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新しい運転免許証を受け取って

実はnoteに初めて登録したのは2014年8月。使い勝手を試すために、写真と一文をUPしただけで、それ以来今年に入るまで投稿していなかったけど、おかげで「note5周年記念」というバッジをすでにもらっている(笑)

さらに、一昨年、別の名前でもnoteのアカウントを作った。短編を書いて公開しようと思ったのだが、自分の中の「検閲の声」に負け、公開にいたらなかった。そのアカウントでは、投稿は1回きり。今はアカウントも削除しているが、そのたった1回の投稿の下書きがevernoteに残っていた。単に日記みたいなものだけど、今日はちょっとunexpectedなことが起こってほとんど1日つぶれてしまったので、その幻の投稿を、こっちにすることにしよう。

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運転免許証の更新に行ってきた。
自転車をこぎこぎ20分。街道沿いの地元の警察署へ。

私自身はお世話になったことはないが(あたりまえか)、免許更新で何度か来たことがあるその建物は、天井が低く、薄暗く、そして長年のあれこれが壁に染みついているかのように、ちょっと薄汚い…。なんとなく足を踏み入れるのに抵抗を感じる雰囲気だ。

「毎日地域の安全を守っていただきありがとうございます」と思いながら、でかでかと表示されている「免許更新」の表示に従い奥に向かう。

更新のコーナーだけ、急に築地市場に迷いこんだかのように、たくさんの人でごった返していた。免許の更新は、違反がなければ5年に1回。前回の更新のことなんて忘却の彼方だ。「どうするんだっけ?」と思ったのもつかの間、女性スタッフさんが来る人来る人をテキパキとさばいてくれている。言われるがまま、あっという間に視力検査と、写真撮影が終わった。あとはビデオ講習を受ければ、晴れて新免許証を受け取り、帰れるそうだ。

前の回のビデオ講習が終わるのを、ベンチに座っておとなしく待つ。すると、すぐとなりに女性が座った。30歳くらいだろうか。スマホをいじりながら、「うん」、「ああ~」、「なによ~」と、声をあげている。通話をしている風ではない。ちょっとこわい。スマホを持って来るのを忘れてしまったので、カバンの中にあった文庫本を出して、気にせず読んでいるふりをした。何かあってもここは警察だ。うん。

ものの5分もしないうちに、ビデオ講習の部屋のドアがあいて、バラバラっと人が出てきた。すかさず次々に名前が呼ばれて、各々に免許証が渡されている。よし、私もあと30分後には帰れるぞ。

講習室に入ると、なんだかムッとした匂いがする。たいして換気もせず、せまい部屋に入れ替わり立ち代わり大勢の人が出入りするとこんな匂いになるのか。30分我慢できるかな。前方のテレビ画面の横には、テレビよりも大きい電光掲示板に、事故数や死者数が表示されていた。

バラバラと10人くらいの人が部屋に入ってきて着席するとすぐに、説明係のおじさんが、まるでテープを再生しているかのような説明を始めた。おじさんのなかにそういう機械が埋め込まれているようだった。

この人は、1日に何回も、そして何十年も、この同じ講習を、同じ言葉で、繰り返しているんだろうか?どんな経緯でこの仕事につき、今どんな思いでこの仕事してるのかな、などと気になっていると、ビデオが始まった。

免許をとったばかりの、最初の更新研修の頃は、とにかく「退屈だなあ、早く終わんないかなー」と思って見ていたビデオだが、年を重ねてくると、自分の認知力、判断力が確実に衰えているのがわかるので、ビデオで触れられている事故の話は他人ごとじゃない。まじめに見て、まじめに気をつけなくてはと思う。

ビデオの中では、事故で大事な家族を亡くした人がコメントしていた。

「事故には加害者も被害者もいますけれども、少なくとも、一人ひとりが "加害者にだけはならないように” と心に決めて気をつけていれば、それだけ被害者が減るはずです」

運命のいたずらとしかいいようがない、避けがたい事故もあるかもしれないが、運転者の不注意からくる避けられる事故は、本当に減ってほしいものだ。コメントを心に刻む。


ビデオ講習が終わって、人がいっぱいの待合スペースに出る。
名前を呼ばれ新しい運転免許証を受け取る。

少しむくんだ顔の、真新しい免許写真を見ながら、私もまじめな一市民なんだなと思うとともに、急にノスタルジックな気持ちがこみ上げてきた。

私が免許をとったのはだいぶ遅くて、次男が生まれてからの30歳のとき。仕事に復帰する前に免許だけはとっておこうと、何かと手がかかる2歳の長男と、まだほんとに首が座ったばかりの次男を民間の保育室に預けてせっせと教習所に通ったのだ。当時は子育てを義務のようにこなしつつ、将来への不安から仕事をどうしようかということばかり考えていた。その、ほんとうに余裕のなかった頃の自分を思い出して、心が少しちくっとした。

自動車も、人生も、安全運転を誓いながら、また20分、自転車を漕いで家に帰った。


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