CEDEC2020で勉強になったセッションの感想まとめ(プランナー視点)
CEDEC2020で見たセッションで、特に勉強になったものの感想をまとめます。
CEDECとは?
「CEDEC」(セデックと読みます)とは、"Computer Entertainment Developers Conference"の略称で、言うならば「ゲーム業界のおおきな勉強会」です。
毎年8月後半~9月頭の時期に、近年はパシフィコ横浜で開催されています。
ゲーム業界の関係者が一堂に会し、ゲーム開発の技術を交換し合います。
今年はオンライン開催になって参加障壁が格段に低くなったし、また物理的な会場の移動や横浜パシフィコへの行き来も無いので、たくさんのセッションを受講することができました。
セッション感想まとめ
今回、プランナー視点で特に勉強になったセッションを6つ紹介します。
せっかくなので、6位から順にランキング形式で発表しようと思います。
第6位:「運営がコンテンツ化する時代 ~2020年代 ポストソーシャルゲーム時代に向けて~」
DeNAの「逆転オセロニア」を運営するプロデューサーさんが、オセロニアのこれまでの運営と、今後のゲーム業界の運営について語ったセッションです。
オセロニアではゲームを運営するにあたって、特にユーザーコミュニティの活性化を念頭に置いていて、そのためにオフラインイベントや開発方針の説明など、ユーザーと運営が物凄く近い距離で運営を行っている、ということが語られていました。
このセッションで特に強調されていたのは、「ユーザーに対してちゃんと向き合う姿勢」です。
アズールレーンの不具合についての説明がとても丁寧で話題になったこともありましたが、やはり運営がユーザーに対して説明をちゃんとしてくれると、遊んでいる方も安心して好感を持てますよね。
さらに興味深かったのは、「ポストソーシャルゲーム時代の5大予想!」と題して、次世代のゲーム運営のあり方について論じていたところです。
特に「『お金の使い方』が最大のマーケティング手法になる」という予想は、確かにそうだなぁと感じました。
まさにクラウドファンディングが世の中に定着してきているように、自分たち(ユーザー)が払ったお金がどうゲームに還元されるか、というのは「できることなら長くゲームを遊びたい」と思うユーザーにとってはとても大きな関心事です。
そこを、オセロニアチームのように「こういう方針でゲームを発展させていきますよ」としっかりユーザーに説明できるかどうかが、お客様に長く遊んでいただくための大きな要素になる、という話です。
完全レッドオーシャン化したモバイルゲーム市場では、毎月のようにサービス終了のニュースが飛び交います。
「このゲームはいつまで続くのか」と不安になりながら遊ぶユーザーも少なくないと思いますので、ますます「運営はどんな方針で、何を考えて次にお客様を楽しませようとしているのか」をしっかり説明できるかどうかが重要になってくると思います。
第5位:「『あつまれ どうぶつの森』~シリーズにおける伝統と革新の両立を目指すゲームデザイン~」
5位は、「あつまれ どうぶつの森」のゲームデザインに関するセッションです。
「どうぶつの森」の面白さの根幹はどこにあるのか、それをシリーズを経るごとにどのように発展させていったのか、そして「あつまれ どうぶつの森」ではどこを意識して前作から進化させたのか、について語られました。
また後半では、そのゲームデザインを成し遂げるために、どのような開発体制で開発を進めていたのか、という話をされていました。
このセッションで勉強になったことは、「どうぶつの森」のコンセプトについてでした。
序盤、開発者の方から
「どうぶつの森は、どんなゲームだと思いますか?」
という問いかけけがされました。
視聴者には「借金返済ゲーム」や「のんびりゲーム」というコメントがある中、僕の認識も「ゴールのないゲーム」というフワッとした感じでした。
それに対して、開発者の方は「どうぶつの森は、コミュニケーションをテーマにしたゲームです」とキッパリ言いました。
要するに、「自分と一緒に暮らすどうぶつが他のユーザーの村に引っ越しして、自分の生活ぶりについて噂話する」というシステムによって、ゲーム外でのコミュニケーションを生んでいるゲームだということです。
借金を返済したり、のんびり暮らすのはあくまでこのコミュニケーションを生むための土台です。
これに対して、「そういうことか!」と僕の中で点と点がつながったような感覚になりました。
「どうぶつの森」というゲームに対して、なんとなく分かっていたようで、でも上手く言語化できないモヤモヤした感覚を、「コミュニケーション」という言葉でバシっと説明されたので、「どうぶつの森」に対しての理解度がグッと深まりました。
確かに、特に「あつまれ どうぶつの森」ではSNSでも相当な関連ツイート数を誇っていますが、それ以上に、ユーザーたちの友達や家族との直接的なコミュニケーションはあつ森によって相当生み出されたのではないでしょうか。
ちなみに僕は以前、「あなたはなぜどうぶつの森にハマるのか?」というシステム的な分析はしましたが、ゲームデザインとしては「コミュニケーション」という解に至っていないので、一歩及ばずというところです。
それにしても、「コミュニケーション」というコンセプトに対して、「自分と一緒に暮らすどうぶつが友達の村に引っ越して、そこで噂話したら面白くない?」というゲームデザインに至ったのがもう凄すぎてその開発現場にいたかったです。
このセッションでのとても大きな学びでした。
第4位:「『どうぶつの森』シリーズにおけるサウンドの変遷~音と音のスキマで共鳴するサウンドデザイン~」
このセッションでは、サウンドの設計方法について学ぶことができました。
サウンドについては専門知識がほとんど無いので、ゲームの音を作る時にどのような考え方で組み立てていくのか検討がつかなかったのですが、このセッションを見て「なるほど、あつ森ではこういう設計をされたのか」と、ゲーム音作りの1つの例として学べました。
あつ森のゲームデザインのセッションでもお話されていた、「あつ森はコミュニケーションゲームである」というところからスタートしていて、
コミュニケーションゲーム
↓
遊び手の自由な感情の介入ができるゲームを目指す
↓
抒情的(特定の感情が呼び起こされる)なサウンドは避けよう
↓
音の情報量を抜いて、「スキマ」のあるサウンド作りを目指そう
という結論に至っています。
そのため、BGMもメロディラインを構成する音は残しつつ、その音へ滑らかに入るための直前の半音などの音はバッサリカットされています。
当たり前ですが、ゲームサウンドもコンセプトからしっかり落とし込まれていて、サウンドを作る過程を見ることができたので大変勉強になりました。
第3位:「カービィUIでおもてなし!「ゲームとプレイヤーを繋ぐUI」を目指して」
カービィのUIを作る際の考え方について解説されたセッションでした。
前半はUIデザインの基礎基本がカービィUIにもしっかり取り入れられていること、後半はカービィらしいUIを目指すための考え方について解説されていました。
特に学びになった部分は、2つありました。
1つは、「文字を読まなくても内容がわかる表現にする」ということ。
難易度を自分で調整する画面で、「やさしい」と「難しい」を表現するために、カービィUIでは「カービィの表情」と「辛さ」を使って難易度を表現していました。
難易度がやさしい場合は、カービィは微笑んでいて、甘口カレーが表示されています。
対して難しい場合は、カービィの表情は鬼のような表情になり、カービィがカレーにデスソースをかけています。
これをパッと見ただけで、「簡単そうだな」「難しそうだな」というのが直感的に伝わりますよね。
このような直感的な表現は分かりやすいだけでなく、遊び心もちゃんと反映されていて、とても良いUIだなと感じました。
もう1つの学びは、カービィUIのコンセプトです。
カービィといえばかわいいイメージを持つ方が多いと思いますが、開発者の中では「かわいいよりもあたたかい」を重視しているとのことです。
そのため、鋭利な表現は避けて、全体的に丸みを帯びさせているということでした。
そして色んなシリーズ作品のゲーム画面を例に説明されていましたが、たしかに、カービィのUIはファンタジーRPG風のテイストやサイバー感の強いテイストなど、作品によってかなりテイストが変わっていて、その中で「かわいい」よりも「あたたかい」の方がしっくり来る画面になっているな、と改めて思いました。
第2位:「~混ぜるな危険!~ゲームとフィットネスを両立させるゲームデザイン~」
このセッションは、個人的に期待度が1番大きなセッションでした。
ゲームデザインの話であり、しかも要素と要素を混ぜる、という話は中々聞けるものではないので、とても楽しみでした。
セッションの中身は、「ゲーム×運動」で混ぜようとしたところ、
「ゲームらしさを出すと運動としては物足りないし、運動らしさを出すと、『それYou Tubeのフィットネス動画でいいんじゃない?』となるし、しかも商品としての新規性も物足りないのでどうしたものか・・・」
という壁に当たった結果、どのように乗り越えていったか、という話です。
このセッションでの最大の学びは、UXデザインです。
ネット上には「UXデザインとは」みたいな話が大量にありますが、僕はこのセッションを見て、「UXデザインを学びたかったらこれを見よう」と言いたくなるくらい、お手本のようなUXデザインをしていました。
先ほどのぶち当たった壁に対して、結果的に開発チームは
「運動であるが、ゲームではない、ただし面白い」
という舵取りをしていきます。
この方針を実現するために、
「『ゲームを遊ぼう』という気持ちではなく『運動をしよう』という気持ちでこのソフトを起動してほしいので、なるべく現実とリンクしたものとして体験できるようにしたい」
「ゲームは、ボタンの1押しでめちゃくちゃ気持ち良い反応が返ってくるので、このゲームでは1回の運動がめちゃくちゃ気持ちよくなるようにしたい」
というUXデザインをします。
このUXデザインに対して、
「ゲーム本編はファンタジーぽいけど、前後は現実感のある空間」
「1回のスクワットに対して、めちゃくちゃ派手なフィードバックを10数個盛る」
ということをやっていました。
具体的には記事を見てほしいのですが、このUXデザイン~UIや演出の調整の流れがとても綺麗で、(実際の開発はもっと試行錯誤したと思いますが)心の中で拍手していました。
・・・という感じで、ゲームのUXデザインを学べるセッションでしたので、興味のある方は見てみてください。
第1位:「『あつまれ どうぶつの森』のアートができるまで~想像を膨らませる記号的デザイン・かわいいだけじゃないだなも~」
このセッションはめちゃくちゃ感動しました。
他のセッションもそうですが、任天堂のゲーム作りはどこまでも論理的で、すごいなぁと関心させられるばかりです。
1番大きな学びだったのは、オブジェクトのデザインについてです。
個人的にはここが1番感動しました。
あつ森のオブジェクトは、デフォルメがまぁまぁ効いている物(机など)から、かなり写実的な物(魚、虫など)まで、表現に幅があります。
同じカテゴリに属する物同士(例えば家具)でも、デフォルメのかかり具合には幅があります。
なぜこのような表現の幅があるのか、ということについて解説してくれました。
結論からいうと、「そのものらしさを表現するために必要なデフォルメ具合を選択している」ということです。
というのも、オブジェクトにそのものらしさがあることで、ユーザーは「こういう空間を作りたい」というあつ森でやってほしい遊びの思考になることができるのです。
セッションでは昔ながらの「押しボタン式扇風機」を例にとっていましたが、すべてを写実的に表現するのではなく、ユーザーが「あぁ、これは昔の扇風機だ」と思える要素はどこにあるかをキッチリ押さえて、それ以外はデフォルメをかけてもOK、というデザインにしています。
昔の扇風機の「そのものらしさ」を表す象徴的なものとして、例えば「ボタンの中央部が凹んでいる」とか「指入れ禁止シール(あの丸いやつ)が貼られている」とか、そういうものが挙げられますよね。
あつ森では、そこはキッチリ表現しているんです。
だから、僕たちは「これは昔の扇風機だ!どんな部屋に飾ろうかな・・・」と、自然と遊びの思考になることができるのです。
そして、地形の話も印象的でした。
あつ森では自分のキャラクターがいる近景~中景が見えるのは当たり前ですが、後景がかなり湾曲していて、向こう側がよく見えます。
もちろんこれにも理由があって、その理由とは「遊びのきっかけとなるものがよく見えるようにするため」です。
遠くでどうぶつたちが話していたり、虫が飛んでいたりすると、気になってそっちに見に行きたくなりますよね。
・・・という感じで、僕たちプレイヤーに遊びのきっかけを最大限に与えている画角になっているんです。
これには「ほー」と感動しました。
どうぶつの森の地形はとても独特な形をしているのは分かりましたが、そういう意図があったのは勉強になりました。
このようにして、あつ森のデザインはコンセプトからしっかりと論理的に落とし込まれていることが分かります。
だからこそ、僕たちユーザーはデザインに対して違和感を持つことがなく、あつ森の遊びに集中できるんだなぁ、と感じました。
・・・という感じでつらつらと感想をまとめてみました。
CEDECのセッションには、「資料をSNSには載せないで!」というものもあるため、基本文字ベースでの紹介となってしまいましたが、関連記事は載せているので、もし気になったセッションがありましたら記事を読んでもらえればと思います。
来年も楽しみ!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?