嘘の話をします。

いまから嘘の話をする。

子供の頃俺の家は母子家庭でとても貧乏だった

服や、習字道具等はもちろん
中学の制服も近所のお兄さんのお下がり、
家も古くて小さな市営住宅のアパートだった。

言うまでもなくゲームやおもちゃを
買って貰ったことは無かったのだが、
年に一度の誕生日には母が買ってくる
近所のパン屋のクリームパンが
唯一の楽しみであった。


そんな俺も中学にあがり思春期を迎えた。
周りの友達と違う事を嫌い
俺は自分の家の貧困を隠した。


ある時期になると
"モンスターハンター"
と言うゲームが流行った。

当然、俺の家にはそんなものを買える
余裕はなかった。

俺はみんなとゲームをしたい気持ちを抑えて、みんなには「興味無い」と言って強がった。


代わりにノートに絵を書いた。


プレイをした事はなかったが
みんながゲームの話をするのは聞いていたから
モンスターの名前は全て覚えていた。

イャンクック、ゲリョス、
リオレウス、リオレイア。

憧れのモンスター達との死闘を
俺は絵に書いた。


そんな光景を見ていたのか14歳の誕生日に
母がくれたものは夢にまで見たゲーム機

「PSP」だった。

俺は驚いた。

母曰く、
ボーナスが入ったので奮発したとの事だった。
だがいままでの家の経済状況から
考えてそれは嘘だとすぐにわかった。
しかし、それが嘘であろうと本当であろうと
その金がどこから捻出されたのかは
どうでもよかった。
ただ浸すらに目の前にある、
初めての自分だけのゲーム機が嬉しかった。

そして、いままで食べ物以外のプレゼントを貰ったことがない俺は嬉しさから涙が出てきた。


これでみんなとゲームが出来る。


みんなと同じようにモンハンが出来る。


みんなと同じように休み時間に
モンハンの話をし、
放課後にはそのモンスターを倒しに行くことが出来る。

夢のようだった。

俺はその足で友達の家に向かった。
友達には「従兄弟の兄ちゃんがくれたから一緒にモンハンやろうぜ」なんて言ってごまかした。

俺にはいとこの兄ちゃんも兄弟もいなかった。

だけどみんなには理由なんて必要なかった。

「一緒にやろうぜ!」

俺は嬉しかった。
そして、初めて自分のPSPに電源を入れる。

ついに、夢にまでみたモンハンを
みんなとプレイすることが出来る。

夢にまで見た

"普通の"

中学生らしい遊びができる。。。










しかし








俺は知らなかった。












俺は







知らなかった。








ゲームをするにはゲーム機本体
とゲームの"ソフト"が必要な事を。




みんなからしたら当たり前かもしれないが
いままでまともにゲームをしたことが
無かった当時の俺は知らなかった。

当然そんな事を俺の母が知ることも無く、
結論から言うと俺はみんなと
モンハンをやる事ができなかった。
みんなは俺をからかったが、
俺はからかわれることより
自分の家の貧困がバレることが怖かった。
みんなに仲間外れにされることが怖かった。

何とか理由をつけて誤魔化し、
その場はやり過ごした。

帰り道、俺は悔しさと恥ずかしさが混ざり、

泣いた。

自分の母親を恨んだ、
貧困を恨んだ。
自分の人生を呪った。

そして、次第に悔しさは苛立ちに変わり
気づくとPSPを地面に叩きつけていた。


画面が割れたPSPを手に取り我に返った。

俺はなんてことをしたのだろう。

なんて酷いことをしてしまったんだと、
自分の過ちを咎めた。
しかし、割れた画面が治ることはなかった。
家に帰ると母に今日の事を聞かれた。
俺はみんなとモンハンをした、
楽しかったと嘘をついた。

それからの日々俺はPSPを壊した事を隠しながら毎日家に帰ると嘘のゲームの話をした。
俺は罪悪感で何度も本当の事を話そうと思ったが、そんな事を言ってしまえば傷つくのは母で、何より自分の罪悪感を消すために母を傷つけるのは愚かな事だと思った。



俺はPSPを壊した事と
この罪悪感とは一生向き合って行こうと決めた。











時間は経ち、







そんな俺もいまでは普通に就職し、
普通に結婚をし、

子供も生まれた。

母に孫の顔も見せることができ、
平均的ではあるが
あの頃よりは裕福な暮らしをしていた。

いままで苦労をかけた分
母にはたくさん恩返しもしたし、
自分の息子にもゲームを買い与えてあげた。





幸せだった。








そして






ある日、母は倒れた。





死に行く前、
母は俺にあの頃の事を話してくれた。

あの時、俺のためにゲームを買いたくて必死に夜のバイトをしていたこと、無知な母がゲームを買うのに色々教えてくれたのは当時のバイト先で知り合った先輩だったこと。

その先輩と付き合ってた事


そして、
その彼がいまの
俺のお義父さんだと言うこと。。。



義父は色んな事を母に教えてくれたらしく


世間知らずだった母には全てが新鮮だった事。


そして、



ゲームをするのにゲーム機本体以外に
ゲームソフトが必要だと言う事も
義父は母にちゃんと教えていたのである。




しかし、それを知ったのは俺にPSPを渡した後だった。という事。






そう





母は知っていたのだ、
ゲームをするにのソフトが必要なことを。






俺の嘘も全部知っていたのだ。






母親は古びた袋に入った、
PSPのソフトを俺に渡し

「あの時渡せなくてごめんね」

そういうとそのまま意識を失ってしまった。



その後母は逝ってしまった。


本当に謝らなくては行けなかったのは
俺の方なのに、
俺は母に謝ることはできなかった。



そんな後悔と無念の中、

母の葬儀は終わった。




火葬場の煙突から
黒い煙が出ているのを見ながら、
母から貰ったPSPのソフトが入った袋を
開けてみた。









葬儀場に吹く
冷たい風が頬を刺す









そこにはまだ封の切られていないボロボロの
ウイニングイレブン2008が入っていた。




〜完〜




ここまで呼んでくれた変態の皆さん
ありがとうございます。
人生色々ありますが
色んな経験をしてきた僕から
一つだけ言いたい事があります。













全部嘘だ!!!!!!!!
ばかやろう!!!!笑笑笑









〜完〜
(本当に)


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