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命に換えてでも守りたいほど大切なもの

「命に換えてでも守りたいほど大切なもの」はあるだろうか。

人はナシだ。モノ。あくまでも物体に限る。

わたしにはある。

命と引き換えにすることは出来ないが、ほど近く大切にしているものがある。


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わたしは北海道釧路市という地震多発エリアで生まれ育ち、これまでに震度5を超える地震を4,5回経験している。

そのせいもあり「地震が起きた時の行動」について、相当な知識量を持っていると自負しているし、実際に準備もしている。

地震対策の三大必需事項
「懐中電灯を枕元に置いておく」
「棚の下など危険な動線を理解しておく」
「津波の届かない避難場所を把握しておく」

この辺は当たり前田のクラッカー。懐中電灯についてはスマートフォンのおかげで今は不要だ。

地震対策の新三大必需事項
「扉や窓が開けられなくなるので、すぐに玄関または窓を開ける」
「通帳や印鑑などの貴重品は一ヶ所にまとめておく」
「余裕があればテレビを抑える」

これらは母からの教えだ。実際、1993年に起きた釧路沖地震(最大震度6)では窓が開かなくなり、母は相当焦ったらしい。

また2003年に発生した十勝沖地震(最大震度6弱)ではリビングのテレビが前方に倒れ、そのまま逝った。「たいした揺れじゃなかったから抑えておけばよかった」と悔しがる母。肝の据わり方がハンパではない。


テレビの是非はさておき、とにかく地震は怖い。場合によっては早急に建物から離れる必要があり、鍵をかける暇もない。鍵をかけたとて、しばらく家に戻れない可能性もある。そうなると心配なのが、地震泥棒だ。


だから、わたしは常に「有事の際、これだけは持っていく」というものを決めている。


iPhone、財布、通帳類。

そして、友人からもらった数珠。以上だ。


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「これ、hiko用に作ったからあげるよ」

長年の友人・テツからの、唐突なプレゼントだった。



テツは、いつもイカした数珠をつけていた。

彼の知り合いに数珠を作れる女性がいて、その女性に作ってもらったと聞いていた。


ひと繋ぎになった複数の石にはそれぞれ意味があり、その人の雰囲気に合わせて選んでいるそうだ。

そうして作られた数珠はとてもおしゃれで、テツはそれを大切に身につけていた。


なので、宗教的な意味合いはまったくなく、数珠というよりもブレスレットに近い。

とにかくおしゃれで、何か守られているような気持ちになる。


そんな数珠をテツがくれたのは、3年前の今時期。秋の風に憂鬱な寒さを感じ始める頃だった。


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当時、わたしは8年勤めた会社を勢いよく退職し、プログラミングの勉強をしていた。

退職直後は希望に満ち溢れていたものの、30オーバーの業界初心者にとってエンジニア転職の壁は相当高く、わたしの心はほとんど折れかけていた。

同時に家族関係の問題(というかわたしが原因のゴタゴタ)も発生しており、そこそこ病んでいた。


毎日、誰に会うこともなく、不安を感じながら黙々と勉強していたわたしだったが、唯一、テツが誘ってくれるサウナが楽しみだった。


「これからサウナ行くけど、行く?」

断るわけもなく、多いときで週2,3回のペースでサウナに行った。

そして、その料金のほとんどをテツが払ってくれた。


「大変なときは、お互い様でしょ!」

それまで、テツがわたしに頼ってきたことなど一度もない。むしろ、助けられてばかりだ。


「今後テツの身に何かあったときは、払わせたサウナ代くらいは助けねばならんなぁ・・・」

そんなことを思いながら、わたしは整い続けていた。


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茶色い石の中にアメジストが輝く、わたしのために作られた数珠。


わたしの好きな色だ、と思った。

そして、ものすごくわたしっぽいと思った。


作り手の女性は霊感があるらしく、写真があればその人の状況や様子を把握することができるらしい。守護霊が見えるんだったかな?詳細は忘れたが、当時の複雑なわたしの状況を、伝えずして概ね把握できていたらしい。


女性は数珠だけでなく、数珠で使用したすべての石の意味を書いた紙を用意してくれていた。

その一つ一つに、わたしのパーソナルな部分と大いに重なるものがあり、シンプルに「すげー」と思った。



「どう?めっちゃhikoっぽくね?」


本当に、その通りだと思った。



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正直、もらったときは少し戸惑った。


自称ミニマリストをうたっていたわたしは、時計さえつける習慣がなく

「おれ、こういうのつけないかもよ」

と、失礼極まりなく、そんなことを言った気がする。


「いいよ、御守りだから。持ってるだけで意味があるんだよ」

テツはそんな風に言っていた。



以来、わたしは毎日、数珠を身につけた。

ミニマリストの称号は、翌日には捨てていた。



「今は大変だけど、きっとなんとかなる」


数珠を眺めるたび、そう思った。


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2年後の7月。


嫁の誕生日に、数珠を渡した。

少しの?いやけっこう長い?(笑汗) トラブル期を乗り越えたわたしたちは、共に東京に進出し、共に東京の暑さに苦しんでいた。


そして、嫁はいつもわたしの数珠を褒めてくれていた。


「めっちゃ似合ってると思う」


そしてこうも言った。


「たぶんそれ、めっちゃ高いよ」


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嫁の数珠を作りたい旨を、テツを通して伝えさせてもらった。予算はだいたいこのくらいでと、曖昧に伝えた。金額よりも、嫁に合うものが出来上がることの方が重要だ。


わたしのもとに届いた嫁の数珠は、わたしの数珠と同じように、嫁にぴったりな色合いで、とてもおしゃれだった。

そして、その石の一つ一つに、彼女を守ってくれるような意味合いが込められていた。


一方的な自己満足だったけれど、渡すと嫁は喜んでくれた。

わたしはわたしで、自分が世の中で一番大切なものと同じものを嫁に渡すことが出来て、嬉しかった。


大切なものがつながって、もっと大切なものになった。

なんだか幸せなことだな〜と思いながら、グルメなテツに教えてもらった代々木上原の鮨屋でお祝いをした。


めちゃくちゃ美味しくて、めちゃくちゃ量が多かった。ほんとに、吐くくらい多かった。


まぁ、それも、いい想い出。



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そんなわけで、わたしは自分の数珠を大切にしている。

大地震が起きても、家に置いていくわけにはいかないのだ。



そしてこの前、嫁と地震が起きたらどうする?みたいな話になり、手順や持ち物を確認した。


ちなみに、わたしの嫁はこの世で何よりも「地震」を恐れている。

2018年に起きた北海道胆振東部地震(最大震度7)では、精神的に疲弊し過ぎて軽い「地震うつ」になっていたほど・・・



「わたしはスマホだけ持って一目散に逃げるよ」

「財布は?」

「いらない」

「数珠は?」

「置いていく。そんな時間はない」


まぁ、そんなことを言っている嫁だが、地震が起きたらきっと1ミリも動けない。わたしの指示に従わざるを得ないはずだ。



「携帯もって!数珠もって!おっけー?逃げるよ!」


彼女が行動に移せるかはわからないが、仮に動けなかったとて、地震対応のプロフェッショナルとして2人分の必需品を持ち出すことくらい容易いだろう。



そして、そんなことを言っているうちは幸せな証拠だ。

本当に、大きな地震が来ないことを祈るばかり。


そして起きてしまった際には、冷静に行動できればと思う。




・・・



てか、うちの嫁、もうちょっと数珠大切にしてくれてよくない????




あとがき

プレゼントっていいよね。人を幸せにする行為、ナンバーワンかもしれん。

だから、プレゼントのセンスが良い人になりたい。プレゼントのセンスを示す最大の指標は「あると嬉しいが、自分では買わないもの」だろう。

その点において、テツのプレゼントは最強だった。絶対に自分では買わない…いや、買えないもの。頭の中にないもの。それを、ここぞのタイミングでぶち込んできたテツは、やはり天才だと思う。ふだんから人のことを思いやって生活していなければ、良いプレゼントなど出来ようはずがない。

あぁ。俺もプレゼントのセンスが良い人になりたい。てゆうか、正直「プレゼントのセンスが良い!!」って言われたい。称賛を浴びたい。

その前に、プレゼントを渡せるくらい仲のいい友達がほしい。神様、わたしに友人をプレゼントしてくれませんか?え・・・そんなことを言ってるから友達がいないと?いいです。もう神には頼みません。


テツさん!!今度はわたしに友達をくださぁぁぁい!!!!!!!!!




>> 以前、友人「テツ」について書いた記事



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