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山下和美先生「ランド」読書感想文

本エントリにはネタバレが含まれます.とても面白い漫画でしたので,このエントリを読む前に,ぜひ作品をご読了ください.

このエントリでは,作品中で気になった箇所について書き留めておこうと思います.


この世とあの世の時系列(想像含む)

あの世とこの世について,各種イベントを時系列順に並べてみました.想像含みます.

$$
\begin{array}{|l|l|} \hline
あの世(ランド株式会社) & この世 \\ \hline\hline
天音・和音,被災(日本沈没) &  \\ \hline
天音・和音,不老長寿の薬を開発 &   \\
(天音・和音は青年ほどの年齢) &  \\ \hline
 & 不老長寿に反対する団体発生 \\ \hline
天音・和音,不老長寿に反対する団体のため,\\この世を作る & \\ \hline
 & 不老長寿に反対する団体,この世に移住 \\ \hline
天音・和音,この世を管理 & この世の住民,何世代かに渡り生活 \\ \hline
\end{array}
$$

あの世は例えるなら,我々が生活している現代社会の文明レベルを相当引き上げたような場所です.しかしあるタイミングで大震災が起き,日本の国土が大幅に減り,その結果ランド株式会社が国として日本を統治する状態になっています.またランド株式会社は不老長寿の薬を開発したため,それを諸外国に売ることと,諸外国から廃棄物や核廃棄物を回収し,処理することを生業としています.

この世はランド株式会社によって作り出された,不老長寿に反対する団体のための集落です.あの世とこの世は地続きですが,地形的に行き来するのが比較的難しいようです.また,この世に移住した人たちは,あの世とは断交したようであり,自身の思想を末代にまで強制させたい,という考えもあったようです(11巻201p).そしてなぜか,もともとは不老長寿に反対する団体だったはずが,いつの間にか現代文明に反対する団体に変化しているようです.

ここまでが説明です.

登場人物の年齢

天音・和音兄弟は,スケッチブックに自分たちの考えた理想の街を描いていました.ここで,地図には漢字が一切使われていない(4巻113p)ことから,この時点の兄弟は未就学児,大体5~6歳と想定できるはずです.

兄弟は被災後,研究所に引き取られます.この時の年齢は不明ですが,たとえある程度成長していたとしても,よくて10歳前後と思われます.(個人的には,ぱっと見でスケッチブックに地図を書いていた時から成長していないように見えているので,大体5~6歳ですが,いろいろ疑問が増えるので10歳ぐらいにしておきます)

そして被災から10年後,二人は不老長寿の薬(アイオーン)を開発します(11巻61p).推定20歳でそのような薬を開発してしまうので,彼らは天才です.

また兄弟が推定20歳のころ,あやめが看護師として物語に登場します.あやめの年齢は不詳ですが,看護師として働ける年齢ではあります.天音はあやめと結婚します.あやめは兄弟と同年齢程度と考えてよいはずです.

あやめは後に,この世の管理人になります.不老長寿の薬は,どうやら定期的に注射(処置)する必要があるようです.あやめはあるタイミングで処置をやめ,普通に年を取るようになりました.そしてあやめは,実年齢は不明ですが,50歳を迎えたときに,知命としてこの世で亡くなりました.

また,天音とあやめは子供を設けます.名は蓮華です.蓮華は大学で研究をしていたのですが,あるタイミングであやめの後任になりました.

時系列にまとめると以下のようになると思います.

$$
\begin{array}{|l|l|l|} \hline
天音・和音 & あやめ & 蓮華 \\ \hline\hline
地図作る(5歳ぐらい?) & & \\ \hline
被災(10歳ぐらい?) & & \\ \hline
不老長寿の薬を開発(20歳ぐらい?) & あやめ登場(20ぐらい?) & \\ \hline
 あやめと結婚 & 天音と結婚 & \\ \hline
この世を作成 & この世の管理者になる & 誕生 \\
(時期不明) & (時期不明) & (時期不明) \\ \hline
 & & 大学で研究\\ \hline
 & & この世に来訪\\ \hline
 & 知命で死亡(1巻107p) & この世の管理を引き継ぐ\\ \hline
\end{array}
$$

この世は何年存続しているか

さて,登場人物の年齢をいろいろ述べましたが,その理由はこの世が存続している年数を見積もりたかったからです.この世を作ったのは天音・和音兄弟であり,そして天音・和音はともに存命です.和音は処置を受けており若い姿のまま,天音は処置は受けながらもしわしわになってはいるのですが,なんとも時間の経過が推測しにくいのです.一方あやめや蓮華の年齢を使えば,なんとなく推定できると踏んだのです.

この世が存続している年数はおそらく,「杏とアンが成長するまで」「あやめが知命で亡くなるまで」「この世作成からあやめが管理者になるまで」,の三つの和で求められるはずです.

「杏とアンが成長するまで」は,おそらく12年ぐらいでしょう.杏の初登場6歳ぐらいで,物語が完結したのは18ぐらいでしょう.多分これは漫画をちゃんと読めば,具体的な数字が書いてありそうです.少なくともアンが大人になった期間は書かれていたはずなので.ちなみに「杏が成長するまで」=「蓮華がこの世を管理している時間」のはずです.

「あやめが知命で亡くなるまで」は,30年+処置を受けていた時間(サバを読んでいた期間),と考えられます.あやめは初めは処置を受けていましたが,後々中止しました.そしてこの世で50歳とされたときに知命を迎えました.この世では50歳を迎えると,強制的に死亡判定を受けます.あやめがこの世でどれくらいサバを読んだかはわかりませんが,50年-20年(最短で処置を受けた場合の想定年齢が20歳)で30,サバを読んだ部分を多く見積もる,ぐらいの推定はできそうです.

「この世作成からあやめが管理者になるまで」は,さっぱり推測ができません.残念です.

しかし,この推測が間違っていなければ,作品で描かれている部分は,少なく見積もればたったの42年ぐらいらしいです(多く見積もれば無限です).

ちなみに,この世では何名かが知命を迎えているので,それを参考にできそうですが,49歳でこの世に移住した第一世代が,一年たって知命になるケースもあるでしょうから,これもあまり参考にできなさそうです.

文字を失った不思議

不老長寿に反対する気持ちも理解できます.そこから派生して,人類の文明(原発や格差社会反対など.10巻85p)に反対する気持ちも同様に理解できます.だとしても,文字を捨てるのには相当な飛躍があるように思えます.

先述のとおり,この世に移住した人たちは,自身の思想を末代にまで強制させたい,という考えがあったようです(11巻201p).さらにこの世で自然発生したルールに賛同できない人たちはこの世から脱出したとの描写もありました.その結果,この世は(今流行りの)エコーチャンバーのようになったのでしょう.そして,外には世界が無いものとし,かつ万が一外の文化が流入しても被害が無いように,文字を捨てる決心をしたのでしょう.

この世に移住した第一世代が全員死亡することで,従来の文字という概念が消滅するとは思いますが,その後なぜ文字が自然発生しなかったのでしょうか?素朴ではありますが農具や,かなり上等な建築技術も有する文化です.さらに仕事や役職という概念もあるようです.文明レベルは低く見積もっても平安時代程度はあるでしょう.そのような文明レベルで文字が必要とされない(自然発生しない)とは考えにくいです.

そこで一つの仮説として挙げられるのは,文字が自然発生するまでの十分な時間が経過していないこと,です.少なく見積もればこの世はたったの40年程度しか存続できていません.であればまあ納得できます.

また,集落の同調圧力,という説もあるとは思いますが,農具などの道具を使うということは,自身の人生を豊かにする意思があることを意味すると思われます.文字も所詮道具なので,その意思があれば当然生まれるはずでしょう.

知命後の人生の必要性

この世の人間は50歳(知命)になると,死んだ扱いにされます.知命になることはこの世の人間にとって誉れです.そして知命の後には,天国で幸せに生活できる,と信じられています.知命を迎えると(秘密裏に)大人しくされ,樽に入れられ,山中の施設に収容されます.

しかし実際には死んでおらず,あの世に移動され,労働をさせられます.そしてその労働とは,ランド株式会社の生業である,廃棄物や核廃棄物の処理です.作品中には,大量の飛行機を解体する描写がたびたび登場しました.

知命自体は,この世の人間が土着的に生み出したシステムのようです(11巻203p).死ぬはずだった人間を,ランド株式会社が再利用している,というところでしょう.

しかし,わざわざ人間を再利用する必要性はあるのでしょうか?あの世ではかなり高度な文明が成立しているようで,完全な自動運転や,雨をしのぐ大型のドーム,サイズを自由に変えられるディスプレイなど,いろいろあります.このような高度な文明であれば飛行機を解体する機械ぐらい作れそうなものです(実際知命後の人々は,ショベルカーやチェーンソーで飛行機を解体していました.もう少し何かあったでしょ).50過ぎた文明を一切知らない人間を使用するよりも,もっと効率的な方法があるはずです.

また,老化により体調が悪くなった知命の人々は,核廃棄物を処理する施設に連行されるようです.これはなぜでしょうか?例えば除染作業のような危険が伴う作業であれば,老い先短い人間は消耗品として都合がよさそうです.しかし,核廃棄物は外国から仕入れているようで,それらはかなりちゃんと管理されている様子でした.そのため除染作業が必要なものはなさそうですし,何よりもそのような作業は力仕事です.老化で死にかけの高齢者ができる仕事とは思えません.非人道的ですし.

知命を迎えた人間を回収するのは,人道的視点から,という考えもあるかもしれません.であれば核廃棄物を処理する場所で働かせることはないでしょう.

ランド株式会社はなぜこの世を管理しているのか

不老長寿反対派の受け皿として,ランド株式会社によりこの世が作成されました.ではランド株式会社がこの世を管理する理由は何でしょうか?

ランド株式会社は様々な動機で,集落の四方に配置された四ツ神様という巨大な置物を動作させたり,いもち病の稲に対して夜中にドローンで薬剤を散布したり,ドームで気候をコントロールしたり,この世中に配置されたカメラで住民を監視したりしています.そしてこの世は衛星にも映らず,外界からは観測できないようです.これらはの管理は常軌を逸しています.

天音・和音兄弟は「文字が無い文明のその先を見たい」(n巻mp:どこだっけ)と述べています.しかしランド株式会社は株式会社であり,このような非人道的な行為が明らかになった際には,自社の株価が大幅に下落することが考えられます.この動機は,株式会社の代表としてあまりにも軽率に思えます.個人の感想ですが,この世を管理する動機がこれとは,やや納得できません.小さい頃の夢を叶える,といえば聞こえが良いですが,さすがに大人になるまでにはこの程度の倫理観は学んでおくべきです.

ランド株式会社がこの世を管理するメリット

ランド株式会社は,この世の住民がこの世にとどまらざるを得なくなるような管理を,事実上実施しています.四ツ神様を動作させたのも,この世の住民に恐怖を与えるためであり,稲に対して薬剤を散布したのも,この世の住民がこの世の支配者(ランド株式会社の人間)に恭順な姿勢を示したときです.しかし,そのメリットは何でしょうか?なぜランド株式会社はこの世の住民をこの世にとどまらせたいのでしょうか?

不老長寿反対派のために,ランド株式会社はこの世を用意しました.本来,ランド株式会社の彼らに対する仕事としてはこれで完了なはずです.後は不老長寿反対派が好きにやればよいのです.

その後不老長寿反対派は,この世で様々なルールを自発的に作りました.これも彼らが好きにやったこと(「知命も子捨てもその時の空気が作り上げたもの」(11巻203p))です.しかしそれを手助けするような管理には何の意味があるのでしょうか?

ランド株式会社がこの世を管理して得られるものは,50を過ぎた老い先短い労働力と,文字が無い世界の人々の営みを観察できること,たったこの二点に思えます.まるでうまみがありません.

この世を管理するためのリソース全てを廃棄物処理の効率化のために使用したほうが効率的ではないのでしょうか.

またこれは偶然だと思われますが,天音の死後,この世とあの世は交流を取り戻し,そしてアンがランド株式会社の代表を引き継ぎますが,そのタイミングで核廃棄物の効率的な処理方法が開発されています.

ドームは何なのか

この世は大きなドームで覆われています.このドームは以下の性質を持っているようです.
1. 雨を通さない
2. 人はすり抜けることができる
3. 部分的に穴をあけられる

人は通せないが雨は通ってしまう,ならまあ理解できるのですが,まさかの逆です.

また,作中で何回か過去の干ばつが登場しますが,ドームが雨を遮ることで,干ばつを起こさせたことも考えられます.これもまたランド株式会社には何のメリットがあるのかはさっぱりです.

おわりに

何かいろいろ気になる部分を挙げたら否定的な感じになってしまいましたが,そんなつもりはないのです.

1巻で杏が空を飛ぶんだときに遠くに見えたビル街には衝撃を受けましたし,小出しにされる情報には心が踊らされました.あと杏ちゃんはめちゃめちゃかわいいです.口おっきいし.定期的に少女漫画タッチで描かれるのですが,その画風と作品の重さの対比は素晴らしいと思いました.

しかし細かいことが気になってしまったのです….

細かいこと気にしようとすると,作品初めに,動物は夜中でも四ツ紙様に行動を補足されないが人間は補足される,みたいなのがありましたがその理由も気になってしまいました….だって人にはチップが埋まっていないのであれば,人を探すのも画像ベースのカメラ越しのはずで,もしもモーションセンサとか使っていれば人も動物も関係なくとらえられるはずで,であれば動物はとらえられない理由はないわけで….とかもうやめときましょう.

総じて,面白い作品だったと思います.ぜひ読みましょう.

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