夢を再び。ファシリテーションルーム2|ラジオの時間
ーなんのはなしですかー
これはスタジアムに打ち上げたジェット風船、その夢の続きのお話。
前回のお話はこちら
「ああ~、ここ、ここ。」
声の主は、ガラス扉を軽やかに開けて入ってきて、部屋の壁に沿っておかれた長机の箱の中から、マグネット式のネームプレートを取り出しもう一度、ガラス扉の表、使用者掲示のボードに貼り付ける。” ミルコ ”、それが彼女のネームプレートだ。
もちろん、彼女の名前はミルコではない。
数年前より、会社プロジェクトのスケジュール管理にTime Tree を使い始めた。予定共有にはこれが大変都合がいい。その Time Tree という会社では全員に「ニックネーム」があることを知った。
「これ、いいね。」
立場も経験も関係なくフラットに、誰でも自由に、コミュニケーションできるなんて、なんて素晴らしい制度なんだろうか!私が考えつかなかったことが悔しいぐらいの素晴らしさです。そう絶賛していたのはここで横になっている人物、コニシ課長。この部屋をファシリテーションルームにしようと言い出した時、
「この部屋に入るときは、みな立場も経験も関係がない、フラットな交流を目指してニックネーム呼び合うことにしよう。ユニークだろう。ユニークなニックネームにしてもいいし、なんでも好きなネームをつけるといい。」
そう口の両端をあげる独特の笑みを浮かべて、あたかも自分が思いついたかのようにそういった。
” コニシ木ノ子” それが一番最初に書かれたプレートであった。そして、彼女は “ ミルコ ”。カタカナに何か意味合いがあるのかは分からない。そのプレートを掲示したガラス扉、つまり入口の、脇の壁には防火責任者 灰原 雄三 と書いてある。そう私はどのプロジェクトに関係がない、ただこの部屋を管理しているというだけのポジションだ。もちろんニックネームの札など持ってはいない。
「おはようございまーす。灰原さん」
「おはようございます。」と答えてすぐ目を下に落とす。
もはや彼女のことをなんと呼べばいいか分からない。ニックネーム制を取り入れる際に『さんづけもなしだよ。』とそう言われている。そんな灰原のとまどいなどは気にも留めずに、”ミルコ”君は会議机に向かい鼻歌でも歌うような軽やかさでメモにペンを走らせる。千手観音ではなかろうかというぐらいのスピードで、いくつもの企画書を次から次へとたたき出す、量をこなすという点において” コニシ "課長と ” ミルコ "君は他の追随を許さない。さささっとアイデアを書き留めるその間にも、表のガラス戸の掲示をみて他の従業員が次から次へとやってくる。
彼女の企画量の多さもさることながら、次々とプロジェクトにパワーワードをつけて周囲を渦に巻き込む力、それで実績を積み上げてきたのだ。その実のところパワーワードといっても、なにか目新しさがあるフレーズではないのだが、そのシンプルに言い切る強さ、彼女のアイデアとともに溢れる魅力がそうさせているのであろう。
そもそも今、何に向かって動いているのだろう。
灰原のデスクと会議テーブルは離れているが、ときおり声が大きくなって「なんのはなしかわからない」「なんのはなしですか」という言葉がちらほら聞こえてくる。まだ、プロジェクトのコンセプト、パワーワードは決まってないということか。さらに、声が大きくなってラジオに決まりだ!と話がまとまったようだ。勢いがいいと話がまとまるのも早い。ありがとうございました!と壁一面に掲げられたボードにメモを貼って出ていった。
安住紳一郎の日曜天国 | TBSラジオ ときめくときを。 (tbsradio.jp)
メモには上のようなハッシュタグもつけられていた。
#はこういう発信ですよ~という合図だ。それが唯一の相手への発信となり、情報下さい、私こういうことしてます、仲間ほしいです、の意志表示。
灰原は、部屋に残されたメモを、部屋の管理責任者だから一応といい訳のように心の中でつぶやき覗きみる。メモを見ても なんのはなしか、さっぱり分からない。新しいコンセプトを広めるのに"こういうコンセプトです”とは伝えずに、でも何かがあるな、と気づいてもらえるような作戦、、、ということか。ラジオジャックと言えば物騒な話になるが、まずシャワーを浴びせてサブリミナル効果を狙う。さすが、" ミルコ "君。アプローチが理系だ。
美味しいですよ~、食べてみてくださいな。と奈良が生産量第2位を誇る秋の味覚、柿をポン、ポンと置いていく。柿があるのが当たり前になってくる。なんで柿がこんなに落ちているんだろう、と不思議に思う。そんな寸法だろうか。そこで、『コンテンツ戦略本部 アナウンスセンター 役員待遇 エキスパート』であるメインパーソナリティが「我が社」の素晴らしさに気づいてくれる、そんな算段だろうか。いや、ちょっと待てよ、ファシリテーションルームの役割からすると、気づいてもらいたい素晴らしさが「わが社」であるのかどうかは今のところまだ不明、ということにしておこう。
ここで、灰原の胸には、ぽとりと墨滴が広がり胸の中が騒がしくなる。
その、『コンテンツ戦略本部 アナウンスセンター 役員待遇 エキスパート』であるメインパーソナリティによる素晴らしい語り口で、果実のおいしさを知ったリスナーが、しばらくたって、その心のうちに果実の種が芽生え、あたかも自分の中から湧き上がってきたと感じて発露した場合、花が咲き、そのまた果実を得るのはその人物になってはしまわないだろうか。
つまり、京都八つ橋騒動である本家と本舗や本家は元祖はどこか、そんな問題である。また、そのエッセンスだけが凝縮されて発芽した場合、概念だけが共有されてオリジナルとは違った形になってしまう、ということは起こりえないだろうか。着想の種となりインスパイア、インスピレーションの源泉になった、ということになり生まれ育ったその土壌に目をむけられることはない、そんなリスクは起こりえないだろうか。
これだから私はプロジェクトから外され部屋の管理人となったのだな。そう自嘲気味に考えたあと、灰原は目を見開いた。
そうか! ” ミルコ ”君は、発祥は、元祖はここですよ、と証人になってもらうためにターゲットを、かの安住紳一郎氏をファーストコンタクトに選んだのか。いつか、インタビューをされる際、「私の番組を最初に選んでくださったんですね。」とはにかむ表情が目に浮かぶ。いいアクションだ。
いやぁー、参った。
それにしても、さっきは焦った。
いつぞや、高知の出張レポートを出した際に、ミルコ君から質問を受けてそのまま預かりとしていた課題をつい先ほどまで忘れていた。
まさか、これはこのなんのはなしかわからないプロジェクトに重要な意味を持っているのだろうか。
まだよさこい祭りについてしか、私の中には見識がないがメモにしてこのボードの片隅に貼っておこう。
なぜ、よさこいは ”よさこい・YOSAKOI”として、高知県がまぎれもない発祥の地であるとして文化が広がっていったのか。
安住氏が学生時代にその2つ年上の北海道大学の学生が高知県からよさこい文化を持ち帰り、初の県外YOSAKOI”、YOSAKOIソーラン祭りを北海道に根付かせた。”よさこい文化”、"文化の発祥元へのリスペクト”、安住氏ならきっとそこを大切にしてくれる。
ただ、レポートにするのは骨がおれるし説明臭くもなるだろう。
とりあえず気づきとしてメモだけはっておく。
そうだ、そうだ。とメモ用紙と2枚追加で書き加えた。
こっそりメモを貼る灰原の様子を目を閉じたまま気づかないふりをしてソファーに寝そべる男がいた。いや、気づかないふりをしているのではない。
「ラジオか、懐かしい。」
まだジェット風船のプロジェクトを成功させるまだずっと前の若き日の思い出。そうあれをしるしたのが、このプロジェクトのはじまりでもあったのかも知れないな。薄目をあけるほどに閉じられた瞼の裏を見つめるように” コニシ木ノ子”はさらに目を細めてまどろんだ。
なんのはなしですか
ということで、次回は、”コニシ木の子”氏、当時はコニシ木ノ子?さんのはじめてのなんのはなしですか、の朗読にチャレンジしたいと思います!
ああ、押しの視線が刺さるように痛い。
スタエフ生放送?!生だなんて、そんな覚悟はありません。
きっと読みたい方全員に許可下さると思いますので、フライングにならないように告知いたします。
もういちど
なんのはなしですか
この夢を再び。ファシリテーションルーム はすべてここ、朗読告知を終着として書いた記事です。ラジオ大作戦の結果、過程が知りたい方は、まず9月29日(この記事投稿1時間後)TBSラジオ 安住紳一郎の日曜天国 をお聞き下さい。私も聞きますね。
この物語が続くかどうか、灰原が” グレイ ”としてプロジェクトにかかわっていくことになるかは誰も知るところではありません。聞かれてもなんのはなしですか、と答えます。
では皆さま、夢をみて、聞いて、お過ごしください。
作中紹介させていただいたTime Tree 社のユニークな取り組み
noteに公式もありますよ。ぜひ見てね!(私は単なる1ユーザーです。)
TBSテレビ、並びに安住紳一郎様
作中のプロジェクトとは無関係ですが、作中に放送番組名とご本人のお名前を拝借させていただきました。不都合ありましたら、架空の放送局・架空の人物名に変更いたしますのでお知らせ下さい。
このプロジェクトが『マツコの知らない世界』に進出した姿を目にすることを夢見ております。
変な人は十分そろっておりますのでぜひご検討下さいませ。
#なんのはなしですか #プロジェクト始動 #ラジオ大作戦 #応援
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全ては伊勢原市の駅伝大会の思い出から始まった。
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なんのはなしですかベイビーが見つけやすくなるかも。
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