見出し画像

【FLSG】ニュースレター「Weekly Report 8/26号

日米の金融政策姿勢に焦点
23日市場が注目していた、植田日銀総裁の国会答弁、パウエルFRB議長のジャクソンホール会合での講演が行われた。8月前半の大波乱後、初の金融政策姿勢が示されたわけだ。市場は身構えているので、予想外の展開にならなければ波乱にはならないと思っていたが、微妙なニュアンスの差に過敏に反応するリスクはあった。結局、杞憂に終わったが。

植田日銀総裁の閉会中の国会審査は衆参両院で延べ5時間開催される。
何故、ジャクソンホール会合にぶつけたのか不明だが、日銀は8月7日の”陰の総裁”内田副総裁の「利上げ慎重発言」で沈静化を図り、今のところ落ち着いた動きになっていたが、結局、植田総裁は、7月に決定した追加利上げの経済・物価への影響を見極めつつ、「見通しの確度が高まっていくことが確認できたら、金融緩和の度合いを調整していくという基本的な姿勢に変わりはない」と述べた。ほぼ市場の予想通りだった。

インパクトとしてはパウエル議長発言の方が大きく、市場の注意はNY時間まで持ち越された。日本時間夜11時に始まった講演で、パウエル議長は「政策を変更するときが来た」、「強い労働市場を支えるために全力を尽くす」と述べ、9月利下げ、年内100bp(1%)、市場では来年さらに1%利下げとみている。このためNYダウは462ドル高となったが、すでに利下げは織り込まれており、この日の株式市場は興奮しすぎとの声もある。

雇用関連のデータでは8月17日までの1週間の新規失業保険申請件数は前週比4000件増の23.2万件、市場予想23万件近くで収まった。2週連続減少から増加に転じたが、パウエル議長が軸足を置くと見られる「労働市場の冷え込み」はマイルドな動きと受け止められる。

7月全米中古住宅販売は年率換算前月比で+1.3%の395万戸。4ヵ月連続の減少から立ち直った。前年同月比では2.5%減で、価格上昇、高金利圧迫が続いているが、先週、30年物固定住宅ローン金利は15か月ぶり低水準の6.49%に低下しており、金利低下効果に期待する環境にある。

中国の1-7月半導体製造装置輸入が約260億ドル(3.8兆円)、過去最高更新と報じられた。蘭ASMLの中国比率は50%、東京エレクトロンなどは40%程度と見られており、中国の爆買いが自足するか注目される。最先端分野は規制されているが、それでも中国半導体メーカーの生産能力は24年15%増、25年14%増のペースで拡大すると見込まれている。半導体業界にどういった影響が出て来るか、景況感に影響すると考えられる。

市場の関心は利下げからエヌビディア決算にシフト
23日朝方から横浜・川崎方面に大雨警報が出された。前日は東京・港区、新宿区を中心にゲリラ豪雨・雷が襲った。荒れた天気、災害懸念多発を見ると、景気下押し要因だろうなぁと思う。日本だけでなく、中国遼寧省、大連市、米国NY州、コネチカット州などでも豪雨禍となっており、世界的。

20日、ドイツ連銀が発表した月報で「景気回復がさらに遅れ、インフレが年末にかけて一時的に加速する可能性がある」と警告した。ドイツ連銀は元々慎重・緊縮姿勢で知られるが、第2四半期GDP速報値が予想外のマイナスとなって以来、弱気姿勢が目立つ。国内事情もあるが、「海外需要が引き続き弱いと見られ、ドイツの広範囲な産業部門の見通しは悪化するだろう」としている。中国経済の悪化を懸念し、ロシア貿易の復活が見込めないことを指していると見られる。

民間の論調はもっと厳しい。21日付プレジデント・オンラインによると、「ドイツ景気は急激に落ち込んでいる。主な原因は、高過ぎるエネルギー価格(脱原発の失敗)、肥大した官僚主義、労働力不足などが挙げられ、程度の差はあれ、先進国は何処も同じ構図。学校の崩壊も止まらず、労働力の質低下、移民による治安悪化など悩みは尽きない。23年6月以降、一部を除き、二ケタ倒産増が続いている。

8月5日、ドイツ最大の半導体メーカー・インフィニオンが国内1400人リストラを発表し、衝撃を与えた。同社はマレーシアで大規模パワー半導体工場を建設中(26年末頃完成予定)で、早くも第2工場建設案が持ち上がっている。

一方、ショルツ首相らが推進した米インテルへの補助金100億ユーロの評判がすこぶる悪い。インテルは大規模リストラに追い込まれており、見通しは暗い。半導体工場は大量の電気と水を使う。その安定供給は出来るのか(電気料金の20年間半値提供を契約)、他のTSMC誘致なども含め、懐疑的見方が広がっている。米GSが「中国需要低迷で、北海ブレントは25年末までに68ドル/バレルに下落する(23日には77.20ドル/バレル)」との見通しを発表したことは朗報だが。ドイツに比べれば、日本は比較的上手くやっている印象を受ける。

その分、米経済依存を強めると見られる。米株の戻りを主導したエヌビディアはボトムから約3割上昇、最高値まで6%余に迫っている。日米の中央銀行の政策に注目が集まっていたが、イベント通過で今週28日決算発表予定のエヌビディア決算に、市場の関心はシフトしよう。

ジワリ ドル安、米雇用統計の大幅下方修正
20日S&P500指数とナスダック指数は8連騰で止まった。S&P500指数終値は5597.12、場中高値は5620.51,5600ポイント回復で戻り売りに押された格好。ナスダック指数は18000ポイント手前で売りに押された。ただ、下落幅は小幅で出来高薄(NY取引所合算出来高99.3億株)の地合い。

この日目立ったのはドル安。ユーロは1.11ドル台、昨年12月28日以来の高値、英ポンドは1.30ドル台、昨年7月以来の高値。主要通貨に対するドル指数は前日比0.42%安の101.44,パウエル議長講演を終えた23日には100.68(0.82%安)に下落、円は144.27円に上昇。ドル指数は1月2日以来の安値。一段円高に進むかどうかはドル安次第であろう。

今まで積み重なってきたドル買いポジションの調整イメージが強いが、21日に米労働省が雇用統計の基準改定を発表。81.8万人の下方修正、09年以来の大幅下方修正となった。労働市場弱体化のイメージで、23日のジャクソンホール会合でのパウエルFRB議場講演にある程度影響があったのだろう。
この後、フランスの政情混乱なども予想されているので、特段ユーロが強くなったわけではなさそうだ。昨日はスウェーデン中銀が利下げ、カナダCPI統計が40か月ぶり低水準、9月4日の金融政策会合で3会合連続利下げ見通しが強まるなど、利下げ競争になる可能性もある。

米民主党全国大会が開催されたが、急拵えのカマラ・ハリス陣営の選挙対策チームにチーム・オバマが加わった。同様に、経済政策チームにNEC(国家経済委員会)委員長経験者のジーン・スパーリング氏、ブライアン・ディース氏等が加わった。

19日、ハリス陣営は「法人税を21%から28%に引き上げる増税案」を発表しており、ハリス陣営の弱点とされる経済政策の行方を見極めようとする心理が働いた可能性がある。大統領選自体は混沌ムードが続き、賭け率などは拮抗している。ハリスかトランプかのポジション取りをするには早過ぎるイメージ。

⾃⺠党総裁選挙2024 NHK特設ページより

自民総裁選は大混戦から刷新ムードに転換も
自民党総裁選の立候補第1号は小林鷹之氏(愛称コバホーク)。
記者会見に参加した自民議員は24名、なかには他陣営の推薦人になるのではないかと目された議員を含み、衝撃となった。
”脱派閥”を掲げ、旧安倍派(福田達夫派)若手が半数近くを占めたことも、派閥依存の他陣営に衝撃を与えたと見られる。経歴は、開成―東大―財務省―ハーバード大ケネディスクール。これだけを見ると、宏池会ではないかと見紛うが二階派。開成(岸田首相の後輩)つながりで、ナベツネ・読売・日テレが全力バックアップを始めている(スポーツ報知まで記事)。弱点とされる知名度の低さを何処まで修正できるかが焦点の一つ。

政策スタンスは固まった訳ではないが、保守派を表明、憲法改正も掲げる。元再エネ議連役員だが、既に脱会、原発推進を標榜する。ただし、BWR(沸騰水型炉)を一基も動かせていない岸田首相の原発政策を褒める時点で??反原発の河野太郎氏が原発容認姿勢に転換したと報じられたことは小林の影響かも知れない。

日銀の金融政策については「内田副総裁が一定の責任を認めた」と述べ、慎重な利上げ姿勢を支持する方向。国土強靭化や地方活性を掲げ、今のところは財政緊縮派ではないと見られている。対米スタンスは不明だが、二階派や福田達夫氏との連携で親中派と見られている。

蛇足だが、読売新聞オンラインは「9月下旬に岸田外交総括の訪米へ」と報じている。バイデン会談も調整中としており、新たな課題を押し付けられるのか注目される(総裁選投開票は9月27日。出馬しない首相の国連総会出席は21年9月の菅首相の例がある)。

自民総裁選の行方は未だ不透明だが、一撃で、沈滞する立憲民主党表選を吹き飛ばしたと見られる。10-11月に「衆院解散―総選挙」に向かうとの見方が有力だが、政権交代リスクは限りなく小さくなったと見られる。政治動向に関心が高いと見られる海外ヘッジファンドなどでは、2012年の安倍政権登場に擬える向きが出てきてもおかしくない。JPモルガンによると、CTA(商品投資顧問業者)などトレンドフォローの海外投資家が予想よりも早く日本株に回帰しつつあると言う。

19日は円急騰共に株価も波乱となったが、セブン&アイHDに対するカナダ小売大手クシュタールによる買収提案がキッカケになったと見られる。5兆円規模の円買いが発生するとの思惑だが、背景は7か月ぶり安値にあるドル安基調と見られる。19日現在の9月米利下げ確率は0.25%が77%、0.50%が23%。大幅利下げ思惑は燻っている。
ブリンケン米国務長官がガザ停戦米提案をイスラエルが支持したと表明。ハマスは拒否姿勢を変えていないが、原油相場は再び軟調な動きとなっている。米民主党政権としては一定の成果を得たいものと思われる。


■レポート著者 プロフィール
氏名:太田光則
早稲田大学卒業後、ジュネーブ大学経済社会学部にてマクロ経済を専攻。
帰国後、和光証券(現みずほ証券)国際部入社。
スイス(ジュネーブ、チューリッヒ)、ロンドン、バーレーンにて一貫して海外の 機関投資家を担当。
現在、通信制大学にて「個人の資産運用」についての非常勤講師を務める。証券経済学会会員。

一般社団法人FLSG
■■■ 公式LINE ■■■
https://em-tr811.com/L17976/c622/23771

■■■ Instagram ■■■
https://em-tr811.com/L17976/c622/33771

■■■ TikTok ■■■
https://em-tr811.com/L17976/c622/43771

■■■
X(旧Twitter) ■■■
https://em-tr811.com/L17976/c622/63771