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2023年フェイバリット・フィルムズ

 誰が虐殺を好むというのか。パレスチナをめぐる中東の問題を詳らかに語れるほどにその歴史や民族の問題に精通しているわけではない私ではあるが、いかなる事情があったとしても民族虐殺を肯定することはできないというのが人間的立場であると思うのだが、世の中はそうではなく、パレスチナを支持するハリウッドの役者はその仕事を奪われ、スティーヴン・スピルバーグ Steven Spielberg は無邪気にイスラエル支持を表明するだろう。この事態はいったい何だというのか。ハリウッドは赤狩りの時代を反省するどころか忘れたかのように振舞っている。ハリウッド・フィフティーズの映画は、いまなお対立と排斥の歴史に生きるわれわれにとって現在形の映画であり得ているが、はたして世界はそれに自覚的であるだろうか。
 あるいは令和日本に目を向けると、金銭的、あるいは性的なおぞましく気持ちの悪い搾取とそれに加担すらしている自称「知識人」と自称「愛国者」の叫びが目と耳をたちどころに腐らせてゆくかのようだ。
 そんな中で無邪気に映画を観ていてよいものかと思わぬでもないが、芸もなく観続けることは、効率と有効性(あるいは有意味性)に背を向ける反動的な振る舞いのようにも思われ、それはそれで悪くないことのような気がする。とはいえ、新作映画の鑑賞本数はいよいよ少なくなるも、2023年は多くの喜ばしい出会いに恵まれたことで、10本という制限を超える本数を並べることになった。

[2023年FAVORITE](鑑賞順)
『EO イーオー』(イエジー・スコリモフスキ)
『アルマゲドン・タイム ある日々の肖像』(ジェームズ・グレイ)
『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』(ジェームズ・マンゴールド)
『アステロイド・シティ』(ウェス・アンダーソン)
『エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命』(マルコ・ベロッキオ)
『犯罪者たち』(ロドリゴ・モレノ)
『バーナデット ママは行方不明』(リチャード・リンクレイター)
『水の中で』(ホン・サンス)
『枯れ葉』(アキ・カウリスマキ)
『ファースト・カウ』、『ショーイング・アップ』(ケリー・ライカート)
プラスワン短編『火の娘たち』(ペドロ・コスタ)

 国民国家としてのアメリカ合衆国を好ましく思っていない私だが、アメリカ映画を殊に好む。ジェームズ・グレイ James Gray 、ジェームズ・マンゴールド James Mangold 、ウェス・アンダーソン Wes Anderson の3人は、不断に更新される現在の映画史において重要な存在であることを、それぞれの仕方で示してみせてくれた。ここに挙げた3本は、2023年を代表するといってよいすばらしい作品だ。
 女性映画作家の重要性はいまさら述べるまでもないが、『バービー』(Barbie, 2023)が合衆国でヒットしたことは喜ばしい事態といってよい。それほどの反響がない令和日本の限界もまた露わになったこのムーヴメントではあるが、映画そのものの出来栄えという点においては、ケリー・ライカート Kelly Reichardt が頭抜けていた。いささかも安易さに堕することのない『ファースト・カウ』(First Cow, 2019)と『ショーイング・アップ』(Showing Up, 2022)は先の3本のアメリカ映画に劣らぬ傑出した作品である。
 また、日本では多くのアニメーション映画に関心が集まり続けているが、私がそれほど興味を持てないがゆえに尽く観逃している。無論アニメーション映画に限らず、観逃した作品の中に、ここに書きつけたリストに紛れ込ませるべき作品があるかも知れない。
 2024年も生活のための労働もそこそこに、ゆるゆると、noteを書いたり、映画を観たり、本を読んだり、学生の時分以来にベースを触ったりしながらすごしたい。

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