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「スプラトゥーン」のチュートリアルを分析してみた

はじめに

だいぶ今更ではありますが、「スプラトゥーン」のチュートリアルを分析してみたいと思います。
スプラトゥーンが発売されたのは、2015年です。
今は2020年、発売されてもう5年もたちますが、スプラトゥーンのチュートリアル動画を見ていて、改めて「ものすごく丁寧に設計されているな」と感じたので、スプラトゥーンのチュートリアルが、どのような意図で作られているかを自分なりに分析してみました。

TPSの3Dゲームを作る時や、新しいゲーム性のゲームを説明する時に、チュートリアルでどのような要素をどのような順番で説明すべきか、という点で参考になると思います。

チュートリアルを分析するにあたって、この動画を参考にさせていただきました。

こちらの0~5分ほどまで最初に見ていただければ、
以下の分析を読むのに理解がスムーズになると思います。


ここからは、チュートリアルを分解して分析していきます。


アバター作成

まずは自分の分身となるアバターを作成します。

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目の色

・性別(ガール/ボーイ)
・肌の色(7段階)
・目の色(7色)
2×7×7の、98パターンの組み合わせから、自分のアバターを作成します。
とはいえ、性別や肌の色は別にしても、ゲーム中にほとんど見えないであろう目の色という細かい物までここで決めなければならなかったのでしょう?
ここでは、「今ここに立っているキャラクターは自分の分身だと認識してもらう」ことが意図だと思います。
そのため、色味が大きく異なる7色から目の色を選んでもらい、「自分の分身である」という認識を強めてもらうことを狙っていると思います。
性別、肌の色、目の色を自分自身で選択して98分の1のアバターを作ることで、「このイカは自分の分身である」と自然と認識してもらえるだろう、と設計したのだと思います。

ゲームの大目的を提示

ゲームの大目的を示す

アバターを選んだ後は、さっそく「ゲームの大目的」を提示してます。
初っ端でゲームの大目的を伝えているのは、モチベーションの喚起と維持が意図だと考えます。
マリオでも一番最初のコースが始まる前に、ピーチ姫がクッパにさらわれて「ピーチ姫を助けること」がゲームの大目的となりますが、これを最初に提示するのは重要です。
これがないと、まずゲームを先に進めようという行動促進にならないですし、ゲームをしている最中に、急に「俺はなんでこんなゲームを頑張っているんだろう・・・」と自然と頭の中で目的を探し出し、それが見出だせないと「こんなゲームをやっていても意味がない」とゲームを辞められてしまいます。
そうならないために、「あなたはこのゲームでこういう目的を達成してもらいますよ」と大目的(=ゲームクリア)を提示します。
そうすることで、プレイモチベーションを保ちます。

スプラトゥーンでの大目的は、「イカしたヤツになる」こと。
「イカしたヤツ」とは、ここで示されているキャラクター達のように、「オシャレで強い」こと。
ここでプレイヤーに「あぁ、このキャラクター達はイカしたヤツだな」と感じてもらうことが超重要なのですが、(感じてもらわなければ目的をプレイヤーのものにしてもらえていない)プレイヤーたちに、ここに出てくるキャラクターたちを「魅力的だ」と感じさせるような意図的な設計になっています。
それはなぜかというと、ここに出てくるキャラクターの髪の色合いが、
先ほど作成したアバターの選択肢(ボーイ=青、ガール=オレンジ)になかったからです。
ピンクや黄緑色の髪はそもそも色としてなかったですし、ボーイでオレンジ色の髪も選べませんでした。
そして、強力そうな武器も持ち合わせていません。
今の自分では実現ができそうにない姿を見せられることで、自然と憧れを持つようになります。
そのため、「イカしたヤツになる」は、スプラトゥーンを始めるプレイヤーにとってゲームの目的になりうるのです。

ダサい

そして、「ハッキリ言って・・・まだキミはダサい!」とまで一刀両断されてしまいます。
(ただ、ここでそれほど腹立たないのは、直前に見せられた「イカしたヤツ」と、自分で目の色などを決めていた時のアバターを比較すれば、「イカしてないのも無理ないな」と腹落ちするからです。)
このようにして、「オレはイカしたヤツにならなければ・・・!」とゲームを進める目的が出来上がります。

立ったまま風船を壊す

ゲームの大目的を提示されて腹落ちした所で、さっそくチュートリアル開始です。

エイムと射撃の説明

まずは、このゲームで最も大切なアクションとなるエイム(照準を合せる動作)のやり方を1番最初に教えています。
多くの3Dゲームでは、よく「移動」を1番最初に教えることが多い印象ですが、スプラトゥーンでは「エイム」です。
これは、「スプラトゥーンではエイムが1番重要なアクションであること」を伝える意図があるからだと思います。
確かに、スプラトゥーンでは床を塗るにしろ、敵を倒すにしろ、エイムというアクションが基本であり重要です。(照準が合わないと狙った物・場所にインクが打てないため)
そして、スプラトゥーンではデフォルトではジャイロ操作設定がなされています。
エイムアクション+ジャイロ操作に慣れてもらうため、移動すらさせずに、立ったまま正面の風船を狙わせます。
こうすることで、エイムを正面に合わせるためには、コントローラーをどのくらいの位置に構えれば良いのかの感覚を掴んでもらいます。


左バルーン

目の前の風船を壊すと、次は左側にバルーンが出てきました。まだ歩かせてくれません。

右バルーン

左側に浮いていたバルーンを壊すと、次は左側にバルーンが出てきました。
こうすることで、左右のエイム感覚を掴んでもらいます

移動してバルーンを狙う

移動

バルーンを壊し終えて、やっと移動させてもらえるようになりました。

移動後正面バルーン

階段を降りると、目の前にはバルーン。
ここにバルーンを置いているのは、さっき移動をする前に感覚を掴んでもらった、「正面に照準を合わせる」をここで復習してもらう意図があるからです。
すでにエイムの感覚には慣れているはずなので、バルーンを狙うのは難しくないと思います。


90度の直角を曲がる

左右を見回そう!

バルーンを壊して進むと、左に直角に折れ曲がるようにして階段があります。(また、「←」の矢印看板が見えます。)
ここにも意図があります。
ここでは、Rスティックを回すことで、視野を変えることに慣れてもらうことが意図です。
ここに来るまでは、せいぜい正面に対して左右45度くらいを見渡せば十分でした。
ただし、本番では視野の外側にいる敵に対して照準を合わせる必要も出てきます。
そのため、Rスティックを回して視野を変える操作に慣れてもらうために、このように90度に曲がる必要のある道を用意しています

180度振り向く

カメラ正面リセット

道を進むと、壁に突き当たります。
180度ぐるっと回って進む必要があります。
ここでは「視点リセット」を教えています。
直前では90度のカメラ回転を教えて、次はさらにその動作を発展させて180度回転させることを求めています。
こうすることで、直前のカメラ操作を踏まえながら視点リセットを駆使してカメラを180度回転させるため覚えることが難しくないようになっています。

イカになって泳ぐ

広場

基本のエイムと移動方法、カメラ操作に慣れた後に待ち構えるのは、だだっ広い広場です。

この広場は、インクが塗られていない部分が多いです。
この意図は2つあると思います。
1つ目は、インクが塗られていない場所でのイカの操作感を体験してもらうためです。
もし、仮にこの広場が全てインクで塗られていたら、プレイヤーはイカになってインクの中をスイスイ泳ぐことができるでしょう。
しかし、これだと、「インクが無いところでイカになった時はどのような操作感になるのか」が体験できません。
そのため、インクが無いところでもイカになってもらって、「インクが無い所でイカになると、こんなに動きが遅くなるんだな」と体験してもらうために、インクが塗られていない場所を確保する必要があるのです。
だから、簡単には塗りきれないほどの面積の広場があり、デフォルトでインクが塗られている箇所はちょびっとしかありません。

2つ目は、「自分で塗った床にも潜れる」ことを教えるためです。
これも初めからインクで満たされている床だと、「自分で塗った床に潜る」という体験をすることができません。
そのため、あえて広い広場にほとんどインクが塗られていないのです。

壁を上る

壁移動

広場を進むと、自分の身長よりも高い壁の向こうに風船が置かれています。
壁の下からインクを発射しても、インクは風船に届きません。
ここでは「壁を塗ってインクを泳いで壁を越える」体験をしてもらうことが主眼に置かれています。

そして、その体験が自然に覚えられるように設計されています。
まず、壁を上ることを知らないプレイヤーは風船を壊そうとインクを発射します。
インクは風船には届かないですが、目の前の壁にはしっかりインクが当たります。
その上で、「インクを塗ればユカもカベもスイスイ泳げる!」という説明テキストが表示されているので、プレイヤーは風船が壊せなくても「この塗られたインクを泳げばいいのかな」と開発者の意図する行動を取ってくれます。

段差をジャンプする

ジャンプ

次に見えるのは段差です。
ここでは、「人間でのジャンプとイカのジャンプ操作を体験してもらう」意図があって、このような地形になっています。
段差の高さは、今まで見てきた壁よりも大幅に低い高さです。
そのため、「この段差はインクを塗ってイカにならなくてもそのままジャンプできそうだな」と自然と思える高さになっています。
そのため、多くのプレイヤーは自然と人間のままジャンプをするでしょう。
まずは人間でジャンプをしてもらうことに成功しました。

次にイカのままジャンプしてもらうための工夫を分析します。
段差を無視してそのまま行こうとすると、ガラス張りの建物の上に風船が置かれているのが見えます。

イカジャンプ

プレイヤーは今までの経験から、自然とこの建物の下から風船を狙ってインクを打とうとしますが、インクは風船には届きません。
また、ガラスにインクを打ってもインクは塗られずに流れてしまい、先ほど習得した「壁を泳いで上る」こともできません。

壁を泳いで上ることができないことが分かると、次にプレイヤーがしようとするのは、「段差から飛ぶ」ことです。
なぜならこの段差がガラスの建物と同じ高さになっているからです。
段差を横から見ると、ガラスの建物に向かって少し傾斜がついていることが分かります。

イカジャンプ2

傾斜がついていることで、「ここから飛べば良いのかな」と自然と思わせる形になっているため、プレイヤーが迷わない設計になっています。
そして、先ほど人間でジャンプして、人間のジャンプ力は経験済みなので、「イカでジャンプするとどうなるだろう」と思考を巡らせます。
この結果、イカでジャンプしてガラスの建物の上に行くことが成功します。

ここでも、プレイヤーに覚えてほしいアクションをどのようなストーリーで覚えてもらうかを丁寧に考えた設計になっています。


90度の直角を曲がる

左直角

そしてガラスの壁を越えて風船を割った後は、左向きに直角に道が曲がっています。
これはチュートリアルの序盤で覚えた「カメラ操作をしながら直角に曲がる」の復習になっています。

イカでカナアミをぬける

金網で抜ける

チュートリアルも終盤です。
次は「イカで泳いでカナアミをぬける」アクション。
この終盤に持ってきている意図は、アクションとしての頻出度が低いためだと考えられます。
「平面を泳ぐ」、「斜面や垂直面を泳ぐ」、「泳ぎながらジャンプ」というアクションの方が圧倒的に重要なため、それまでのチュートリアルで重要な動作を覚えてもらった後に、アクションとしては頻出度が少し低いが覚えておいてもらいたい「カナアミを抜ける」という動作をこの終盤に持ってきています。

インクを塗り返す

違う色のインクを塗り替えせ

「エイム」、「移動」、「カメラ操作」、「イカで泳ぐ」、と基本アクションを一通り覚えました。
次に待っているのが、大部分が紫色で塗られた空き地です。
ここでは、「違う色のインクを踏むと動きが遅くなる」体験をしてもらうこと、「基本ルール」を教えることが意図にあると思います。

空き地に降りるとそのほとんどが違う色のインクで塗られているため、自分の色のインクで塗り返さないと、確実に足が取られるようになっています。
こうすることで、「違う色のインクの上を歩くとどうなるか」が体験できるようになっています。

そして、その違う色のインクを塗り返してもらうことで、スプラトゥーンの「たくさん塗った方が勝ち」という「レギュラーマッチ」の基本ルールを教えることにも繋がっています。

UFOの裏側

また、この空き地にはデカいUFOが地面に突き刺さっています。
なぜこのような地形にしたかというと、「塗り残さないようにしてもらう」ためだと思います。
UFOの裏側を見ると、インクが全く塗られていません。
レギュラーマッチのルールであれば、ここも塗った方が有利です。
そのため、「本番では隅々塗ることを忘れないでね」という開発者のメッセージになっていると思います。

ボムを投げる

ボムアクション

最後はボムアクションです。
壁に敷き詰められている木箱をボムで破壊し、壁を塗って上へ登って行きます。
新しいアクションである「ボムを投げる」と、すでに習得済みの壁にインクを塗って上へ上がるアクションの組み合わせを行うことで、程よい難易度になっていると思います。
それだけでなく、一工夫されていてすごいなと思うのが、「シオカラーズのシルエット」です。

世界観への誘い

プレイヤーがインクを塗る壁にはシオカラーズのシルエットが描かれたポスターを貼られています。

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「シオカラーズ国民投票! アオリ vs ホタル」/Splatoon公式Twitter(@SplatoonJP)より

スプラトゥーンを象徴するキャラクターをチラ見せしていることで、世界観への誘いを暗に行っています。

スーパージャンプ

スーパージャンプ

そして最後に「スーパージャンプ」です。
スーパージャンプによって場所を明らかに変えることで、
「チュートリアルはこれで終わって、ここからは本番へ移行する」ということを伝えています。


まとめ

ここまでかなり細かくチュートリアルを見てきましたが、
それらを覚えるアクションとセットでまとめてみました。

▼チュートリアルの順番
・立ったまま風船を壊す(エイム+ジャイロ操作、インク発射)
・移動してバルーンを狙う(移動、エイムの復習)
・90度の直角を曲がる(カメラ移動)
・180度振り向く(視点リセット)
・イカになって泳ぐ(インク発射+イカ泳ぎ)
・壁を上る(インク発射+イカ泳ぎ)
・段差をジャンプする(人間でのジャンプ、イカでのジャンプ)
・90度の直角を曲がる(カメラ移動の復習)
・イカでカナアミをぬける
・インクを塗り直す(違う色のインクを踏む体験、基本ルールの説明)
・ボムを投げる(ボムアクション、壁を上る、世界観への誘い)
・スーパージャンプ(チュートリアルの終了、本番への移行)

チュートリアルを分解すると、スプラトゥーンはどんなアクションが重要なゲームで、それに付随する重要な動作は何なのかが十分に理解できました。

途中でも書きましたが、プレイヤーに覚えてもらいたい動作と、それをどのようなストーリーで覚えてもらうかを丁寧に考えて設計することで、新しいゲーム性のゲームでも難なく覚えることができるのだなぁ、とても優しいチュートリアルだなぁと思いました。

それにしてもここまで細かく丁寧に考えられていて、本当すごすぎる・・・感動しました。

以上スプラトゥーンのチュートリアル分析でした。

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