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今すぐできる「魔法のプレゼント」をしてみよう

数年前、ODNJ(OD Network Japan)主催の「組織開発体験講座」に参加した。4泊5日の合宿形式、会場は富士山の裾野にある研修所だ。

Tグループや体験学習のファシリテータートレーニング、組織開発ラボラトリーなど、5日間~6日間くらいの合宿に、当時はよく参加していた。それぞれに思い出深い貴重な体験だったが、このときの「組織開発体験講座」は、なかでも強く印象に残っている。

分厚いファイルが今手元にないので詳細は忘れてしまったが、5日間の間に、そこに参加しているメンバーを1つのグループとして見立て、そこに介入をするプランを立てて実際に行うという内容だった。参加者は16人くらい。1グループは4名だったが、私たちのグループだけ3名だった。

当時、ODNJが立ち上がったばかりの1回目の合宿ということもあって、参加している人たちは、ちょっとアクが強い人ばかりだった(すいません)。毎日、1日中散々話し合いをしたあとでも、夜中の2時、3時まで、談話室で語りあった。だから、毎日二日酔い&寝不足(笑)

私たちのグループは、最後のファシリテーション担当だったので、それまでの毎日、グループの中の人間関係や起こっていることを観察し続けた。今ここの、目の前に人たちに、どのような取り組みをしてもらうことで、関係の質がよくなっていくか、考えた。

そして、何をやったかというと、「ドッジボール」だ。
施設に確認を取り、広いグラウンドにコーンを置いて、バレーボールを借りた。「ドッジボール」は、我々中年世代は小学校のときに必ずやった経験があるだろう。

合宿中、毎日会議室の中で、頭を使って、話をしてばかりいたメンバー同士が、広い屋外で「子供の頃にやっていたドッジボール」をやることで、がっとお互いの印象や関係が変わるのではないかと考えたのだ。会社の運動会みたいなものだ。

これが、想像以上にはまった(と私は思っている)。
何しろ、普段はおだやかに見える中村和彦先生が、一番積極的にボールを持って、鬼の形相で容赦なくボールをぶつけていた。そんな姿、これまで見たことも想像したこともなかった。他の人たちも、キャーといいながら走り回り、純粋に身体を使う時間を過ごした(ちなみに私はコートのなかでひたすら逃げ続けて、まあまあ最後まで残るタイプ)。

そうやって、楽しく、お互いの意外な一面をみながらドッジボールをした後は、そのボールを使って、次のワークをした。

「さっきまで、相手チームの人を”殺す”ために使ったこのボールを、今度は、誰かを喜ばすために使ってみましょう」

そのボールを何かに見立てて、誰かにプレゼントをする。
これはプレイバックシアターのワークショップで教えてもらったもので「魔法のプレゼント」というワーク。本来は布を使ってやるのだが、目のまえの人に、何でもあげることができるとしたら、何をあげるかを考えて、ボールをそれに見立てて渡すのだ。

例えば、

「これは、一瞬で疲れが吹き飛ぶ魔法のポータブル温泉です。いつもいそがしいAさん、無理しすぎないでね。疲れをとってゆったり休んでください」

「これは、かけるといつでも好きなアイドルと話ができる魔法のメガネです。韓流アイドルが好きなBさんにプレゼントします。何か嫌なことがあったときは、これをかけて元気になってください!」

「これは、時間を引き延ばすことができる魔法のストップウォッチです。忙しくてお子さんとの時間がなかなか持てないというCさんに、お子さんとの時間をたっぷり味わってほしいと思います」

「これは、なんでも悩みを聞いてくれるテディベアです。このテディベアに話しかけると、暗い気持ちが晴れて、どうしたらいいかが自然に自分のなかからわいてきます。いつもみんなの話を聞いてくれるDさん、いつもありがとうございます。たまには自分のことも、たくさん大切にしてあげてください」

みたいに、相手のことを考え、相手に送りたいもの、相手が喜んでくれそうなものを「魔法のプレゼント」として渡すのだ。

これを合宿の最後にやった。
全員で円になり、誰かがボールを持って、自分が渡したい人の前に歩いていって、立つ。そして、自分が考えた「魔法のプレゼント」の説明をしながらどうぞとボールを渡す。

合宿の5日間の間、部屋は別々だが、研修中も食事時間も、他人とずっと一緒だった。そのあいだ真剣だからこそ対立したり、ザラザラした時間を過ごしたりもあった。だから、お詫びやお礼の気持ちを「魔法のプレゼント」という架空のものにのせて伝えてもらった。

不思議なもので、なかなか正面切って言うのが照れ臭いことでも、こういう「魔法のプレゼント」という設定があると、素直に言えるものだ。そして、相手のことをよく考えていないと、正面切ってプレゼントです、とは渡せないものだ。

私は自分が誰に何をあげて、自分が何をもらったのかは忘れてしまったが、Tグループや合宿であれこれお騒がせして面倒をおかけした中村先生に、プレゼントの言葉をもらって泣いたことだけ、強烈に覚えている。「大前さんの変化を感じました」といった言葉だった。


さて。
思い出話が長くなってしまったけど、今日はそんな「魔法のプレゼント」の提案なのです。

すぐ近くにいる家族に、会いたくてもなかなか会えない恋人に、オンラインでしか会えない友人や同僚に、しばらく会っていないお世話になったあの人に、

「今、何かプレゼントするとしたら、そしてそれがどんなものでも可能だとしたら、何を送りたいか?どんなものを送るとその人はうれしい顔になってくれるだろうか?」

と考えてみませんか?

お金はかかりません。必要なのは、ちょっとの想像力と、相手を思う気持ちだけ。

そして、考えるのもタダならば、それを伝えるのもタダ。

家に閉じこもってストレスがたまっているお子さんに、

「今、あなたに30分だけ空を飛べるマントをあげたいよ。家に閉じこもってなくて、自由にのびのび好きなところに行けるように。そうしたらどこに行ってみたい?」

と言ってみると、お子さんといっしょに、ちょっとした空想遊びができるんじゃないか。

もちろん、誰かにじゃなくて、自分に「魔法のプレゼント」をあげてもいい。だってそれは、自分がすごーく望んでいることに、気づくきっかけになるはずだから。

私は自分にあげるとしたらなんだろうか?と、今考えてみた。

「目の前の人に喜んでもらえる魔法のプレゼントを、考え出す力」かな。
それは言い換えると、その人が本当に望んでいることを感じる力、ともいえるだろう。


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合宿中は毎日、こんな富士山を目の前に見ながら過ごしていました。今考えるとすごい贅沢!

ちなみに、この話には後日談があって、合宿中、一緒のグループでこの取り組みを考えたNozomuさんと、昨年、まったく別のオープン・ダイアローグ(OD)のワークショップでばったり再会した。組織開発(Organization Development)の後に、またODでつながったね、と思い出トークに花が咲いた。予想もしていない嬉しい再会だったけど、こんな思いがけない再会も、プレゼントワークを一緒に考えたおかげではないか、と思っている。



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