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沼津ではまったドジの沼

「あ」から順番に、地名にまつわる記憶を思い出しながら、エッセイっぽいものを書いています。

前回から時間があいたけれど、今日は「ぬ」。静岡県の沼津への出張の話です。

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2年前のこと。
ある独立行政法人からの依頼で、植物化学や農学領域の若手研究者が集う2日間の研究会の、プログラムの一部のセッションをコーディネートすることになった。100名以上の研究者同士が領域を超えて一同に会し、新たな研究領域を設定していくことを狙いとしている研究会だ。

セッションのメインファシリテーターは実績のある方にお願いをし、私はサブとしてサポートをすることに。さらに、グラフィックレコーダーとアシスタントをしてくれる方もお願いし、4人のチームで対応することになった。

その時間が実り多いものとなるように、そして軸になるコンセプトがずれないように、主催者であるクライアントと事前に何度も打ち合わせを重ねた。

そしていよいよ当日を迎える。
私たちは大会2日目の午前中のセッション担当だったので、大会1日目終了後の会場でグラフィックレコーディングのためのセッティングを行うことになっていた。

早めにホテルにチェックインをしてから会場に向かおうと思い、品川駅からこだまに乗る。

沼津についたら、セッティングが終わった後でスタッフチームで食事ができる店を探そう。沼津は漁港が近いから、お刺身がさぞ美味しいだろう。などと、メインの仕事のことより食べることの方に期待が膨らんでいた。

駅でおりて、Google mapを見ながら予約をしていたホテルに向かう。だが、目に見える道路の形やお店の名前が、なぜか地図と一致しない。スマホをぐるぐるまわしながら、ひとまずホテルがあるはずの方向に向かって歩く。

駅から離れるほど人通りも少なくなり、あたりも薄暗くなってきて、ホテルどころかお店ひとつない。おかしいなあ、もしかしたら駅の反対側なのかな?と思い、いったん駅に戻ることにした。

来た道を戻って駅に近づいていくと、駅舎の建物に、大きな「JR」のマークと「三 島 駅」という文字が浮かんでいた。

「三島駅?」

私は「沼津駅」周辺の地図を見ながら、「三島駅」周辺を彷徨っていたのだった。地図が一致しないのも当たり前だ。

沼津までは三島駅で東海道線に乗り換える必要がある。事前に電車の時間を調べてそのことはわかっていたはずなのに、美味しい食べ物のことばかり考えている間に乗り換えのことをすっかり忘れ、三島に着いた時点でそこを沼津だと思い込んでしまった。

いつもながらの自分のドジに飽きれつつ、あわてて東海道線に乗り、沼津に向かった。

今度こそ、ちゃんと沼津駅に到着した。道路も地図と一致した。無事にホテルに辿り着いた。

チェックイン後、会場に行って他のメンバーと合流。会場のレイアウトや、備品を確認し、グラフィックレコーディング用のセッティングをした。その後、美味しい魚が食べられそうなお店を探し、運営チームの4人で食事をして翌日に向けて意識をチューニングした。


当日の朝は、開始前に何人かの研究者の方にヒアリングをさせてもらった上で最終的な内容を決定し、ワールドカフェ形式の対話会を行った。

研究者の方々は、植物研究領域のトップランナーだが、それぞれかなり細分化された専門の研究に従事しているので、少し領域が異なると接点がほとんどないということに問題意識を持っておられた。そこで、参加者の方々がお互いにオープンに話せる空気ができるよう、丁寧に丁寧に、場を活性化させていくことを繰り返した。

その1つのしかけとして、出てくる発言をどんどん拾って、前日パーティションに貼った模造紙にグラフィックレコーディングをしていった。

結果的に、対話会もグラフィックも非常に満足をいただいて、無事に私たちのお役目は終了した。そこででてきた内容については書けないが、未来の研究への種がたくさん蒔かれていたようだ。


それにしても、これまで仕事で本当にあちこちに出張してきたけれど、いつも会場とホテルと食事をする場所以外、その土地を歩いたことがほとんどない。

時間がないからしょうがないことかもしれないけれど、今思うとちょっと悔やまれる。その土地ならではの景色、空気をもっと肌で感じて、観察しておけばよかったなあと。

これを書きながら、Google mapのストリートビューで、私が2年前に彷徨った三島駅周辺の道は辿ってみたけれど、それはPC画面の中のことで。全身の毛穴で感じるような空気感は、そこにはない。

旅をすることは、自分をその土地に開きにいくことだ。その土地の空気、エネルギーを取り込み、自分の息、エネルギーを置いてくる。そうやって、土地から土地へ、花粉を運ぶ蝶や蜂のように、私たちは土地のエネルギーを運んでいる。だが、自分を開いていないと、花粉を運ぶことができない。残念ながら。

まあ、そんなことを悔やみながらも、日々せっせとウォーキングをして、地元の土地のエネルギーともっと仲良く交わろうとしている今日この頃である。

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