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美容院でウィッグカットをしてもらう

抗がん剤を始めると、だいたい13~14日目にごっそりと脱毛するという。自分もとうとうカウントダウンが始まったので、その日に向けての準備を進めている。

数十万もするちゃんとしたブランドのウィッグを購入すれば、自分の毛質や毛色に近い髪形でウィッグを作り、調整やカットなどサロンで何から何までやってもらえるが、そんなにお金をかけたくないしかけられないので、ネット通販で、失敗覚悟で既製品のウィッグを購入した。

そんないくつか購入したうちの一番高かった人毛100%のウィッグが、どこからどう見てもウィッグでしかなく、一番見た目がひどかった。安ければまあしょうがないかであきらめもつくが、数万の出費を捨てるのはしのびなく、どうにかならないものかと、ウィッグのカットをしてくれる美容院を検索した。

ウィッグカットをしてくれる美容院は意外と少なく、こういう時期にあまり遠くまで出かけたくないと思っていたが、運よく地元でカットしてくれる美容院があったので、ネットで予約をした。事前に注意事項なども知らせてくれて、安心してお願いできそうだった。


予約をしていた今日の13:00過ぎ、出かける準備を終えてソファーでテレビを見ていたら、お昼を作りにあがってきた長男が「あれ、雨降ってる?」とベランダの窓から外を見て、「雪になりそうだね」という。

やばい。原付で美容院に行こうと思っていたのに。

「まじかー、じゃあ美容院、車で行こうかな」

というと、

「え、大丈夫?」

ときかれる。月曜に抗がん剤を投与したばかりで、車の運転して大丈夫なのか?というつっこみだ。

車の運転は大丈夫なんじゃないかと思ったが、

「うーん、じゃあ、車で送っていってもらえると助かるんだけど。。。その代わり、お迎えも来てくれる?」

と試しに言ってみると、

「ん-、まあ、いいよ」

ということで送ってもらえることになった。ラッキー。


初めての美容院はいろいろ緊張するものだ。しかも地毛ではなくウィッグのカットで、何をどう伝えればいいのかじゃっかん不安だったが、美容師さんがテキパキといろいろ説明してくれたので、安心してお任せできそうだった。

まだ地毛は普通に残っているので、インナーキャップをかぶってからウィッグをかぶり、その状態でカットをする。

「どこが気になりますか?」

「何かわからないけど、とにかく不自然で気持ち悪いんです」

「どこが特に気持ち悪いですか?」

「ここ(横)の毛が長いのが不自然で、前髪が多いのが気持ち悪くて、上がぺしゃんこなのも変で・・・だけど、どこをどう直すと気持ち悪くなくなるのか、よくわからなくて」

といろいろ口から出るままに伝えると、

「そもそもウィッグが不自然な理由は、毛量が多すぎるからなんです。私たちの髪って案外少ないんですよ。ただ、ウィッグであまり少なくすると中のネットや地肌がすけて見えてしまうので、どうしてもある程度の量は必要なんですよね」

といいながら、じゃあここをこうしましょうか、ここは少しこうできますから、などと私がいやだなと思っているところに手を入れる案をどんどん出してくれた。実際にはさみを入れてしまうと元には戻せないので、そこの確認を丁寧にやってくれる。

「はい、じゃあそれでお願いします」

ということで、実際にはさみを入れていった。
切りながら、

「ウィッグは消耗品なので、使っているうちにどんどん抜けていくんですよね。だから最初は毛量が多くなっているんだと思うんですが、それにしたってこれは多いですね。ウィッグを使い慣れている人は、なるべく毛量の少ないものをお買いになってますね」

とウィッグについて説明をしてくれる。

「でも、これは毛の質がいいですね。ヘンな癖もついていなくて」

「そうですか!よかった。人工毛のウィッグもいくつか買ったんですけど、やっぱり人毛と比べると不自然で」

「あー、やっぱりツルツルしてますからね。それもでも、3回くらいシャンプーするとだいぶ自然になってきますよ。逆に人毛は痛みが早いです。抜けたり縮れたり切れたり。なので人工毛の方が全然持ちがいいですよ」

「え、そうなんですか?」

だったら高い人毛を買わずに、人工毛を使い回した方がよい気がしてきた。。。

「冬は静電気で痛みやすいから、リンスでコーティングしてあげるといいですよ。油分が静電気を押さえてくれますから。ケア製品も、ウィッグ用じゃなくても、今までご自分で使っていたもので十分です」

そんな風にいろいろお話をしてくれながら進むカットによって、ウィッグの不自然さも徐々に減っていく。

「近くでウィッグをカットしてくれるお店があってよかったです。検索してみるとそんなになくて」

「そうですね。たまに結構遠くからいらっしゃるお客様もいますね。ウィッグを切ると、ハサミが痛むんですよね。だから研ぎに出さないといけなくて、割りがあわないので、それでいやがるところが多いんじゃないですかね。結構自分でカットしちゃうというお客様もいらっしゃいますよ」

「取り返しのつかない失敗をしたら、ショックが大きそうで 笑」

「はやく治療が落ちつくといいですね。治療後は、育毛剤を使っても赤ちゃんのような毛が生えてくるだけなので、そのあと髪をどう育てるかのほうが大事です。そのときはプロテインが一番いいですよ。摂取してよいかは治療との兼ね合いもあると思いますが、健康な髪の毛が生えてきやすくなりますよ」

などと参考になるアドバイスももらった。今後も、新たにウィッグを購入した際に、相談できる美容院があるというのは心強い。カットが終わってウィッグを外すと、インナーキャップの中の髪がへなっと乱れていたので、それもブローをして直してくれた。

長男に「もう終わるからお迎えよろしくー」と電話をし、レジの前に行くと外ではぼたん雪が激しく舞っていた。車で送迎してもらえて助かった。長男は帰宅してからコーヒーまで淹れてくれた。いうことなし。


夕方、11月で止まっていたモーニングページのノートを開いた。
毎日続けていれば年末に使い終わっていたはずのノートは、ちょうど半分くらいのページが残っていた。新しいノートに変えて心機一転という気持ちにはならなかったので、そのまま久しぶりにペンを走らせる。

ペンを持つと、手が動く。言葉が連なると、心が動く。
とまっていた時間もまた、動き始める。


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