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吸って吐くように、読むと書くには

昨日の続きです。
若松英輔さんが講座で言われていた言葉について。

本当に読みたければ書くこと
書くと今まで閉じられていた扉が開く

ただ読むだけだと、車で五合目までいくだけ
そこから書くという名の杖で山を登る

呼吸と同じ 量的にではなく質的にやる

ここでいう呼吸と同じ、というのは、吸って吸って吸ってだけだと呼吸じゃなくて、吸って吐いて、吸って吐いて、と必ずワンセットになっているという意味です。読むと書くも、ワンセットでやりましょうね。しかも量を追い求めるんじゃなくて、質的に深くやりましょうということです。

じゃあどのようにそんな読むと書くを実践していくかということを考えていたときに、ちょっと前に読んだ哲学者の西研先生の講演録を思い出したので、関連して投稿しておきます。


西研先生の講演録「哲学から見た国語教育」

読み応えがあります。
レイアウトはえらく読みにくいですが (笑)、文章はとても読みやすいです。哲学に関してとても大事なことを言われているのでぜひ全部読んでほしいのですが、かなり長いので、時間のない方はずーっとスクロールしていって、

Ⅲ 「書くこと」においてもっとも大切なこと

のパートだけでも。とてもすばらしいです。


「正解」とか「場にふさわしいこと」を敏感に察知してそこに合わせる形で言葉を出すことを身に付けてしまっている人が、たくさんいるように思います。しかし、自分の感覚を信じて表明する自由さが体感できないと、書くことは自分を表現するものにならない。

これは、とても実感があります。もちろん、学校や仕事ではそういうことを求められていることが多く、だから身につけてしまっているわけですが、それをずっと繰り返していると、自分の感覚を言葉にすることにものすごく大変さを感じるようになってきます。

私は仕事の関係で、これまでおそらく数万人の方々の働きがいややりがいについての体験、エピソードを、作文のような形のアンケートで拝見しているのですが、それだけの数を読んでいるとつくづくそのことを実感します。

のびのびと書ける人というのはおそらく2%くらい。報告書のように、無味乾燥なものがほとんどです。インタビューで話をしながらであれば、表情とともにいろいろなエピソードが出てくるのですが、どうにも書くとなると、とたんに人が変わったようになる方が多いです(まあ、職場では「表現」を求められていないからというのが一番大きな要因としてあるのですが)。


書くときには自分の感触を見つめていって、そこにふさわしい言葉を探すのですね。どういう言葉を組み合わせていけば、この感触がぴったり言えるだろうかと試す。しかしこれはただ感触に言葉をあてはめるというより、言葉にすることによって感触そのものを確かめてもいるのです。言葉にすることによって、「ああ、こんなふうに自分は感じていたのか」とわかってくる。

まさにこういうことを日頃からやっておかないと、たまに書いたとしても、運動会のときのすってんころりんのお父さんになりかねません。

私は2004年に最初のブログを始めて、その後facebookも含め、断続的に書くことはしてきたものの、その多くは人の目を意識したもの(なんかしらのアピール)か、ただの心のつぶやきみたいなものでした。そこを入口にしてぐぐっと踏み込んで「ああ、こんなふうに自分は感じていたのか」というところまで行く前に、あきらめていたというかごまかしていたというか。今でもややその傾向はあります。


こちらの講演録では、さらに、読みについても重要な示唆があります。

とくに大切なのは、この文章も一人の生きた人間から発せられている、ということの体感ですね。「さまざまな異なった立場、自分とは違う世代とか階層とか性とか時代に生きる人びとがいる。そういう人びとが何かの必要があって言葉を発しようとしている」--そういう感覚がすごく大切
いったいこの人は何でこんなことを言わなくてはいけないのだろうか、どういう生きている場所や生存の条件のもとで、どういうことが引っ掛かって、何でこんなことを言わなくてはいけないのだろうか、そのことを問いかけ感じ取ろうとする。ぼくはこれが一番大事だと思うのです。
読んでいて、自分の中に共感と反発が生じる。でもすぐにそこにいかないで、いったん自分の気持ちを置いて、彼はどうだったのだろう、彼女はどうだったのだろうという、筆者そのものにも思いを巡らせてみる。そういうことを通じながらふたたび、自分の共感と反発じたいを見つめ直す。


おそらく、西先生の言われるように、自分の感覚を確かめながら書くということを重ねていないと、こんな風に読むことはなかなかできないんじゃないかと思います。でもこういう読みを続けていくことは間違いなく、自分の書くにも、思いっきりフィードバックがされていきますよね。感触を見つめる目と、感覚をたしかめる感度は、間違いなくあがっていく。

毎日、いろんな方のnoteを拝見していても、そこまでじっくり読むことはなかなかできていなかったので、もう少し丁寧に、読むということにも、取り組んでいきたいと思っている次第です。

書くためにはよく読むこと、逆もまたしかり。
言うのは簡単ですが、深く呼吸をするように、丁寧に重ねていかないと、ただの無意識の浅い呼吸で終わってしまうと思うので、そこは意識していきたいと襟を正しているところです。

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