コロナ禍で、医療現場に真に役立つフェイスガードを届けよう! ④: PROTECT製作ラボPart1
【承】 製作ラボの取り組み Part1
フェイスガードフレーム編
匠の技を生かし
医療従事者が安全で快適に診療を行うための
製品を設計・製作する
■製作ラボの役割
「PROTECT」プロジェクト製作ラボは、合い言葉「Be 職人」を旗印として、工学的知見を有するメンバーの経験と技術を生かして、医療現場探索チームが探索したニーズとフィードバックによる医療現場の声を、フェイスガードの製品の「かたち」に反映させる役割を担っています。
■用語解説
フェイスガードはフレーム部とシールド部の2つのパーツに分かれます。フェイスガード、フェイスシールドなど様々な用語が使われていますが、我々のプロジェクトでは以下の様に定義しています。
フェイスガード:フレームとシールドを合わせた顔面の感染防護具全体
フレーム部:3Dプリンターなどで作った頭部に固定するための枠
シールド部:顔前に置いた飛沫を防ぐための透明プレート。
(混乱を避けるためフェイスシールドという用語は使いません。)
Part 1ではフレーム製作についてご紹介します。
シールド部の製作についてはPart 2(リンク)をご覧下さい。
■製品に求められる仕様
フェイスガードを製作するにあたり、医療現場探索チームがサーベイした医療現場のニーズをもとに、フェイスガードに要求される仕様について検討したところ、製品には3つの要件が必要ということが分かりました。
1)再生利用可能な丈夫さを持ち合わせていること
2)再生利用するための消毒に耐えうる材質であること
3)堅固でありながら快適にフィットする適度な硬度であること です。
■3Dプリンターによる製作に適した状況は?
その頃3Dプリンターを用いてフレームを作成するというプロジェクトは既にそこここで報告されていました。一方で、カチューシャをフレームに用いるというような簡易型フェイスガードの報告も見られており、「そもそも、フェイスガード製作に3Dプリンターを用いる必要があるのだろうか?」という疑問もあがりました。
■3Dプリンター製作のメリットとデメリット
そこで、3Dプリンターによる造形のメリットとデメリットについて考えてみることにしました。
【メリット】
・個人でも容易に欲しいものがデザイン・製作できる!
3Dプリンターによって、個人でも立体を造形できるようになり、自分の欲しいものを容易に形にできるようになりました。アイデアを形にすることで、さらに新たなアイデアが生まれるきっかけにもなります。
・開発期間と試作品開発コストを削減できる!
これまではあらかじめ設計を吟味し、試作品を作る工程を外注する必要がありましたが、3Dプリンターによって自身で試作品を作れるようになり、スピーディーにデザインの検証を行うことができます。
・製作後のテスト・検証が容易である!
製品リリース後の改良も容易なため、使用現場からフィードバックをもらい、製品を改良し、さらなる品質向上をめざすことが可能です。
【デメリット】
・層間の結合が脆く、強度面で制約がある!
一層一層樹脂を積み重ねて造形するため、強度面に問題があり、また造形方式により製作できる形状に制限があります。
・製作できる造形サイズに制限がある、、
造形のサイズは、プリンター機種に依存しますが、一般的にあまり大型の製品は製作できません。
・大量生産に向いていない、、
一層一層樹脂を積み重ねて造形するため、ひとつの製品を製作するために時間がかかり大量生産に向いていません。また大量生産によってコストが下がらないこともデメリットの一つです。
よって3Dプリンターの強みが最も生かされるのは
「比較的小型で、大量生産の必要が無く、製作時間・コスト面がそれほど追求されない製品。オーダーメイド・個別化することで付加価値が高くなる製品」 ということになります。
■3Dプリンターの4つの特性
いちがいに、「3Dプリンター」と言っても、液体の樹脂に光(紫外線)をあてて硬化させたり、固体の樹脂を熱で溶かし積み上げたり、レーザーで焼結したり、立体物を造形する手法は様々です。その際には以下の4つのポイントを考える必要があります。
・造形方式 (3D印刷の方法)
3Dプリンターには主に以下の5つの造形方式があり、各々特徴とメリットが異なります。3Dプリンター機器の値段も使用できる材料(樹脂)の種類も異なってくるため、製作のコストも大きく異なります。
01. 熱溶解積層方式:FDM(Fused Deposition Modeling)
02. 光造形方式:SLA(Stereo Lithography Apparatus)
03. 粉末積層方式:カラージェット・プリント方式
04. インクジェット方式:マルチジェット・プリント方式
05. 粉末焼結積層造形方式:(SLS(Selective Laser Sintering)
現在では、現在市販されている3Dプリンタでは 01. 熱溶解積層方式と02. 光造形方式が主流となっています。
各造形方式の詳細な説明は、↓のキャノンによる解説をご覧下さい。
■どの3Dプリンターを使うのか?
PROTECTでは以下の場所で3Dプリンターの利用が可能でした。
① 宮武さんら東大工学部チーム:熱溶解積層方式(Ender-3 Pro)
② 東北大学病院内の歯科技工室:熱溶解積層方式(MakerBot)
③ 東北大学医学部共通機器管理室: 光造型方式(OBJET30 Prime)
どの機器を使うか、以下の点を考慮しました。
・精度 フェイスガードではそれほど細かい精度は必要ない
・スピード スピードと大量生産をめざすのであれば、3Dプリンターは×
・素材の硬度 使用する樹脂はいずれも十分な硬度と弾力性あり
・製作コスト
熱溶解積層方式Ender-3 Pro・MakerBot 約30円/1個
光造形方式OBJET30 Prime 約3000円/1個
・機器へのアプローチ コロナ禍でも利用可能?
総合的に考えると、フェイスガードを製作するという条件においては、精度・スピード・加工性などの特性の違いは特に問題とならず、一方で、100倍も高いコストを払って光造形方式を採択するメリットはなく、熱溶解積層方式のプリンターを使用することを選択しました。
また新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため東北大学病院への出入りが制限される条件下では、アプローチのしやすい個人所有のEnder 3 Proを使用しようという結論に至りました。
■3Dプリンター達人の存在!
PROTECTメンバーの宮武茉子さんは、3Dプリンターを用いた研究を専門としており、3Dプリンターの高度な技術と知識をもちあわせる製作ラボの技術顧問です。自宅にEnder 3 Proをなんと2台も所有し、その愛機の改造を趣味としているほどの“3Dプリンターおたく”で、このノウハウを生かさない手はありません。
東京大学工学系融合情報学専攻修士 宮武茉子さんのHPはこちら!
Ender-3 Pro
宮武さんおすすめのEnder 3 Proはコンシューマー機としてコストパフォーマンスが高く、将来的に東北大学メンバーでも購入し、宮武さんのノウハウを共有しながら、製作ラボの活動拠点を増やしていくことが可能です。
■医療ニーズを見据えた製作の方向付け
一方その頃、医療現場探索チームと製作ラボとで、合同ミーティングが行われ、医療現場で真に必要な課題を解決するために、PROTECTがめざすべきフェイスガード製作の方向性が議論されました。
新型コロナウイルス感染症下でフェイスガードが使用される場所は、
①多人数に対し短時間使用する場所
ドライブスルーPCR検査場、感染疑い患者の外来診療など
②少人数に対し長時間使用する場所
感染症受け入れ病棟、重症者治療を行う集中治療室など
があります。
我々は当初、フェイスガードを大量供給することを想定していましたが、①のような環境では既に企業からフェイスガードが供給され、比較的充足していることが判明しました。
東北大学病院では、主に新型コロナウイルス感染症の重症患者の診療を行っており、特に集中治療室では、人工呼吸器や体外式膜型人工肺(ECMO)などの人工生命維持装置を用いて、重症患者の治療と管理を行っています。医療従事者は常に感染のリスクにさらされており、徹底した感染管理が必要となります。
ファシリテーター教員である志賀卓弥先生は、集中治療室で診療を行う医師で、新型コロナウイルス感染症の最前線の情報を我々に供給してくれています。
これまで3Dプリンターで提供されたフェイスガードは、着け心地が悪く、集中治療室での長時間の使用には耐えがたい
という情報をいただき、現状の課題が浮き彫りとなりました。
■我々の強みを生かそう!
東北大学未来型医療創造卓越大学院プログラムに関わるPROTECTのメンバーは、医療現場の課題解決のノウハウを持ち合わせています。ファシリテーター教員や大学院生の一部は、大学院研究科の所属と同時に病院の医療スタッフでもあるため、新型コロナウイルス感染症治療の医療現場から生の声を聞くことができます。
「東北大学未来型医療創造卓越大学院プログラム」詳細は↓をクリック
一方、3Dプリンターの専門的な知識と技術をもつ工学系のPROTECTメンバーによって、フェイスガードの「個別化」の利点を生かし、重傷者治療を行う過酷な医療現場での長時間の使用を想定した高性能のフェイスガードをデザイン・製作することが可能です。
我々がもつ強みを最大限に生かして、3Dプリンターを用いてフェイスガードを製作するプロジェクトの方向性が定まりました!
「新型コロナウイルス感染症の重症患者治療を行うリスクの高い医療現場で、安全かつ快適に長時間の装着が可能な、医療スタッフひとりひとりにテーラーメイドで高性能なフェイスガードを製作しよう!」
いよいよ、製作ラボによる3Dプリンターを用いた高性能フェイスガードの設計と製作の取り組みが始まります。【転】の章をご覧下さい!
Part 2 フェイスガード_シールド編はこちら
■参考ページ
3Dプリンターとは
https://cweb.canon.jp/solution/biz/trend/3dprinter01.html
3Dプリンターって結局どうなの?わかりやすく解説
http://www.rakudo.io/blog/index.php/2018/06/12/post-1086/
比較して選ぶ!おすすめの業務用3DプリンターGUIDE
http://www.recmbus-3dprint.com/
3Dプリンターの比較表(価格・特徴)をまとめてみました!2020年度版
https://cad-kenkyujo.com/2020/02/18/3dprinter-3/
■メンバー紹介
<学生>
・宮武 茉子 東京大学大学院工学系融合情報学
・小林 直裕 医工学研究科 Slack連絡係/3Dプリンター製作班担当
<ファシリテーター教員>
・金高 弘恭 歯学研究科
・沼山 恵子 医工学研究科
・松本 洋太郎 薬学研究科
・角谷 倫之 放射線治療科
文章作成:FM卓越プログラム2期生 高橋健吾
文責:FM卓越ファシリテーター教員 植田琢也(プロジェクトリーダー)
■■■■------------------------------------------------------------■■■■
本プロジェクトにご興味のある皆様からご連絡をお待ちしております。
【ボランティア】
・本プロジェクトの活動に賛同していただける方
【プロジェクト運営者】
・新型コロナウイルス感染症関連のプロジェクトを立ち上げており、本プロジェクトと連携・協力して活動していただける方 (新型コロナウイルス感染症関連のプロジェクトではないが、本プロジェクトに賛同いただきご協力いただける方のご連絡もお待ちしております)
【資金援助】
・本プロジェクトの活動に賛同し、プロジェクト運営の資金援助をしていただける方 (企業・個人問わずご連絡お待ちしております)
【企業】
・本プロジェクトの活動に賛同していただける企業の方 (我々が現場探索・製作を行う上で得たノウハウや情報などをご提供いたします。まずはご連絡ください)
【お問合せ先】
PROTECT (PROactive To Emerging COVID-19 in Takuetsu)
E-mail: protect19_fmhc*grp.tohoku.ac.jp
(「*」を「@」に変換してください)
代表:プロジェクトリーダー 植田琢也
■■■■------------------------------------------------------------■■■■
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?