ローソンPBを見て、食品パッケージデザイナーが思ったこと。
昨日半年ぶりに髪の毛を切りに行ってもっさりしていた状態からシュッとして、気分良く街を歩いていたんです。さて、コンビニでも寄って帰ろうかと思ったらそこはローソンでした。
「おや、そういえばローソンPBが一新したという噂が」
と思って見てみたのですが、実際のパッケージを見てみて驚き・おののいたこと。今までやってきた食品デザインとは明らかに違う、それはわかる。けれどこの胸に現れたもやもやと驚きはなんだろう、と思って拙いですが言語化してみることにしました。
今年は少し遠のいていますが、私の主戦場はスーパー、コンビニ、ドラッグストアなどで売られているグラビア印刷(フィルムへの印刷方法です)の食品パッケージを10年ほど生業としていました。
現場は職人デザイナーの集まりだったので「見て盗め」的な所に放り込まれ、最初はわけもわからずダメばかり言われて混乱するばかり。しかし明確に教わってはいないものの、フィードバックを受けるうちこれはOK・これはNGという基準が感覚でわかるようになってきて、食品ならではのルールが存在することに気付きました。
ただ一つ食品パッケージで大事なことを述べるとすれば
瞬時に「それはどんな味か」お客様に理解させる
ということです。スーパーやコンビニには沢山の商品が並んでいます。そこからただ1点の商品を選ばせるためには、コンマ数秒で
・それは牛乳なのか、お茶なのか
視認させることです。
できれば見た瞬間に味が口の中に広がるようなシズル表現がよい、とされます。文字だけでなく、写真やイラスト表現も大事ですね。
ローソンPBを見てびっくりしたのは
※以下引用のため画像は公式サイトからお借りしました。
https://www.lawson.co.jp/recommend/original/select/drink/index.html
1.中身の判別に1秒(体感)以上かかる
文字が小さく、さらに文字を読まなければ中身が判別できないくらいシズルも小さく、牛乳に至っては消え入りそうなくらいです。
視覚に障害のある方にはかなり厳しいデザインといえます。
2.構成・色彩構成
飲料関係が顕著なのですが、お茶のシズルの周りに散らばったアイテムが一体化し、別のものに見えてしまう。
私は中央のシズルを中心とした花のように見えました。
色彩構成に関してはこの緑茶に関しては、急須の赤がハイビスカスのように見えてしまい急須の認知のない人から「トロピカルな味なのかな」などと誤解を受けてしまいそうです。
ぼかしてみました。口の中に酸っぱさを感じるような、トロピカルな味に見えてきませんか?
私なら緑茶に赤は使わないし、急須のイラストを入れるにしろ全体のアクセントに1つだけぽつんと小さくあしらいます。このくらい急須の赤が多いと、別の味と誤認させる原因となりえます。
ほうじ茶と緑茶を区別させるための構成なのだと思いますが(ほうじ茶は水色のアクセント)シズルの周りに多めに置かれると味の誤解が生じる可能生があります。私なら文字や上面などアクセントの色をシズルから遠い所に配置すると思います。
ちなみに全部の商品が紛らわしいというわけではなく、カップ麺シリーズはそうでもなくかなり良い感じにデザインされていると思います。
器の違うイラストが大きくあしらってあり、添付粉末の色のカラーで中身の誤解なく手に取ることができると思います。
個人的には「チーズ入りハンバーグ」と「プレミアムハンバーグ」の違いがかなり難しい判別となると思いました。
※プレミアムハンバーグをデミグラスハンバーグと表記ミスがございました。この2商品、全然価格が違うんですよね。
3.基本色をベージュとしたのは…?
PB商品は多岐にわたります。つまり、ヨーグルトもラーメンも紙コップもキムチにも適用できるようにデザインしなければなりません。
殆どの商品にベージュの背景色が敷かれていますが、ベージュになっていて強烈に違和感を感じたのは
ヨーグルト、豆腐、お茶関係
でしょうか、豆腐に関してはだしの味のする豆腐に見えます。
ベージュという色はシズル感を感じる色ではありますが「なんらかの味わい深い味がするもの」を想起させます。
私ならさわやかな後味がするものには白・青・緑などの色を使うと思います。
なので全ての商品にベージュを使うのはリスキーな気がして私はとても衝撃を覚えました。(他社のPBでも基本色は白が多いですね)
印刷の値段も高くなる
あと印刷の現場の話をするとベージュ・セピアは特色扱いとなり印刷代が高くなります。
4C(CMYK)の印刷代↓(黄色はY:20とする)
4C(CMYK)+ベージュ特色+セピア特色の印刷代↓
版代の差を鑑みてもベージュの色が効果的だという判断だったんだ…と思ってただただ驚きました。
追記:特色になるかそうでないかの差なのですが、通常4cでセピアもベージュも印刷は可能です。ただ品質を一定のものとするため、面の多い面の色、ボケたり滲んだりすると困る品名・企業ロゴなど主要部分に2・3色混色がある場合、それは特色指定され印刷されます。デザインする時に営業さんと「これは何色まで使っていいの?」なんて話になるぐらい金額に違いが出るはずです。(グラビア印刷の話です)
切り口の違い
と食品パッケージの現場に長くいた私には驚きの連続だったのですが食品の現場に長くいたからこその「型破り」なデザインに感じたのだと思います。
デザインのコンセプトを知って少し納得した所もあります。
ねとらぼさん記事
https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/2005/08/news014.html
「ローソンは、牛乳や卵、豆腐、納豆などの食料品をはじめ、歯みがき粉や食器用洗剤など、いつもお客様のご自宅にあるような日用品を販売しています。身近な商品だからこそ、生活空間にとってやさしい存在にしたい。普段の生活にとってノイズになることなく入り込むために、商品についての情報を山盛りにせず、できるだけシンプルにしてお伝えしていきたいと考えました」(広報担当)
とのことで、私たちのようなシズル感を届ける、という命題とは違う切り口でデザインされているのだと知って「なるほどなあ」と思いました。
ここまでちょっとdisり気味に述べてきた私ですが個人的には大好きです。
この商品が家にあるとわくわくするし、食卓に並べてあるだけでもカワイイ〜!と胸をきゅんきゅんされる引力がありますよね。そういった日々のときめきを与えてくれるパッケージには共感します。
ローソンさんは大好きなコンビニなのでこんな記事を書いておいてなんですがこれからもどんどんこういった攻めのデザイン、していって欲しいです!
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