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かゆみの迷宮

6月の終わりごろから、ポツポツと虫にくわれるようになった。もともと虫に刺されやすい体質だからと、大して気にしていなかったが、毎日とにかくかゆい。最初はポツポツだったものが、そのうちポツポツポツポツポツポツポツポツポツポツと大量に食われるようになってきた。ウナコーワを常に手の届くところに置き、毎日何十回も塗る日々が続いた。

「虫刺され、ダニ」で画像検索すると、自分の刺された部分と同様に見えたので、なんらかの理由で家にダニが大量発生してしまったのだろうと思い、火災報知器がならないダニアースを各部屋で焚いた。

部屋に掃除機をかけ、水拭きをした。寝具やクッションだけでなく、持っている洋服もすべてコインランドリーの大きな乾燥機で乾燥させてからまた洗濯をし、天日干しをした。

カーテンも洗った。エアコンの掃除もした。ダニ取りシートも設置した。ダニ除け剤も置いた。洗えないものにはダニ除けスプレーをかけた。デスクで使っていた椅子は、布張りでなくプラスチックの椅子に変えた。あまり使っていない布製の座布団や座椅子、布張りの椅子などはクリーンセンターに搬入して処分した。

ソファーやベッドは使う前に表面にコロコロをかける。洗濯は防ダニ洗剤を使用し、毎日朝晩、着る服に布団乾燥機のダニコースをかけ、シャワーを浴びてからそれらを着る。

夜中はかゆくて目が覚めてしまうので、枕元に虫刺され薬を置いておき、何度も何度も塗る。それでもおさまらないので、凍らせた保冷剤を手ぬぐいに包んでこれも枕元においておき、かゆい部分にあててそれでやっとまた眠れる。

そんな風に対策をしても毎日ポツポツポツポツとかゆい。最初はふくらはぎや太ももが多かったが、お腹やお尻、胸や背中や腕、頭皮まで全身に広がってきた。前にくわれたところは搔きこわして、治りにくそうな跡ができている。全身虫刺され跡だらけで、プールにもスーパー銭湯にも行けなくなった。

1カ月半くらい市販の虫刺され薬でしのいでいたが、お盆前に皮膚科に駆け込んで、ステロイドの塗り薬とかゆみ止めの飲み薬をもらった。皮膚科に駆け込む前にすでにダニ対策で2万円くらい使っていたので、もっと早くから皮膚科に行けばよかったと思った。

ステロイドの塗り薬は市販の薬よりは効くが、それでもかゆみがおさまらないことも多い。夜眠れるようにとかゆみ止めを飲んで寝るのだが、それでも変わらず夜中に目覚めてしまうことが続いた。

そんなにまでしても、かゆみはおさまらないので日々気が滅入っていった。
これまでの数十年でこんなことは初めてで、さらに4人家族の中でそんなことになっているのは私だけだった。

2回目に皮膚科に行ったとき、先生に「ダニだけじゃなさそうだね、痒疹かもしれない」と言われた。なんだろうそれ?と思ったが、先生は大して説明もしてくれず、アレルギー用のお薬を追加しますねと、飲み薬を1つ増やしただけだった。

薬局で処方を待っている間スマホで検索してみると、痒疹はダニが原因のこともあるが、突然なるし原因不明で直りにくいとのこと。これはこれで、新たな不安をもたらした。

果たしてこれからどれくらいダニ対策をし続けなくてはいけないのか?それとももっと違うものが原因なのか?

先が見えなくてげんなりするし、夜中目が覚めてしまう日が続くと免疫がうまく働かなくなって、がんの再発を促してしまうかもしれない。そこで前回書いたように、気分転換も兼ねてホテルに泊まることにした。

ホテルに泊まって、全部新たに買った服で過ごしても、症状はあまり変わらなかった。だとしたら、家のダニが原因じゃないかもしれない。何か別のものが原因かもしれない。

そこでアレルギー検査をしてもらうため、別の皮膚科に行くことにした。2回お世話になった皮膚科は、いつもものすごく混んでいて待たされる。初回は2時間待ち。2回目も、診療開始30分前に行ったが、結局1時間くらい待った。待合室は常に席がびっしりと埋まっているので、コロナ感染を考えるとそんなところで長時間過ごしたくない。先生もあまり説明をしてくれない。

家から徒歩15分くらいの新しい皮膚科は、ネット予約ができるのでそこを予約した。新たな皮膚科でこれまでの経緯を話すと「痒疹だと全部説明がつきますね」と言われた。あと「がんの人は痒疹になりやすいと言われています」とも言われたので、なんでですか?と訊くと、「理由はわからないけど、そう言われてます」と。

治療自体は同じような薬を出すことになるけれど、これだけ強い薬を使ってもあまり変わらないのなら、加えて紫外線療法をしましょうということになった。

裸になって1~2分紫外線を出す機械にあたるというだけなのだが、これがある種の皮膚疾患には効果があるらしい。これを週に2回、15回~30回続けることになった。

今はまだアレルギー検査の結果待ちで、紫外線療法も2回やっただけだが、今後、少しでも改善が見られたらと思う。

ふりかえってみると、病院に行くことが遅れた1つの原因は、ダニ刺されの跡と痒疹の跡は、画像検索をしてもそっくりなのだ。だから、ダニ刺されだと思って、ダニ対策をすればおさまると思っていた。2か月の間かゆみに苦しんでいたので、ほんともっと早く他の可能性を疑えばよかったと思う。

今はまだ原因も、治るかどうかも、わからない。がんと関係があるのか、更年期と関係があるのかもわからない。治療で飲んでいる免疫抑制剤が、がん細胞を増やすことにつながるのかどうかもわからない(これはアレルギー検査の結果が出たら、がんの主治医の先生に相談に行こうと思っている)。

とにかく今はダニ対策を続けながら、かゆみとうまくつきあって、紫外線療法が効くことを祈るしかない。

1つだけよかったかもしれないことは、私は小学生から中学の途中まで、原因不明の皮膚病で病院をたらい回しにされた経験があるということだ。ずーっとかゆくて原因がわからないというのは、気が滅入ることだし、プールに入れないこともあったし、気持ち悪いといやがられたこともあった。最後は結局アトピーということで、ステロイドの塗り薬で改善していった。それまでの苦労はなんだったの?という感じだったが、まあ、あの時間の長さを思うと、今はもう少し耐えられるような気もする。

はやくこのかゆみの迷宮の出口が見えますように。


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