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怒涛の着信履歴

働くママにとって、仕事中の携帯への着信は、恐怖を感じるものであると思う。「保育園からの電話でありませんように」と祈りながら携帯を見て、がっかりしたことが何度あったことか。

男の子2人を保育園に預けているときは、しょっちゅう電話が来た。「〇〇くん、お熱があって」「〇〇くん、ドアに指をはさんでしまって」が2人分。もう携帯を捨てたくなるくらいだった。実際、この頃が一番余裕がなく、メンタルが壊れる寸前だった気がする。

だが、保育園のあいだにたっぷりいろんな菌に感染したからだろうか、子どもたちが小学生になると、不思議と病気をしなくなり、着信の恐怖からは解放された。


それが、長男が3年生くらいのときだったろうか、午後4時頃、仕事の打ち合わせが終わって携帯を見ると、怒涛の着信履歴が残っていたことがあった。家のある市の市外局番と、携帯電話の番号から、何度もかかって来ていた。

まず市外局番の番号にかけると、長男の通っている小学校からだった。

Mくん(長男)が車にはねられて、救急車で運ばれたそうです。ご近所のTさんがたまたま居合わせて、救急車に一緒にのって病院に行ってくれています。お母さんの携帯に何度もかけたのですが、つながらなくて、お父さまにもかけたのですがつながらなくて、何度もかけさせていただいてました」

これには、血の気が一瞬にしてひいた。
その電話を切ってすぐ、携帯の番号にかけると、Tさんだった。同じマンションで、子どもたちが同じ班で登校していたママさんだ。

「今、先生に見てもらっているところです。救急車のなかではMくん大丈夫って言ってましたけど……。マンションの横の道から、Mくんが自転車で飛び出しちゃったみたいなんですよね。そこにタクシーが通ってはねられたようで。私も見てないからわからないんですが……。救急車の音で外に出たらMくんで、お母さんがいないからってとりあえず学校に連絡をして、それから私がつきそいました

もう本当に、「すみません」と「ありがとうございます」を何度も繰り返しながら電話越しに頭を下げ続けた後、教えてもらった病院に急いで向った。だんなさんとも連絡がつき、すぐ病院に向かうとのことだった。

病院につくまでの間、生きた心地がしなかった。ひどい怪我だったらどうしよう、もし打ち所が悪かったら、と悪い想像ばかりが浮かんでいた。

病院につくと、すぐにだんなさんもやってきた。
Tさんがロビーにいて、簡単に状況を説明してくれた。

「頭を打ってるかもしれないので、検査しているそうです」

Tさんには何度もお礼をいい、帰るのを見送った。

それから学校の校長先生がいらしてくれた。「何事もないといいですね」とロビーで話しながら待っていると、ふらりと長男が現れた。普通にぴょんぴょん歩いて、少しにやけた顔をしていた。

「なになに、大丈夫なの?」

「うん」

「骨折とかしてないの?」

「うん」

あとから聞いた話を総合すると、自転車でタクシーにぶつかったものの、転び方がうまかったらしくどこにも怪我がなかったそうだ(長男いわく、自転車を捨てて、とっさに後ろに飛んだとのこと)。擦り傷さえなかったというのは奇跡に近いのではないだろうか。さらに、タクシーがそんなにスピードを出していなかったことも、幸いしたそう。

「車にはねられた」けど「どこにも怪我がない」という結果がわかるまで、親として地獄から天国に行くような時間を過ごした。

病院からの帰りに、救急車に同乗してくれたTさん宅に家族でお礼を言いに行った。「何事もなくてよかったね」と笑顔で言ってくれて、長男もほっとしたようだった。

さらに夜、タクシーの運転手さんとタクシー会社の人が自宅に謝りにきた。

運転手さんは女性で、「もう私、心臓が止まるかと思って」と手を震わせながらお話されていて、長男がピンピンしていることに「本当によかった……」と長い息を吐いていた。

私も、運転手さんが罪の意識を背負うことにならなくてよかったとつくづく思った。悪いのは飛び出した子どもでも、車の過失になってしまうし、重大な事故だったとしたら、罪の意識は一生ついてまわるだろう。そうならなくて本当によかった。

それにしても、事故のとき、Tさんがいなかったらどうなっていたんだろう。保護者がいない場合、子どもだけが救急車で運ばれるのだろうか?

幸いなことに、それ以来子どもたちが事故にあうことなく成人前後の年まで育ってくれたのでわからないけれど、もうあんな思いは二度としたくないという出来事だった。


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大前みどり

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対話ファシリテーター、ワークショップデザイナー。考えたこと、体験したこと、学んだこと、記憶の断片の記録。乳がん治療の日記も。