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# 57 NYのガーデナー達のソーシャルイベント。Plant-O-Rama レポート(3)最終回。

先週行われた、バーチャル・シンポジウム、”プラントー・ラマ” Plant-O-Rama のレポートも3回目。(1回目はこちら。 2回目はこちら
長くなってきているので、少し駆け足でお伝えしようと思います。
まずは、残りの2つの講演から。

 ニューヨーク市内で冬に咲く花

アダム・ドゥーリン (Adam Dooling)さんは、ニューヨーク植物園のキューレーター。中でも1・2年、多年草が専門です。
今回は、冬(12月21日から3月20日頃)の間、ニューヨーク市の戸外で花を見ることのできる、寒さに強い植物を紹介してくれました。
日本人におなじみの植物が勢ぞろいです。
ヘレボラス(クリスマスローズ他)、福寿草、スノードロップ、シクラメン・コーム、エリカ、ロウバイ、ミツマタ、トサミズキ、ヒイラギナンテン、椿、そして梅。
アダムさんは、日本に研修で来た時に淡路島で見た、大きな枝垂れ梅が忘れられず、それ以来、梅は一番好きな花木となっているのだそうです。

私が住み始めた30年前のニューヨークでは、梅やサルスベリは、市の南の区、ブルックリンで、かろうじて育つと言われていました。
それが今では、寒さに強い品種を選べば、市内どこでも栽培が可能になっているようです。
アダムさんの話を聞いていても、ニューヨークは、ひと昔前の日本の植物を積極的に取り入れている気がします。気候が似てきているんですね。
今の日本はまた一段と夏の暑さが厳しくなってきてますけれど。

ちなみにニューヨークでは、椿と梅は剪定をほとんどしません。なので、梅の木はぐんぐん大きくなっています。梅園の風景はまだ浸透していませんよ。

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(のびのびと咲く梅の花です)

西海岸と東海岸での庭づくりを通して

最後のスピーカーのお話も気候の変化に順応という点で、少し関連しているかもしれません。
ボブ・ハイランド (Bob Hyland)氏は、今レポートを書いている、この”プラントー・ラマ”の創立者の一人です。アメリカ大陸の東と西、両海岸でのキャリアを通じ、自分の園芸人生を振り返りながら、気がついたこと、今住んでいるところの様子などを話してくれました。

この地図は、以前こちらのブログでご紹介した、農務省が発行する、アメリカの植物のための「耐寒ゾーンマップ」です。黒い丸印(●)がついているのが、ボブさんが植物を通じての経験をした場所です。

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(ゾーンマップを使って、自分が植物と関わっていた場所を紹介するボブさん<右上>。ボブさんのプレゼンテーションより)

ニューヨーク、ロングアイランド生まれのボブさんの植物との関わりはフロリダ,ノースカロライナ、に始まり、ペンシルベニア州のロングウッドガーデンで教育、仕事の経験を積んだ後、西海岸へ移って、サンフランシスコ植物園に勤務。「今まで温室で育てていた植物が屋外で育つということに魅力を感じました」。その後、東海岸へ戻り、ブルックリン植物園の副園長として就任。「何でも屋でした」というくらい、幅広い仕事をする中、立ち上げたのが、このプラントー・ラマでした。

その後、パートナーと2人で、ニューヨーク市の北に位置するハドソンの町で、夢であった、「自分の好きな、そしてみなさんにも知ってもらいたい、なかなかお目にかかれない植物を栽培、販売」するために集めたニッチな植物を扱うナーサリー (ルーミス・クリーク・ナーサリー)を立ち上げました。

現在はまた西海岸へ。パートナーの転職に伴い、西海岸のオレゴン州、ポートランドへ移動。「(耐寒)ゾーンが、5bから8bに、3つも上がる(暖かい)ところへ引っ越すっていうのは(冬の寒さがマイルドで短いので)嬉しいことでした」。
セント・ヘレナ山を望む斜面に住まいを構え、ガーデンデザイン、ガーデニング用コンテイナーなどの販売などを行っています。
コンテイナー・ガーデンは彼のスペシャルティのひとつ。「コンテイナーに植えていれば、好きなところへ動かせる。いわゆるひとつの『動くアート』です。ぎゅうぎゅうに植えるので、ごちゃごちゃしているという人もいるかもしれないけれど、それが私のスタイルです」。

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(ボブさんが現在住んでいるオレゴン州ポートランド。ボブさんのプレゼンテーションより)

ボブさんのように住む先々で、その土地の気候を理解し、気候に合った植物を見つけて育てたり、デザインに用いることは、大変ですが、大きな愉しみや喜びも与えてくれます。
「今住んでいるところは、地中海性気候に似ています。雨季と乾季があるので、ポルトガル、スペイン、オーストラリアの南西の海岸沿い、などに育つ植物が合っています。6月から8月はほとんど雨が降らないんですよ」。オレゴン州と聞くと 雨がしとしと降ってコーヒーでも飲まないと気分が晴れない所 と思ってたので意外でした。40℃を超える暑い日もあるとか。
植物のリサーチ、入手、栽培はお手のもの、のボブさんは、環境に優しい植物、夏の乾燥に耐える植物の中でも鑑賞するのに美しいもの (細葉の柊南天 Mahonia  eurybracteata など)にトライ。日本で見かけるイカリ草などの植物も。温暖化でサンフランシスコで育っていたボトルブラシ・ブッシュ(ブラシの木Callistemon)などがその北に位置するポートランドでも育つようになってきていることも気づきのひとつ。

8年から10年のスパンで移動を繰り返す自分を振り返り、
「そろそろオレンジ色のエリア(Zone Mapの暖かいところ)に引っ越す頃かな。海外かも。コスタ・リカとか。寒いところに引っ越す気はもうないですね」。
ガーデナーにとっては、マイルドな気候に恵まれ、一年を通して、植物とともにアクティブに過ごせるのは憧れですね。ボブさんもそんな1人のようです。

日本でも、気候が似ている地域を世界から探して、そこに育つ植物を使うことは、ガーデニングの成功に繋がりますね。もちろんローカルの植物を使うことも忘れてはいけませんが。


2. 出展者のプレゼンテーション

いつものシンポジウムだと ブースにやってくる人だけを相手にして同じことを繰り返し話す業者さんにとって、バーチャルですと、まるで映画のコマーシャルのように ほぼ全員に見てもらえるので より良い効果があるのではないでしょうか。

プレゼンテーションでは植物の卸、小売店として、長年親しまれているナーサリー、庭のデザインや設計・施工を行う業者、庭のライティング(照明)デザイン、コンテイナーの製造会社、人工の植物を製造・販売する会社の方々が効率よく宣伝していました。今のご時世が反映されているなと思ったのは次のようなことです。

(1). コンテイナー、ライティング、イリゲーション(灌水)

ニューヨーク市は土地(土のある地面)が少ないこと、生育には悪条件の環境が多いこと、コロナの影響などで、コンテイナー・ガーデニングの需要は伸び続けています。
特に木などが入れられる大きいサイズのものは、都市に特有のものかもしれません。
以前は大きいコンテイナーといえば、、セメントやプラスチックでできたイタリア風テラコッタ鉢、四角いティーク材のものなどが多く、あまりデザインは気にしていなかったニューヨーカー達にも最近は、様々な素材(ファイバーグラス、金属、)や形のものが取り入れられています。テラコッタは、冬、土の水が凍った場合に割れやすいので、あまり大きなものは見ることがありません。

換気という点から、屋外で時間を過ごすことが多くなったので、アウトドア(お庭など)の照明施工の会社は忙しかったそうです。ムードのあるソフトな照明とは逆に、高齢者向けに足元を明るくして欲しいというリウエストも増えたとか。

都会を離れて郊外の別荘で過ごす人のために、留守の間も水やりの心配がないように、ルーフトップや裏庭に灌水装置をつけておく人も多いのですが、こちらの方も需要が伸びたようです。

(2). アーティフィシャル・プランツ?

「あくまでも本物が育つならそちらに越したことはないんですよ」。最初は、なぜ、アーティフィシャルの木?それもガーデナーや植物のスペシャリストに向けて?と思いましたが、話を聞いているうちに必要不可欠な場所もあることを認識しました。こういうビジネスもあるんですね。
ニュー・グロウス(th)・デザインズ (New Growth Designs)です。コレクションをクリックしてご覧になってみてください。粗末な偽物、という感じはありません。面白いですよ。
思い出すのが、マンハッタンの五番街。一年中工事をしているようなところは、足場が組まれて、高級アパート(日本でいうマンション)の入り口は真っ暗。大抵は、トピアリーなどの植木が上品に飾られているわけですが、人通りが多くてゴミや埃にまみれ、育てるのは困難だし、見ている方がかわいそうになってしまいます。そういう場所で、「こんなところでよく育ってる!」と近づいてみたら、本物かと見まごうばかりの人工のボックスウッド(ツゲ)のトピアリーでした。
「庭の後ろの方に垣根がわりに人工の木を植え、手前は植物にして、手入れを楽にするという手もあります」。こういうのもあり、なのかもしれません。高層ビルにあるテラスの小さなスペースにちょっとしたグリーン。オフィスのパーテーションなども、人工的でも緑の方がいいですよね。

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(この会社New Growth Designsのウェブサイトより。まるで本物です)

(3). 病虫害、土壌の相談窓口は、大学の研究機関

日本にもあるかもしれませんが、ニューヨークではコーネル大学の研究機関が、土壌テスト、植物の病虫害についての窓口として、相談にのってくれます。植物をビジネスにする業界の人にとっては大変心強い味方です。今回は、樹木の担当者がプレゼンテーション。「最新の情報を知ることで、手遅れにならずにすむこともたくさんあります。ウェブサイトも充実していますが、メンバーになればニュースレターも送られてきますよ(年10回で65ドル)」とアピール。ニューヨーク州としても、危険な害虫や病気が広がるのを防ぎ、州の植物、ビジネスを守りたいのですから、お互いの協力は不可欠です。

(4). ナーサリーのオーナーのプライベートガーデン

ニューヨーク、ロングアイランド島のほぼ東端に位置する、ランドクラフト・ガーデン。もともとは、ニューヨークのガーデナーたちの間でも人気のナーサリーでした。植物が好きなオーナー(デニス・シュレーダー氏)とパートナー(ビル・スミス氏)が、トロピカルな植物で明るくエキゾチックな、でもナチュラルなデザインをするための植物を栽培、販売していた、という印象があります。
一線を退いた2人ですが、ランドクラフト・ガーデン・ファウンデーション (Landcraft Garden Foundation)という財団が作られ、夏の間、一般の人が庭を見学したり、ワークショップをしたり、植物を購入できたりする場所として解放されることになりました(有料)。
元々、新鮮で驚きの植物セレクションで知られるナーサリーでしたから、庭に育つ植物の選び方、使い方、参考になることばかりです。こちらもぜひサイト最初のページだけでもご覧になってみてくださいね。

以上で、レポート終了です。最後までご覧いただき、ありがとうございました。

ニューヨークで育つ植物が、大阪の私のテラスで育たないのは、私のせいではなく、気候が合わないからだと信じたいです。
これからは、オセアニアあたりの植物に目を向けてみようと思っているところです。

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(植物園のトサミズキ、ヒュウガミズキのコレクションとワイルド・ターキー)


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