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【FLSG】ニュースレター「Weekly Report 8/5号

日経平均2日間で3千円超の下げ
日経平均は8月の2日間で3192円下げたことになる。
31日、植田日銀総裁が追加利上げに前向きな姿勢を示し、その結果株式市場は転機を迎えていると推測される。下落の背景には当然ながら海外投資家の売買がある。海外投資家は世界的なインフレヘッジの手段として日本株を位置づけていた側面が後退したという見方があるそうだ。今回の利上げで日本の低金利持続を前提にしたストラテジーが修正を迫られたのだろう。海外投資家は日本で資金を調達して投資する手法は、金利が上昇するようなら見直す必要が出てきたのだ。

これまで、世界的にインフレのときでも、日本では基本的に利上げはできず、その結果として円安になり株高になるという傾向がみられ、期待インフレが高まる中で日本株がアウトパフォームすることが、海外投資家にとっての通説だった。おそらく今回の大幅下落は、この1-2年の間に日本株に参戦してきた海外短期筋のマネーが逃げていることが主な要因だろう。おそらく積み上がったポジションが調整を終えるには1─2週間ぐらいかかるのではないかとみている。

日本株の大幅下落を受けて、2日のNYダウも610ドル安。
この日発表された7月の雇用統計で、非農業部門雇用者数は前月比11.4万人増(予想は17.5万人増)となり予想を下回った。失業率は約3年ぶりの高水準となる4.3%に上昇した。また平均賃金の前年比での伸びも3.6%と約3ぶりの低水準となった。

市場では9月利下げと同時に米経済の景気後退という声が多くなっている。ただ、一部には、労働市場の状況は景気減速と一致しているものの、必ずしも景気後退ではないと指摘する向きもある。しかし米景気が一段と弱体化する兆候も出ているため、年内3回の利下げ(今のところ2回)が実施されるとの観測が市場で織り込まれていく可能性がある。

1987年のブラックマンデーとは
2日の日経平均2216円安(5.81%下落)は過去2番目の下げ幅、1987年10月19日(日本は翌20日)のブラックマンデー以来の下げ幅と言われている。ブラックマンデーでは日経平均は3826円安、14.9%の下落で21,940円。なお今回の下げ率5.81%は歴代29位。ちなみにブラックマンデーの19日のNYダウの下げ幅は508ドル安(22.6%)だった。

今回、当時のブラックマンデーの下落の理由を調べてみたが、いくつか複合的に重なっていたようだ。まず、当時の米国は財政赤字と貿易赤字の「双子の赤字」を抱えており、ドル安に伴うインフレ懸念が浮上したことが原因とされている。その中で、 レーガン政権の積極財政と米FRB(連邦準備制度理事会)による利上げに伴う米長期金利の上昇加速 。さらに インフレ・ファイターとして市場からの厚い信認を 得ていたボルカー氏から、当時はまだ手腕が未知数 であったグリーンスパン氏へのFRB議長の交代 があったことも背景にある。

また、米ドル安是正を目的としたルーブル合意(1987年 2月)後の米国とドイツの為替政策を巡る不協和音。 相場下落時のリスク圧縮を目的としたプログラム 取引の普及(ポートフォリオ・インシュランス)などが挙げられている。
ただ、10月20日の日本でこの暴落を目の当たりにしていた筆者の感覚では、当時の西ドイツが利上げをし、協調ドル安防衛の一角(当時のマルクの影響力は強かった)が崩れたことによる国際金融市場の協調崩壊と今でも思っている。日本は当時も米国に従順だったから、その数年前のプラザ合意もありドル安をせっせと防いでいた記憶が残っている。ちなみに私事だが、ブラックマンデーのおかげで海外赴任が1か月遅れた。海外現地法人が急に暇になったからだ。この1か月の遅れが今の人生を形成している。

資金逆流止まらず、米景気不安
今回の暴落の背景では、日銀の利上げ、FOMCでの金利据え置きを契機に資金逆流が一気に強まったのだろう。植田日銀総裁の追加利上げ姿勢に驚いた市場は、一気に身構え姿勢に変わったと思われる。日本のエコノミスト調査で、7割弱が追加利上げを予想、12月に0.25%上げ0.50%に、来年には1.0%も有り得るとの見方。欧米が利上げして来たにも関わらず、世界の金融緩和状を支えてきたと見られる日銀の方向転換の衝撃が波紋となっている。

FOMCでは「9月利下げ」方向が確認されたが、市場は景気悪化懸念に急速に傾いている。1日発表の7月ISM(米供給管理協会)製造業景気指数は46.8(6月48.5、市場予想48.8)、8か月ぶりの低水準に落ち込んだ。週間新規失業保険申請件数は前週比1.4万件増の24.9万件、11か月ぶりの高水準。今回の米雇用統計には反映されないが、警戒ムードを高めた。

31日の米株式市場で高値から20%ほどの大幅下落となった個別銘柄は、半導体大手インテルとワクチンのモデルナ。インテルは1.5万人の人員削減、第4四半期から配当停止。半導体関連は低調見通しを発表したアームも15.7%急落、SOX指数は7.1%の急落。コロナ禍の20年3月以来の下落率。
モデルナは欧州向け不振で24年売上高見通しを下方修正、第2四半期は赤字決算。ファイザーもそうだが、コロナワクチンの強引商法の咎が出ていると見られる。大企業のファイザーは別だが、存亡の危機に陥る恐れがあろう。バイオ関連株を買い難い一因と見られる。

他にも、ボーイングが4-6月期2160億円赤字、赤字は8四半期連続。アマゾンはネット通販売上高が冴えず、アップルは中国販売6.5%減が重石となった。好決算のメタは上昇したが、全体を支えるには至らなかった。下落は懸念心理を強める。原油相場は反応していないが、中東情勢の緊迫やメディアが持ち上げるカマラ・ハリス氏の政策不透明感(基本、バイデン路線の踏襲だが、バイデン課題も多く、バイデン氏より左派姿勢の強いハリス氏手腕に警戒ムードが出ている)も重石になり始めたとの見方がある。

日本株は7月第4週に海外投資家が現物・先物合計で1兆5617億円の売り越しだった。現物は5000億円強で、その分を個人投資家が買い向かった格好。先週もそれ以上の規模で売られていると見られ、何処で売り一巡となるかが焦点。ブラックマンデーの時は翌10月21日には日経平均は2037円高を付けている。ただ、TOPIXが完全にこの時の下落幅を埋めたのは翌年4月だった。今回も7月11日の日経平均高値4万2千224円を抜くには少なくとも12月ころまで4~5か月はかかると思っている。
日本企業の収益源は北米だけに、米国のリセッション懸念は、急速円高と合わせ、重荷になる。日銀は適切でない時期に余計なことをやった恐れがある。

植田ショックか、円急騰。中東情勢は不透明
日銀の利上げ(0~0.1%→0.25%)は事前のリーク通りだったので、サプライズでなかったと思われるが、3時半からの植田総裁記者会見で「追加利上げ姿勢」を示したことで、円が急騰、ドル円150円割れに至った。日銀は通常、金融政策変更後、半年程様子見期間を取ると見られていただけに、前のめり感が出た。

日銀が示した物価予想は想定範囲内だったこと、景況感は必ずしも良くないこと(GDP需給ギャップは未だマイナス)など、如何にも政治に押された植田日銀への批判の声が燻ろう。当座預金の付利も0.25%に上げたこと(銀行業界で約8000億円の収入増と見られている)、銀行が早速短プラ引き上げに動いていることで、銀行に優しい政策と見られている。

円急騰は円キャリートレードの巻き戻しと見るのが妥当なところであろうが、日本企業の円売りヘッジが外されただけかも知れない。ややこしいことに、テヘランでハマス最高幹部、レバノンでヒズボラ司令官が相次いで殺され、中東情勢が一気に緊迫化した。イランのハメネイ師などが報復を宣言しているが、このパターンは直ぐには動かない(動けない)との見方もある。今のところ原油相場の反応は限定的。

パウエルFRB議長は「9月利下げ検討の可能性」に言及。31日、FOMC後の反応の大きかったのは、やはり米債市場で利回りは、10年債4.03%,2年債4.26%,30年債4.30%に低下した。

日銀利上げ前夜、夜間取引で崩れ
31日の日銀政策決定会合前の30日晩、NHK、日経などが相次ぎ「日銀利上げ検討」と報じ、ドル円が155円台から152円台に急騰、夜間取引の日経平均先物が下落した。利上げ観測幅は0.15%、政策金利0.25%水準とされる。国内景況感はあまり良くなく(岸田失策・・・所得減税を12月に行わなかったことで確定申告の1年遅れ、1月能登半島地震で震度7級にも拘わらず補正予算を組まず復興遅れ、電気料金補助を打ち切り猛暑で慌てて8-10月復活などなど)、8月中旬発表の4-6GDPでもマイナス成長が懸念視されている。前のめりの円安→輸入インフレ圧力の悪役論で、利上げ催促を行っていることが日銀利上げの背景と見られており、拙速論が交錯する。

30日の米株はSOX(フィラデルフィア半導体)指数が3.88%下落。ナスダック指数も1.28%下落、NYダウは+0.50%、ラッセル2000指数は+0.28%。インテルの数千人規模の人員削減報道が響いたかも知れないが、引け後決算発表のAMD(アドバンスト・マイクロ・デバイセズ)は市場予想上回る決算(7-9月見通し含め)で時間外取引で株価は4%高。マイクロソフトは伸び率減速が嫌気され7%安。

注目されたのはコーヒーチェーンのスターバックス。減収(0.6%減)と利益は市場予想と一致、株価は一時5%高。年初来22%下落していたので、先日のマクドナルドと同じパターンだが、中国不振がより鮮明となった。中国では地元企業との競争激化とされるが、第2四半期の11%減から第3四半期は14%減とマイナス幅が拡大した。

30日新華社通信は共産党中央政治局会議で「(従来のインフラ整備でなく)一連の政策措置により内需を拡大する」方針と伝えた。経済対策で高齢者介護や子育て支援を改善する必要があると言及しているが、具体策はない。
中国不況の次の波が訪れようとしていると見られている、土地売却収入の大幅減と、起債による資金手当てが限定的で、ジリジリと地方財政が追い詰められている。地方政府が公的年金を支払っているので、公務員給与減額に続いて年金減額が迫っていると見られている。中央政府はその部分に言及せず、消費喚起のみを掲げるので信用されていない。

マクドナルド、スターバックス、ネスレ、ユニリーバ、日産自動車など世界の大手企業の業績不振に中国不振が重く圧し掛かっている。株価調整は買われていたAI・半導体関連で起こりやすいが、底流には中国悲観論の強まりがあると見られる。中国株は売り抑制にも拘わらず安値攻防となっており、底抜け警戒が続くと見られる。

五輪で米大統領選の影が薄らぐ
23日までの2週間で、投機筋の円ネットショートポジションは2011年前半以来の大幅減少だったと報じられた(米商品先物取引委員会:CFTCの発表データで5万6639枚の減少)。噂通り、CTA(商品投資顧問業者)を中心とする手仕舞いが円急騰を招いたようだ。

バイデン-岸田の蜜月体制崩壊(日本の米ウクライナ支援への債務保証で巨額ドル手当てが必要になるとの思惑)と日米金利差縮小(今週の日銀会合で、国債買い入れ縮小と利上げに動くとの読みが国内より海外のほうが強かったようだ。日本企業の今期決算前提は140円前後が多いと見られ、140-160円範囲であれば、大きな影響は与えないと見られる。

米大統領選はメディアの「カマラ・ハリス上げ」もあってか、接戦ムード。問題は、ハリス氏が外交・安全保障問題、経済政策など具体的政策への言及が乏しく、バイデン政策を引き継ぐとしても緒課題をどうするのかハッキリしない。気の早い向きもポジション取りが難しいと見られる。

私は見ていないので、X(ツイッター)などでの評判だけだが、パリ五輪開会式は「最後の晩餐」や「マリーアントワネットの生首」といたパロディーなど批判ラッシュだったようだ。極左とも言える演出を容認したとして、マクロン大統領批判も噴出している。総選挙後の新政権作りが難航しているだけに、仏政治の混迷が長期化する懸念がある。TGV放火事件など、未だ何が起こるか分からないムードもある。五輪報道ラッシュが、米大統領選攻防の影を薄くした感がある。


■レポート著者 プロフィール
氏名:太田光則
早稲田大学卒業後、ジュネーブ大学経済社会学部にてマクロ経済を専攻。
帰国後、和光証券(現みずほ証券)国際部入社。
スイス(ジュネーブ、チューリッヒ)、ロンドン、バーレーンにて一貫して海外の 機関投資家を担当。
現在、通信制大学にて「個人の資産運用」についての非常勤講師を務める。証券経済学会会員。

一般社団法人FLSG
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