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日産e-POWERの限界(連続上り急勾配)

販売戦略上は「電気自動車の新しいカタチ」と銘打ってはいるものの、実質的には純粋なシリーズハイブリッドに過ぎない日産e-POWER。
シリーズハイブリッドとは、エンジンが発電専用でモーターが全ての駆動を担うことが特徴です。電気自動車のバッテリーの一部をエンジン発電機に置き換えたものとも捉えることもできます。このe-POWERはノート(コンパクトカー)とセレナ(ミニバン)に搭載されていますが、両者とも発電用のエンジン排気量は1.2Lで、特に車重の大きなセレナe-POWERはパワー不足に関する懸念が各所で指摘されていました

そこで、実際にセレナe-POWERで富士山の連続上り急勾配を走行してみました。5合目までの登山ルートは、最も傾斜の急な須走口であるふじあざみラインを利用しました。上り坂では多くの電力が必要なことは容易に想定できますから、事前にChargeモードを使用してある程度までバッテリーを充電しつつ、急勾配はSモードで挑みました。急勾配中は何故Chargeモードにしなかったのですか、という声が聞こえてきそうですが、Chargeモードに「できなかった」というのが正しいです(詳細は下記をご覧いただければ…)。

ふじあざみラインの前半は、平均勾配が10%程度の比較的なだらかな(とはいえ、10%は道路構造令で定められる上限です)連続上り勾配が続きますが、後半ではそれが20%にも及び、最大斜度は22%のようです。常にChargeモードで運転していましたが、ふじあざみラインの序盤からバッテリー残量はみるみる内に減少し、急勾配区間に到達する前にほぼ空になってしまいました。車内のディスプレイでは、バッテリー残量の色が水色から黄色に変わり、「制限モードで走行しているためChargeモードは使用できない」旨のメッセージが断続的に表示されるようになりました。
というわけで、結果的にバッテリー残量がほぼ空になった状態で、最も勾配の急な区間に差し掛かることになりました。アクセルを床近くまで踏み込んでも速度が30~40km/h近辺を漂っている状態で、です。

そして、セレナe-POWERの限界が誰の目にも明らかな形で現れました。
アクセルをベタ踏みにしているにも関わらず、車速はなんと20km/hにまで落ちてしまったのです。
後続車両が居なかったのが幸いですが、もし後続車両が居たならば、どんなドライバーでも道を譲らざるを得なかったでしょう。そもそもで、直線を20km/hで走行していれば、(車体で道を塞いだりしない限り)追い越されることを阻止するのはどう見ても不可能です。

その時の様子をドライブレコーダーで撮影していましたので、ダイジェスト版をYouTubeにて公開しました。

当時は激しい雨が降っており、日中ですが薄暗い環境でした。ワイパーは間欠なしで常時稼働、ライトとフォグランプを同時点灯、蒸し暑いためエアコンも稼働させており、車両側の条件としては極めて不利な状況でした(路面も相当に濡れいるうえに排水が悪い箇所も多く、車両側で何らかの制御が入っていたかも知れません)。

以前、エアコンは燃費に影響するという話を聞いたことがあり、運転中にふとエアコンが負担になっているのでは?と考えました。アクセルをベタ踏みで20km/hしか出ない区間を走行中、試しにエアコンをOFFにしたところ、あっけなく加速し30km/hまで届きました。ただし、すぐに車内が暑くなったためエアコンをONに戻しています。軽自動車ですら至高の快適性が求められる時代ですから、ミニバンでエアコンONは特段厳しい条件ではないという判断です。

ただし、一度も停車することなく5合目まで上り切ったことは、唯一評価できると思います(運転中は「時折停車して充電してから発進しないと5合目まで辿り着けないかも知れない」と覚悟はしていましたが)。もっとも、平成末期に登場した最新型のクルマの走りとは思えませんが…。ちなみに、麓の道の駅須走から5合目の駐車場までの区間燃費は、JC08モード燃費(24.8km/L)の20%強にあたる5.5km/Lでした。

もちろん、セレナe-POWERは「あくまでミニバンであり、山に行くクルマではない」と言われれば、確かにほとんどのユーザーは現状でも十分不足はないでしょう。
しかし、次期e-POWER搭載車種として候補に挙がるエクストレイルなどのSUVでは話は異なります。SUVはアウトドアを楽しむユーザーが選ぶクルマでもあり、e-POWERが急勾配に難儀するようなら、ユーザーが満足することはないでしょう。

同じくシリーズハイブリッドを採用するものの、高速巡航時にはエンジン直結駆動が可能な本田技研工業のi-MMDでは、こうした高負荷時にパワーユニットがどんな挙動を示すのか気になりますね。
i-MMDは、アコードやステップワゴンのハイブリッド車に搭載されており、次のフルモデルチェンジからフィットやCR-Vにも搭載されるようです。

シリーズハイブリッドの弱点とされる、高速巡航や極めて高い負荷の環境で、「技術の日産」こと某社の次の一手に期待します。


余談ですが、Twitterで本件をツイートしたところ、900RT・700Favを超える反響をいただきました。私のように「電動パワートレインに興味があり、かつ純粋にクルマの走りも楽しみたい」ユーザーが少ない証左かもしれませんね。走りを楽しむのであればモーターなぞ邪道、という考えが主流っぽいので仕方ないですが。

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