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【FLSG】ニュースレター「Weekly Report 9/25号」

先週は売り直し圧力、10-12月睨む動きか
VIX(恐怖)指数だけ見ると、FOMC(米連邦公開市場委員会)前に手控えていた売り方が、高金利長期化のタカ派姿勢を受けて再び攻勢を掛けて来た印象だ。米VIX指数は14日の12.82→21日17.54に撥ね上がった。ちなみに4連敗中の日本株では15日15.99→21日18.25(22日は下がって17.83)。
22日の欧州の16.96が最も低くなり、波風が少ないことになる。焦点は米10年債利回り上昇を受けての買い戻し短期ラリーに止まるのか、10-12月期のリスクを睨み、本格的なヘッジポジション構築に向かうのか。今までの米株上昇場面は、売り方の買い戻しエネルギーが大きな要因となっており、売りポジション構築はある程度必要と見られている。

21日の金融政策ラッシュは、ノルウェーとスウェーデンのみ0.25%利上げ。ともに追加利上げ姿勢を示した。見方が割れながら利上げを見送ったのはスイス中銀と英中銀、そして22日の日銀の現状維持。いずれもインフレや景気動向の様子見姿勢。アジアは台湾、フィリピン、インドネシアと軒並み据置。元々為替睨みで米国に追随する姿勢にある。

21日の米10年債利回りは一時4.498%と07年11月以来の高水準。2年債は一時5.202%、06年7月以来の水準。ただ、2年債はその後5.14%台に低下、10年債との利回り差は-69bpに縮まった。金利先物市場での利上げ確率は11月26%、12月までの確率は45%。株式解説で言われているほど、利上げ懸念が強まっている訳ではなさそうだ。

短期的な売りが鎮まるかどうかは、21日報じられた原油相場、UAWストの行方に加え、同日米下院で否決された24年度国防歳出法案の行方。月末までに可決しないと10月1日から政府機関の一部が閉鎖され、思わぬ混乱を招く恐れがある。景気ソフトランディングの見方を変える要因に注意がいる。

影響するかどうか分からないが、多少気になるのは中ロの株式市場。支えて来たと見られる水準、香港ハンセン指数1万8000ポイント、上海総合指数3100ポイント、ロシアRTS指数1000ポイントを割り込んできた。不況感は中ロの方が強く、ロシアは精製能力不足からかガソリン、ディーゼル油の輸出を禁止し始めた。部品不足から生産能力が至る所で落ち込むとの見方は前からあった。中国市場は当局の介入が行き過ぎ始めた(経済正常化よりも優先?)か、売買代金が最低水準を更新してきていると言う。ただし、22日景気刺激策で中国株は上昇。上海市場は+1.55%、香港ハンセン指数は+2.28%と8週間ぶりの大幅高となり、1万8000ポイントをかろうじて維持。とはいえ海外勢は7週連続で売り越し。

中国本土株市場は約10兆ドル、1日売買代金は今年9000億元平均だったが直近は6000億元程度に留まる。中ロ両市場は世界経済混迷の象徴になる可能性がある。

インフレ要因や米景気楽観論注視の姿勢へ
少々穿った見方をすると、原油相場が軟調となり、UAWストが終息に向かうか注目されるなか、20日のFOMC(連邦公開市場委員会、米国での金融政策を決定する会合))ではタイミング的にタカ派姿勢維持を煽った側面がある。底流には、ウクライナ情勢、中国情勢、そして来年の米大統領選に向けての混迷など、米景気動向や市場マインドを大きく左右する要素があるが、判断は難しく、展望難の情勢が続くものと考えられる。リスクを考えれば、”安全・流動性”の高い日本市場に資金が集まりやすい環境が持続するとも言える。

20日の原油先物は1%安。北海ブレントは93.5ドル/バレル前後、限月交代のWTIは11月限が89.6ドルと90ドル大台割れ。UAWストは難航。フォードに続いてステランティス(2021年、伊自動車メーカーFCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)と、仏自動車グループのPSA(プジョーシトロエン)の2社の対等合弁から生まれた自動車メーカー)が一部従業員のレイオフを発表したが、22日の交渉でスト拡大を表明している。  

交渉内容は非公開だが、GMの会社提案は平均報酬年15万ドル(約2200万円)と言う。既に福利厚生を含む時給は67ドル、テスラの45ドルと比較して圧倒的に不利と、これ以上の引き上げに難色を示しているとされる。

BofA(バンカメ)は来月から最低時給を23ドル(約3400円、日本の最低賃金の3倍)に引き上げると発表(従来22ドル)。目標は25年25ドル、17年の15ドルから段階的に引き上げる姿勢にある。計算上、フルタイムでの年間給与は4万8000ドル(約690万円)。賃上げインフレは継続する公算。

FOMC直後の金利先物市場での11月利上げ確率は29%、12月は43%と、それ程高まっていない。FRB金利見通しの23年末予想は5.6%(6月比横ばい)、24年末は5.1%(同4.6%から引き上げ)。一応、ドル高だが動きは小幅で、ドル円では介入牽制が一応効いている可能性がある。

米株では1週間で3つ目のIPO(新規株式公開)が話題。打ち上げ花火のように初日は賑わうが持続性がない。アームは4.1%続落、前日上場の食品宅配サービス・インスタカートは急騰から10.7%下落に。20日登場のマーケティング・データ自動化プロバイダー・クラビヨは公開価格から32%高となったが2日目以降はどうなるか。食い散らかしのイメージになる恐れがある。なお、世界の8月IPOは前年同月比60%減の48億ドルにとどまっていた。「投資銀行不況」と呼ばれる所以だが、不況脱出を図れるか、焦点の一つとなろう。

また、スナク英首相が「ガソリン・ディーゼル車の新車販売禁止」を2030年から2035年に延期した。欧米流のゴールポストを動かすやり方だが、市場は既に無理と見ていた可能性があるので、大きなインパクトはないかも知れないが、ESG投資衰退に拍車を掛ける可能性がある。

原油相場の行方、100ドル原油は再現するのか
北海ブレント先物が一時95ドル台/バレルに乗せて来た。それほど需給逼迫しているようには見えないが、サウジ減産やリビア大洪水、アフリカ混乱などを背景に、100ドル乗せとの見方も出ている。「FRBの宿敵は原油相場」とも言われ、インフレ観、金利引き上げへの影響が懸念視されている。反面、FOMC直前の思惑的動き(利上げがなくともタカ派声明)との見方もあり、一連の金融政策決定会合後、原油高圧力が低下するか注目されていた。

19日発表のカナダ8月CPIが前年同月比+4.0%と7月の+3.3%から撥ね上がった。7月は下落要因だったガソリン価格が上昇に転じたことが主因。9月6日会合で据え置いた政策金利を10月に利上げするとの見通しが高まった(利上げ確率は23%→42%)。蛇足だが、カナダはインドとシーク教徒殺害事件を巡って外交官関与で揉めている。双方が外交官追放の応酬を行っており、インド摩擦の先行事例になるかも注目される。

全米自動車労組ストライキ 期限まで交渉進展なければ拡大も NHK NEWS WEBより引用

UAWのストは拡大継続。ストを意識した訳ではないと思うが、トヨタが記者団を豊田周辺の3工場に招いた。全固体電池と並んで、「ギガキャスト」などの試作プラントを説明した。「ギガキャスト」はテスラが先行、トヨタが追うアルミ車体の一体成型技術。ストどころか労働者は大幅に削減される技術なのだが。イエレン財務長官は「米経済軟着陸シナリオはUAWストでも政府機関閉鎖危機でも学生ローン支払い再開や中国問題波及リスクでも崩れない」と強気の見解を表明した。

先週は金融政策決定会合ラッシュ
先週は「36時間で中銀決定ラッシュ」と、20日の米FOMC、21日の英中銀、スイス中銀、ノルウェー中銀など、最後は22日には日銀政策決定会合。ベイリー英中銀総裁は「(金利はおそらく)サイクルの頂点に近い」と述べており、先般のECB(欧州中央銀行)利上げに続く動きがあっても大勢観は変わらないと見られる。米ゴールドマンサックスは早々と「ECBの11月利上げの可能性低い」との見方を発表した(FOMCは9月見送り、11月に最後の利上げを行う可能性があるとの見方が主流)。JPモルガンAMは運用者の立場から「利上げは終了した可能性が高く、米国債は今後数ヵ月の間に価格上昇(金利低下)する見通し」と米国債に強気を表明。シナリオ通り展開するか、10-12月相場の最大の焦点となる。

BIS(国際決済銀行)は世界的な金利巡る予測不可能性を警告する四半期報告書を発表した。実際、錯乱要因は多い。UAW(全米自動車労組)のストは、先の16万人規模のハリウッドストに続く10万人規模のストで、統計によっては23年ぶり、つまり9.11同時テロ以前の世界に戻りつつある。交渉相手のビッグ3のカナダ工場にも飛び火しつつあり、日本車メーカー有利との見方もあるが、米経済変調要因になるかが焦点。1日の損失は5億ドルとの試算もあるようだ。GMとフォードの時価総額合計はスト突入以前に3兆円近くが消失した。

9月14日に鳴り物入りで登場した英アーム株は、2日目、3日目とも4.5%下落。オプション取引が始まりプット優勢になっている様だ。騒ぎにはならなかったが、15日は4兆ドル規模のオプション決済日だった(トリプルウィッチングと呼ばれ、指数先物と個別株オプションなどが重なる)。言わば、需給関係仕切り直しの局面にある。15日に半導体関連が崩れたのは、「台湾TSMC、半導体製造装置の納入延期を取引メーカーに要請」と報じられた(アリゾナの400億ドル投資新工場建設が遅れている)ことが契機だった。

■レポート著者 プロフィール
氏名:太田光則
早稲田大学卒業後、ジュネーブ大学経済社会学部にてマクロ経済を専攻。
帰国後、和光証券(現みずほ証券)国際部入社。
スイス(ジュネーブ、チューリッヒ)、ロンドン、バーレーンにて一貫して海外の 機関投資家を担当。
現在、通信制大学にて「個人の資産運用」についての非常勤講師を務める。証券経済学会会員。



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