業にとっては、中国やメキシコに電子部品や自動車部品、素材、工作機械等を輸出し、現地企業により製品化されたものが米国に輸出されるというグローバルなサプライチェーンが構築されているため、米国を中心とする貿易紛争が、日本企業の業績に影響を与えます。

不透明感を増す米国経済

 5月1日の米連邦公開市場委員会(FOMC)は、会合後に公表した声明文で「経済活動は底堅いが、インフレ率は目標の2%を下回っている」と指摘しています。1~3月期の米国実質成長率は前期比年率換算で3.2%に達し、4月の失業率は3.6%と49年ぶりに低水準を更新しており、エコノミストたちが指摘する「適温経済」の状況下にありますが、トランプ政権の一連の関税引き上げ発表により不透明感が増しています。

 実際に6月4日に発表された5月の *ISM製造業景気指数は、52.1と2016年10月以来の低水準となり、景気減速の兆しを示す結果となりました。

*ISM製造業景気指数は、全米の製造業350社の購買担当役員に対するアンケート調査を実施し、その結果を基に作成する景況感を表す指数。景気の先行指標として注目されています。

米国金利の動き

 米国株の下落を追いかけるように米国の長期金利は低下を続け、5月23日以降6日連続で長期金利が短期金利を下回る水準にあるという「逆イールド」が続いています。

 この現象は、将来、短期金利が大きく低下し、再び長期金利を下回るような金融緩和が長期間継続することを先読みしたものです。

 実際に、シカゴ・マーカンタイル取引所が算出する米国の政策金利の先行き を示す「FedWatch(フェドウオッチ)」では、6月2日現在、年内に少なくとも1回の利下げ確立は9割以上、2回以上の利下げ確立は7割以上に達しています。

日本企業への影響は?

 米中両国への主力輸出品である自動車や電子部品、工作機械などの分野で、関税引き上げに伴う需要の鈍化、円高に伴う競争力の低下などが、ネガティブな影響を与えると予想されます。報道各社によれば、5月の中旬までの集計による今期の東証一部上場企業の予想純利益は一けた台の減益となる見込みとなっています。

まとめ

 トランプ大統領は、5月5日に対中関税の引き上げを表明して以来、矢継ぎ早に、貿易紛争に絡んだ制裁措置を打ち出してきました。

 まさに、トランプ大統領自身が自称する「タリフマン(関税男)」としての本領発揮と言いたいところですが、この結果、世界の株式市場に大きな混乱を招いてしまいました。

 今後の見通しも、トランプ政権の出方に影響を受けると考えられますが、来年の大統領選挙を控えて実績が欲しい大統領側の攻勢が緩むとは考えにくく、また、中国をはじめとする各国も容易に妥協するとも期待しがたく、貿易協議は長期化が予想されています。

 これを受けて、FRBの利下げへの期待も高まっており、株式市場は金融緩和の可能性と貿易協議の進展を見ながらの展開となると思われます。

 日本についても、参議院選挙、米国との貿易交渉、さらに10月には消費税の引き上げと課題が目白押しであり、予断は許さない状況にあります。

 しかしながら、日経平均の予想PERは、5月末で11.63倍と過去5年間で最低水準に達しており、冷静に時間と銘柄の分散を行うことが大切でしょう。

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