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はじまりの物語⑩刻



壺に草で蓋をして隙間から通りを覗きみる


都は争いごとのあとで雑然としていたが
人通りが多く活気に満ちていた

路地に入った辺りから
せんせーい、せんせーーいと
賑やかに声がかかる

純粋な医業だけでなくよろず相談所の
ようであった
文字にも通じており命名までも請け負っていた

人は死ぬと名を残すという

かの者はひとの死期も察するようであった
終には叶うことのない願い

残していくもの
残されるもの
それぞれ悔恨ともいうべき『重い』
それを取り除いてやってはくれないか

今生のかけがえのない時間を
慈しみ過ごせるように 

名を持たず天上と地上を行き来する蛇には
分かたれることなぞ分からなかった

いとも軽々とその者達の『重い』を呑んだ

一緒に過ごす時間が長くなっても
かの者は蛇を名付けなかった

名前は現世に縛るからね

まるで天上のことを知っているようでもあった

蛇は『重い』を取り出したあとの
キレイな小石ほどの玉を
ときおり天上に持っていくことにした

地上と天上の世界は時間の流れが違う
というより地上だけが時を刻んでいる

ほんの僅かな間 天上にいったとしても
地上では3日たっていた


少しずつかの者との時間が少なくなっていたが

いつも変わらぬ笑顔でいるので

そうとは気づいていなかった



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なんのはなしです果にまつわるはじまりの物語

これまでの話はマガジンに。

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