新NISA向けROBOPRO投信を組成②~様々な選択肢の検討経緯~
第1回、第2回の記事で、「ロボアドバイザー」としてのROBOPROは新NISAへの対応は行わないことをご説明し、その上でFOLIOとしては、新NISA向けのROBOPRO投信(ROBOPROの運用戦略を活用した投資信託)の組成を目指し、投資信託を組成する運用会社へ投資助言を行う形で関わっていく予定であることをお伝えしました。
この結論に至るまで社内では様々な検討を重ねており、最終回となる今回の記事では、その検討経緯や背景等をご紹介します。
新NISA向けのROBOPRO投信を提供する背景についてお伝えします。
ROBOPROにおいて考え得る新NISAへの対応方法とそのデメリット
まず、ROBOPROにおける新NISAへの対応方法を検討するにあたっては、「機動的に投資配分を変更することに伴って新NISAの年間投資枠が埋まってしまう」という課題を解決できるかどうかが大きなポイントでした。
なお、一般的なロボアドバイザー(※1)においては、"運用コースごとに定められたリスクの度合い”を概ね維持することを目指すような投資配分のメンテナンス(≠ダイナミックな変更)に留まるケースが多いため、ROBOPROよりは難易度は低いものと考えられます。しかし、ROBOPROの場合は避けては通れない課題でした。
実際には多岐にわたって対応方法を模索しましたが、ここでは検討していた内容の一例として以下2つの対応方法とそれぞれに潜むデメリットを紹介します。
A)投資配分の変更ルールに制約を設ける方法
1つ目の対応方法は、投資配分の変更ルールに一定の制約を設ける方法で、例えば「投資配分を変更する頻度を下げる」「投資配分変更時の売買額に上限を設ける」のような手段が挙げられます。
これら以外にも制約を設ける手段は様々考えられますが、本記事では他社でも検討実績のある「運用中の資産にはなるべく手を付けず、追加拠出資金等を元手に投資配分の調整を行う」という方法について、踏み込んで解説します。
下図はその具体例を示しています。
上図のとおり4つの資産を均等に保有することが「最適ポートフォリオ」であると仮定し、100万円を元手に運用を開始して(①)、その後市場環境が変化する中で評価額が変動し②の状態となったとします。そして②の状態のまま投資配分変更のタイミングを迎えた際に、現行のROBOPROの運用戦略においては、評価が上昇した資産を売却し、その代金で評価が下落した資産を購入する等(これに限りません)により、「最適ポートフォリオ」になるよう投資配分を調整します。
しかし、本項目で例示している「運用中の資産にはなるべく手を付けない方法」においては、投資配分変更に伴う売買による年間投資枠の利用を防ぐために、運用中の資産(②)については売買を行わずに固定化することを原則とします。そして、追加購入(積立投資を含む)を行う場合においてのみ、その資金を元手に「最適ポートフォリオ」に近づけるように資産の購入を行ないます(③)。
このように、投資配分の変更ルールに制約を設けることで、「年間投資枠が埋まってしまう」という課題をある程度解決することができ、結果として新NISAの投資枠を効率的に活用することができるようになります。
<「つみたて投資枠」を有効活用するにはさらに工夫が必要>
少し複雑になりますが、実際には新NISAの年間投資枠(合計360万円)は「成長投資枠(年間240万円)」と「つみたて投資枠(年間120万円)」の2種類が併存し、2つの枠で合計1,800万円の限度額(総枠)が設けられており、さらにその総枠の中で「成長投資枠」には1,200万円の上限が設けられています(詳細は第1回の記事にて解説しています)。
そのため、新NISA口座で1,800万円満額投資するためには、「つみたて投資枠」にて最低でも600万円投資することが必須になります。
しかし、制度上「つみたて投資枠」で購入できる銘柄は限られており、例えばROBOPROにおいては、2023年10月末時点に投資対象としていた8種類のETFのうち、VTI(米国株式)だけが「つみたて投資枠」の対象資産でした(※2)。「成長投資枠」と「つみたて投資枠」の両方の枠を余すこと無く有効活用するためには、下図のように枠ごとに資産の買い分けを行ないつつ、両枠トータルで考えて投資配分の最適化を行うような売買調整を行う必要があります。
<投資配分の変更ルールに制約を設ける方法におけるデメリット>
デメリットの一つとして、前述のとおり枠の管理の仕組みが複雑になることで、いつどの枠で何の資産が売買されているのか、お客様目線で直感的に分かりづらくなってしまう点が挙げられます。
また制約を設けることで、本来あるべき最適ポートフォリオに近づけようとしても、配分調整の元手となる資金が足りず、最適ポートフォリオから乖離してしまう可能性がある点もデメリットになります。また、このデメリットの影響度合いによっては、パフォーマンスが悪化する可能性があることについても、十分に認識しておく必要があります。
<ROBOPROは「投資配分の変更ルールに制約を設ける方法」は採用しない>
第1回、第2回の記事でもお伝えしたとおり、ROBOPROの特徴は、市場環境の変化に合わせて「機動的に投資配分を変更する」点にあります。そのため、もし投資配分の変更ルールに制約を設けた場合、その特徴を十分に発揮することができずパフォーマンスを追求できなくなる可能性があります。
つまり少し誇張して言うと、この対応方法の検討にあたってFOLIOは、ロボアドバイザーを提供する運用会社として、運用商品の「特徴を失ってでも新NISAに対応させるか」「特徴を保持したままパフォーマンスを追求するか」の2択を迫られることになりました(もしかすると同業他社様も似たようなジレンマのなかで葛藤されているのかもしれません・・・)。
しかし最終的には、現在ご利用中のお客様の目線で考え、ROBOPRO独自の特徴を活かしてパフォーマンスを追求し続けるべきであるとの結論に至り、この方法は採用しないという判断に至りました。
では、このような制約等を設けることなく、ROBOPROの特徴を保持したまま何かしらの形で新NISAに対応させることはできないのでしょうか?
それを可能にするのが、2つ目の方法です。
B)ROBOPROの運用戦略を用いた「投資信託」を組成する方法
2つ目の対応方法は、ROBOPROの運用戦略を用いた投資信託を組成する方法で、最終的にFOLIOが採用した方針も大枠は同じ考え方です。
この方法のメリットとしては、新NISA口座の年間投資枠の計算上は、あくまでも、同口座内でお客様が購入した投資信託の金額がカウントされるため、下図のように、投資信託の信託財産内において資産の売買が発生しても、その際の購入額は年間投資枠内の投資額にカウントされない点が挙げられます。
そのため、ROBOPROの運用戦略を活用した新NISA対応の投資信託が組成されることで、運用戦略を大きく変更することなく、ROBOPROと概ね同様のパフォーマンスが期待できる運用商品をご提供することが可能になります。(※3)
なお、実際に足元で検討している投資信託においては、当座はつみたて投資枠の対象商品とはならず、成長投資枠の対象商品となることを想定しています(最終的に新NISA対象となるかは、投資信託協会の公表などをご確認ください)。
<「つみたて投資枠」の対象商品となるために必要なこと>
投資信託(上場、非上場を含む)における「成長投資枠」の対象商品が約2,000本以上あるのに対し、「つみたて投資枠」の対象商品は300本未満に留まります。
「つみたて投資枠」の対象商品の本数が少ない理由として、対象商品となるためには、長期の積立・分散投資に適した投資信託であるかどうかという観点で主に以下の基準をクリアしなければいけない点が挙げられます。
「つみたて投資枠」に採用されている本数としては、表の左側の指定インデックス投資信託のほうが多いですが、右側に記載があるように、ROBOPROの運用戦略のようなアクティブ運用型の投資信託でも一定の条件をクリアすることで、対象商品となることが可能です。
そのため、FOLIOとしては、検討している投資信託においても、将来的には「つみたて投資枠」の対象商品となることも目指していきたいと考えていますが、アクティブ型の運用戦略である場合、各種要件はあれど信託設定後5年以上経過することが求められるため、「つみたて投資枠」の対象商品として検討の俎上に載るためには時間を要することになります(5年後に必ず対象になるということを保証しているわけではありません)。
仮に対象商品となった暁には、「つみたて投資枠」と「成長投資枠」の両方の枠で購入できることになるため、1,800万円の枠を余すこと無く有効活用していただけるようになります。
<「投資信託」を組成する方法におけるデメリット>
デメリットは、運用体験の観点でロボアドバイザーに劣後する傾向にある点です。
例えば、ロボアドバイザーの形式でNISAに対応した場合は、アプリやウェブサイト等で投資配分の状況の変化を日々確認することができますが、投資信託の場合、投資配分の詳細については月次レポート等を通じてでしか確認できないことがほとんどです。
また、ROBOPROにおいては、アプリ通知やメールを通じて、レポートやコラム、その他の各種お知らせ等の情報をFOLIOからお客様にお届けしていますが、投資信託の場合、投資家が能動的に情報収集を行う必要があります。
しかし、このようなデメリットはあるものの、投資信託を組成する方法であれば、ROBOPROの特徴を活かしながらパフォーマンスを追求し続けることができるため、当社としてはこの方法が新NISA対応の最適解であるとの考えに至り、最終的にこの方法を採用することになりました。(第2回の記事にて「投資信託という枠組みを活用する2つの理由」を解説)
最後に
新NISA制度が来年から始まるわけですが、過去の一般NISAやつみたてNISAなどを受けて作られたとはいえ、まだ新制度自体は緒に就いたばかりです。今後、さらにNISA制度が改変されることや、ロボアドバイザーにおける売買がNISA枠を消費しないこととなるなど、状況が変われば、当社としての対応も変わる可能性もございます。
当社としての現時点でのスタンスはこれまでお伝えした通りですが、お客様にとっての最善は何か?ということを大前提に色々な選択肢について考えてまいりました。その分、当社における新NISAへの対応方針につき、皆さまへお伝えするのが遅くなってしまったと考えております。新NISA口座をどの金融機関で活用するか検討されているお客様におかれましては、判断材料のご提供が遅れましたこと、この場をお借りしてお詫び申し上げます。
ROBOPRO、ならびに今後組成されるROBOPROの運用戦略を活用した投資信託が、皆さまの資産運用の一助となれば幸いです。