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[活動報告]有田 正広 音楽講座 vol. 2 〜フルートのストラディバリ ルイ・ロット〜(2024/4/26)


先日4月26日に、管楽器専門店ダクのスペースDoにて、
《DAC World 管楽器 Fair 2024 特別企画》有田 正広 音楽講座 vol. 2 〜フルートのストラディバリ ルイ・ロット〜が開催されました!

講座のフライヤーと、当日配られた資料

満員のお客様にお越しいただきました。ご来場くださいました皆様、ありがとうございました。

昨年の12月に行われた講座に続く第2回目。今回のテーマはタイトルの通り、「フルートのストラディバリ ルイ・ロット」。

ルイ=エスプリ・ロット Louis - Esprit Lot(1807-1896)は、フランスのフルート製作家で、テオバルト・ベームが発明した「ベーム・システム」によるフルートの、フランスにおける拡大に大きく貢献した人物です。

彼の人生や、彼が生み出した楽器を通して、その時代の特にフランスの音楽的価値観を探るような内容でした。

彼は1827年にクレア・ゴドフロア・エネ Clair Godfory l'ainé の工房に弟子入りし、その後クレア・ゴッドフロアの息子ヴァンサン・イポリテ・ゴドフロア Vincent Hypolite Godfory とともにゴドフロア息子とロット商会 Société Godfroy fils et Lot を立ち上げます。そして1855年47歳の時、ルイ・エスプリ・ロットは独立し自らの工房を設立しました。

会場には、「ゴドフロア息子とロット商会」のフルート3本、「初代ルイ・ロット」のフルート7本とピッコロ1本、そしてルイ・ロット工房第5代の「エルネスト・シャンビーユ Ernest Chambille」 のフルート1本の、計12本が展示されました。

手前から古い順に並んでいます

どの楽器も、思わずため息が出てしまうような美しさでした。
実際に持ってみると、いろいろなものが細く薄く繊細な形をしていて、力を入れて持ってはいけないような感覚になります。(しかし当たり前ですが、楽器を落としたら大変なので、持っても問題のないところをしっかり持たねばなりません。気が抜けません…💦)

さて、今回の講座での私の役割は、ルイ・ロットが独立する直前の楽器、つまりゴドフロア息子とロット商会のフルート(1853年)と、独立後のフルート(1856年)※下記写真あり を吹き、それぞれの楽器は一体どのような音を持っているのか!?というのを会場の皆様にお聴きいただく、というものでした。

ゴドフロア息子とロット商会の木管フルート(1853年)
ルイ・ロット独立後のルイ・ロット工房の木管フルート #128(1856年)


当日、会場にいらっしゃる皆様はルイ・ロットユーザーの方もおられれば、中にはルイ・ロットの音を初めて生で聴く、という方もいらっしゃるかもしれない!
もしそうだとしたら(大げさかもしれませんが)自分の音でルイ・ロットの音色の印象を決めてしまうかもしれない…!
…という考えが、本番まで頭の片隅に常にあり、どうしたらルイ・ロットの美しい音が出るのだろうかと考えながら1ヶ月間くらい悶々と過ごしていました。

始めのうちは、吹いていても全然ダメだと思うことも多く、奏法について試行錯誤の繰り返し…
しかしあまり頭で考えすぎると、どんどん身動きが取れないような、がんじがらめの音になってしまう…

そのために、あまり神経質にならないように、でもできるだけ本番までにたくさん吹きたい、そして少しでも理想のルイ・ロットの音に近づきたい!という想いがありました。
結果的にはフルートの頭部管のセッティングを思い切って変えてみることで、少し良い方向に向かいました。


さて、どちらの楽器も初代ルイ・ロットが関わっているフルートではありますが、私の印象としては、2本のフルートの吹き心地はかなり異なりました。
しかし共通していたのは、どちらのフルートも、自分でぴったりハマったかな?と思えるような奏法ができた時は、とても素晴らしい音を吹いているような感覚を得ることができた、ということです。

今回は聴き比べのため、
・G. Ph. テレマン:ファンタジー第9番ホ長調 TWV 40:10 の Affettuoso
・P. O. フェルー:3つの小品より 1. Berger Captive
を抜粋で、そしてその前にちょこっと音出しのようなプレリュードも一緒に皆様にお聴きいただきました。

会場のスペースDoは本当に素晴らしい響きでした。実際の音はどのように鳴っていたのでしょうか…?何人かの方から感想をいただきましたが、自分では客観的に聴くことができないのは悲しいですね…。感想をお伝えくださいました皆さま、本当にありがとうございます!

それぞれの楽器の細かい音の印象や違いについてはここではあまり詳しく書きませんが、とにかく、どちらも美しい音を持った楽器だと思います。

そして、この2本を聴き比べ(吹き比べ)たことで、ルイ・ロットが47歳というタイミングで独立して新しく自分の工房を立ち上げたのには、一体どのような思いがあったのか?を想像することになりました。そしてそれは結果的にルイ・ロットのフルートの美学を探り、そしてルイ・ロットのフルートを好んで演奏していた音楽家らの理想の音を追求することにも繋がったと思います。

ちなみに、128番のルイ・ロットは、ケースもオリジナルだそうです。

#128のオリジナルケース

ケースの内側の金色の部分には "Louis Lot. rue Montmartre. 36. Paris." と彫られています。

写真下側の金色の部分に文字が彫られている

このようなケースは、アクセサリー・ケースと呼ばれていたそうです。フルートはアクセサリーのように美しいという意味もあったのではないでしょうか。

ケースの蓋の中央には女性の横顔が描かれています。

女性の横顔

美しいですね。

また、講座の中では、フルーティストにはお馴染みのフィリップ・ゴーベール Philippe Gaubert や、アドルフ・エヌバンス Adolphe Hennebains、そしてマルセル・モイーズ Marcel Moyse の音源も聴きました。

♫聴いた音源はこちら
P. ゴーベール 
 P. Gaubert: Madrigal  L. Lot #1986(1874年製)
A. エヌバンス 
 B. Godard: Suite より Allegretto  L. Lot #474(1859年製)
M. モイーズ 
 F. Doppler: Fantasie Pastorale Hongroise, op. 26 より  おそらくL. Lot?

ゴーベールの自作自演のマドリカルは、作品の持つ何とも言えない幻想的な雰囲気と、ふとした瞬間に現れるゴーベールの音の遠近感に惹かれました。

エヌバンスは、温かく、包容力のあるような音色で、聴いていてどこか安心するような雰囲気があります。細かいパッセージでは、みるみる表情が変わっていき、その多彩な表現にうっとりしますね。

モイーズは、実がたっぷりと詰まったような、とても豊かな音色です。
時折、閃光のような鋭く儚い音も聴こえました。
有田先生曰く、生の音は言葉では言い尽くすことができないような素晴らしい音だったそうです。

ちなみにこれらの音源は、SPレコードの音をCDに入れたものだそうです。
彼らの生の音はどのような音色だったのでしょうか…?
想像が膨らみますね。


その他にも有田正広先生が録音されたCD音源によって、会場に展示されていた8本のフルートの音を聴きました。どの楽器も同じルイ・ロットであるとはいえ、形はそれぞれで、楽器に採用されたシステムや材質、付けられているキーの微妙な違いなどもあります。

CDを聴いて、やはりどのルイ・ロットも大変美しく、そしてとても細やかなニュアンスがあるように感じました。しかしその美しさは一様ではなく、どれも微妙に音が異なりました。

ここで、その中から3本のフルートと、それらのフルートで聴いた音源をご紹介します。 

●Louis-Esprit Lot #227(1857年)
 ♪音源:C. Reinecke: "Undine" 第1楽章から
 フルート:有田正広 ピアノ:有田千代子
足部管に向かって細くなる木管円錐管のフルートです。
ライネッケのフルート・ソナタに込められた切実な想いが、ひしひしと伝わるかのような、悲しくて切ない音でした。

音源で実際に有田先生が演奏された円錐管のルイ・ロット #227(1857年)

ちなみに現代のフルートは、頭部管は先端に向かって細くなっている円錐で、胴部管〜足部管が円筒です。

●Louis-Esprit Lot #414(1859年)
 ♪音源:A. Woodall: Serenade から
 フルート:有田正広 ピアノ:有田千代子
総銀製です。
幸せに包まれたような音楽の中で、フルートが変幻自在に音を奏でていました。どこを切り取っても同じ音は一つとしてなく、まるで、あるひとりの人間の生涯の物語を聴いているかのようでした。フルートとピアノの音が溶け合って生み出される音楽にうるうるしてしまいました。

実際に演奏に使用されたフルート #414(1859年)


● Louis-Esprit Lot = Ernest Chambille #8618(1913年)
 ♪音源:G. Enesco: Cantabile et Presto より
 フルート:有田正広 ピアノ:有田千代子
総銀製、金のリップ・プレート。はじめにも書いた、ルイ・ロット工房の第5代エルネスト・シャンビーユ  Ernest Chambille の作で、先ほど登場した A. エヌバンスが所有していた楽器でもあるそうです!
多彩な音色で、心に何かを直接語りかけてくれるかのような、非常に魅力的な音でした。この音源を聴くと、あまりの感動にいつも鳥肌が立ちます。

実際に演奏で使用された L. Lot = Ernest Chambille のフルート #8618


さて、ここまで、私の視点から今回の音楽講座をレポートさせていただきました。
今回の講座は、12本のルイ・ロットのフルート、しかもそのほとんどが初代ロットという、非常に貴重な楽器を一度に見て、そのうちのほとんどの楽器をCDや生演奏で聴くという、非常に貴重で稀有な機会でした。
そして、私自身、フルートの美しい音とは一体どんなものなのか?ということについて、改めて考えるきっかけをいただきました。

講座にご来場いただきました皆さまは、どのようなことを感じられましたでしょうか?
また記事をご覧くださった皆様はいかがでしたでしょうか?


ここでお知らせです!◆
有田正広先生の音楽講座の第3回が2024年10月10日(木)18:30より開催されます!

第3回講座のフライヤー

第3回は、フルートのみならず、オーボエ、クラリネット、ファゴット、そしてサックスでのバロック音楽の演奏法について考える講座のようです!
デモンストレーターとして、ピアノ、チェンバロ奏者の中山結菜さんや、各楽器の奏者が出演予定です。

木管楽器奏者の方はもちろん、バロック音楽を演奏する機会のある全ての方にとって興味深い内容になるのではないでしょうか。

詳細はこちらからどうぞ!管楽器専門店ダクのホームページです✨


ということで、今回の記事は「有田 正広先生の音楽講座 vol. 2 〜フルートのストラディバリ ルイ・ロット〜」についての活動報告でした。

最後までご覧いただきありがとうございました☺



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