ひとり消費を考える

1.人口は減少、世帯数は増加

最新版の国勢調査(2020年)によると、我国の人口は1億2614万人(2020年10月1日現在)で、15年に引き続き減少(0.7%減)しています。

「国勢調査 人口等基本集計 結果の要約」より

一方で世帯数は増加しています。一般世帯(下宿や独身寮、施設に住む単身者などを除いた世帯)数は5570万世帯と増加傾向(15年比237万世帯増加 増減率4.4%)が続いています。

人口が減少しているのに、世帯数が増えているということは、1世帯あたりの人数が減少していることを意味します。ここから ひとり暮らし世帯が増加していることが推察されます。

「国勢調査 人口等基本集計 結果の要約」より

2.家族の変化

世帯数の増加を家族累計別にグラフにすると、単独世帯の増加が目につきます。2020年は2115万世帯が単独世帯、すなわち ひとり暮らしです。15年比で273万世帯増加(増減率15%)しています。
一方で夫婦と子供世帯(いわゆるファミリー世帯)は、1394万世帯です。ひとり暮らし世帯の約6割、15年比で34万世帯減少し増減率は▲2.4%です。

国勢調査よりグラフ作成

全世帯に対する割合でみても ひとり暮らし世帯は3ポイント増加し、ファミリー世帯は2ポイントの減少です。代表的な暮らし方が95年当時はファミリー世帯であったものが、現代ではひとり暮らしが最大勢力となっています。

国勢調査よりグラフ作成

3.背景には離婚に対する抵抗感

ひとり暮らし世帯増加の背景として、結婚意識(結婚しなければならないという意識)の低下が考えられます。生涯未婚率は、男性で25%、女性は16%と言われています。

ほかに、離婚に対する意識の変化があるのではないかと考えます。様々な理由があって離婚する人達はいますが、博報堂が2年に一度実施している生活者調査「生活定点」によると、「夫婦はどんなことがあっても離婚しない方が良いと思う」割合は、98年と比較して15ポイントも減少しているのが分かります。

博報堂「生活定点」よりグラフ作成

さらに離婚までしなくとも、夫と妻がそれぞれ別の楽しみを持つ意識が高まっていることも次のデータから推察できます。同じく生活定点から「夫婦各々好きな事をしたり、別に暮らしても構わないと思う」割合は、18年と比べて7ポイント増加しています。

博報堂「生活定点」よりグラフ作成

結婚という制度に対する拘りや、世間体を気にしなくなり自由に生きる姿勢が浸透していっているのではないかと考えられます。
同じく生活定点では、「ひとりでいる幸せを感じる」人が近年増加傾向にあることを示しています。

博報堂「生活定点」よりグラフ作成

4.「ひとり」を楽しむ

こうした意識の変化は、社会が「ひとり」を許容し始めたことが遠因としてあるのではないかと考えます。

クロス・マーケティングが2020年11月に発表した「一人行動に対する調査」によると、「一人行動に対する抵抗感がない」という人は男女計で57%と過半数を占めています。

クロス・マーケティング「一人行動に対する調査

行動別(一人でできること)には、カフェや牛丼屋などの飲食店だけでなく、映画鑑賞(49%)や日帰り旅行(36%)、宿泊旅行(30%)など様々な分野で一人行動が広がっていることが分かります。

クロス・マーケティング「一人行動に対する調査

(蛇足ですが、女性は一人でカフェに行けるが、ラーメン牛丼屋には行けない、男性はラーメン牛丼屋には行けるが、カフェには行けないというのは、非常に興味深いですね。私も何となくお洒落なカフェにひとりで入るの抵抗あります。)


そして「一人行動の良い点悪い点」を見るとさらに実態が浮き彫りになってきます。まず複数回答でポジティブ意見が上位を占め、ネガティブ意見の割合が少ないことが挙げられます。特に「感想を言い合う相手がいない」(20%)など一人でいることの寂しさや情緒的なデメリットは少数であることが分かります。これは「周囲の目が気になる」が14%と少数であることが示しているように、社会全体が一人行動を許容している裏返しであると考えることができます。(ひとりでいない周囲の人が、「ひとり」の人が行動しているのを見ても気にしないということを示しているのではないかという解釈です。)

クロス・マーケティング「一人行動に対する調査

5.まとめ

人口動態の観点から世帯数は増加傾向にあります。一人で暮らすことに対するデメリットは少なくなり、ますます個への回帰が進むと考えられます。
暮らし(住居)だけではなく、余暇行動もひとり行動がしやすい環境が整ってきました。

2005年に「おひとりさま」が流行語大賞にノミネートされてから17年が経過しました。
ソロキャンや音楽配信サービス・動画ストリーミングサービスの普及も後押し、2022年はさらに個人で楽しむ消費が爆発するのではないかと考えます。

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