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朝のワンシーン

起きてトイレに行ったあと、ミドリはキッチンへ向かった。

冷蔵庫からラップで包んだリンゴ半分とキウイを取り出し、洗ってから包丁でざくざく切った。それらをジューサーに入れ、家中に響き渡るようなグガガガガ~という音を20秒くらいの間させながら、ジュースを作った。

キッチンスケールにスープボウルを乗せ、フルグラを50g、はかりながら入れた。冷蔵庫から牛乳パックを取り出し、賞味期限が今日までということを確認して、200g、はかりながらフルグラに回しかけた。

いきおいよく牛乳が出てしまい、フルグラと牛乳あわせて280gになった。引き出しからスプーンを取り出すと、カレー用のスプーンだったがまあいいかと思いながらスープボウルにスプーンを差した。

ジューサーの長いカップとスープボウルを持って、ミドリはリビングに行き、ソファーに座った。

リモコンでテレビをオンにし、AmazonのfirestickでParaviのアプリを開いて、フルグラを食べながら「ドラゴン桜」の第3話を見た。ラストの桜木のセリフに、ミドリの胸は熱くなっていた。

食後の薬を飲み、食器を流しに下げ、洗って拭いて、食器棚にしまった。それから歯磨き、洗顔、基礎化粧品での肌の手入れをしてから、リビングの一画にあるスタンドミラーの前に行き、ミドリはメイクに取りかかった。

眉毛もまつげもポツポツと短い毛が生えているのは、いったん全部抜けた後生えてきた新しい毛だろうかと思いながら、ブラウンのアイライナーをひき、眉毛を一本一本、息を止めながら、丁寧に描いていった。どれだけ気をつけても左右対称に描けないのだが、そもそも毛があるときから左右対称には描けてなかったので、ミドリは早々にあきらめていた。

それっぽい眉毛になったと思ったミドリは、化粧品のポーチをキャリーバッグに入れたあと、スマホでevernoteの持ち物リストを開いて、荷物の入れ忘れがないかチェックボックスにチェックを入れながら確認した。

ベランダの窓越しに、太陽の光が強くなってきたことが見てとれた。今日も暑くなりそうだとミドリは思った。

黒のTシャツとカーキ色のリネンのワイドパンツに着替え、その上から黒白チェックの前開きワンピースを羽織った。

最後にウィッグとマスクを着け、黒のキャスケットを被ったところで、家を出るまでにはまだ10分あった。

ミドリはまたキッチンに向かった。電気ケトルに水を入れてお湯を沸かし、冷凍庫からクリスタルマウンテンブレンドの豆を出して20gをはかってからミルでガリガリ挽いた。カリタの銅製のドリッパーに紙フィルターをセットしながら沸いたお湯の温度が下がるのを少し待ったあと、コーヒー粉を蒸らして3回にわけてお湯を注ぎ、コーヒーを落とした。

コーヒーポットからマグボトルにコーヒーを入れかえてしっかりフタをしたあと、シンクの上でマグボトルを斜めにしたり逆さにしたりしながら、コーヒーが漏れないか確認した。

マグボトルをリュックの外側のボトルポケットに入れて黒のリュックを背負ったミドリは、一限からZoom授業だという大学生の息子に「じゃあ、行ってくるね」と声をかけた。ソファーでオートミールの朝食をたべていた息子は、「んああ」と返事をした。

玄関で黒のスニーカーを履いて、姿見で全身をチェックしてから、ミドリはバス停に向かって、キャリーバッグをガラガラひきながら歩きだした。

抗がん剤の副作用のことを思うと足取りは重くなるが、残りあと3回、苦しみが永遠に続くわけじゃない、と気持ちを切りかえて、ミドリは今日も病院へ向かった。

今日は「文末を全部””で終わらせる」という、佐藤正午さんの『ダンスホール』という小説を真似た実験でした。しかも病院で、スマホで打つという慣れない環境だったので、ややゴツゴツした文章になってしまいました。

文末は一時期研究して、ひそかに人の文章の文末チェックをしていたりするのですが、noteに自分が書くときは結構適当で、たまに読み返してこれはひどいなと思って直すこともままあるという感じでした。

文末に関してはどこかでちゃんと書きたいと思っていますが、「いつか書く書くサギ」にならないようにしたいものです(この最後の一文をで終わらせるのはむずかしくて、あきらめました)。


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大前みどり
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