男の勲章
『パパー』
今年で5歳になった息子が父である佐々木の腕を掴みながら言った。妻に頼まれた夕飯の買い出しについてきたのだ。
『どうしたユウト』
『パパのその傷ってどうしたのぉ?』
佐々木の額には大きな傷があった。
買い物袋を持ち変え息子の手を握り直し佐々木は口を開いた。
『これはな、男の勲章だ。』
『おとこの…くんしょう?』
キョトンとした顔でユウトはその言葉を反芻した。
『パパとママがまだ若い頃、そうだなぁ…あれは高校生の時だったかな。』
佐々木は遠くを見ながら話し始めた。
『パパは少しヤンチャでな。先輩や他校の生徒とよく揉めてたんだ。
そんでママは学校一の美人でそんなママの心を射止めたのがパパだった。』
『へえ〜』
『それが気に入らなかったんだろうな。
パパとママが学校帰りに2人で歩いてる時に3〜4人の上級生に囲まれたんだ。』
『ええ〜!それでどうしたの?』
『もちろん喧嘩だ。
でも向こうは武器を持っててな。ママを守る為にパパは全力でそいつらの足止めをしてなんとかママを逃したんだ。その時に殴られて出来たのがこの傷だ。』
『すっげー!パパはママを守ったんだね!』
『そうだ。これが男の勲章だ。分かったか?』
『男の勲章かっけー!パパかっけー!』
ユウトは目を輝かせて言った。
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『ただいまー!』
ユウトは急いで靴を脱いで家の中に入っていった。
佐々木は脱ぎ捨てられた息子の靴を並べてから後を追う。
『ママー!』
『あらユウト、いつにも増して元気いいわねどうしたの?』
『パパってかっこいいんだよー!あのおでこの傷、男の勲章なんだよー!』
その言葉を聞いて妻は怪訝な表情を浮かべた。
後からリビングに入ってきた佐々木は苦笑いをしている。
『男の勲章?なーに言ってんの。
あの傷はね、海で酔っぱらったパパが転んで岩場に突っ込んでできた傷よ。』
佐々木は苦笑いしたまま息子の顔を見ることが出来なかった。