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# 55 ニューヨークの園芸業界の冬のソーシャルイベント。Plant-O-Rama レポート(1)

こんにちは。長らくのごぶさたでしたが、また少しずつ書き足していこうと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

ニューヨーク市と近郊の園芸業界の人のネットワーク

ニューヨーク市で「トライステート(tri-state region、3つの州)エリア」という場合、ニューヨーク市と北に隣接する近郊、東隣のコネチカット州(南部)、西隣のニュージャージー州(北西部)、を指し、マンハッタンへ向かう通勤圏にあたるエリアです。

ニューヨーク市とトライステートエリアを緑の園にするのに一役買っている人たちのグループの1つに『メトロ・ホート・グループ(Metro Hort Group)』があります(google でMetro Hort Group で検索)。
おそらく名前は、Metropolitan Horticulture Groupからきています。
公園、植物園、個人や法人の庭の設計、施工・管理会社、などで働く人々が、定期的に集まって、勉強、研修、情報交換をしています。
メンバーの職種は、ガーデナー、ガーデンデザイナー、ランドスケープデザイナー、ランドスケープ・アーキテクト、エデュケーター、キューレーター、植物の栽培・販売(ナーサリー)、木の手入れの専門家、など。
何百人もいるメンバーの全員と知り合いにはなれなくても、ネットワークはあっという間に広がって行くので、すぐに顔見知りばかり、ということになります。

シンポジウム『Plant-O-Rama (プラントー・ラマ)』

このグループが主催して、年1回、1月の終わりに、ビッグ・イベントとして行われるのが、『プラントー・ラマ(Plant-O-Rama)』というシンポジウム。「プラント」と「パノラマ」を組み合わせて作られた造語です。

通例、ブルックリン植物園の講堂と、パームドームと呼ばれる温室で開かれますが、去年に続き、26回目のイベントとなる2022年もコロナの影響で、バーチャル・シンポジウムとなりました。
ズーム、ということで、久しぶりに出席してみることにしました。
このイベントには、メンバーでなくても、入場料さえ払えば、誰でも出席することができます。懐かしい知り合いをパジャマを着てみることができるとは。

『Plant-O-Rama』は、大きく2つの構成からなっています。
1つめは、講演
キーノート・スピーカーをゲストに迎えてのスライドショー(講演)と、メンバー、他の州、分野の人達をゲストに招き、様々な観点から、昨今の園芸植物業界についての話を聴きます。

2つめは、展示
ナーサリーや、施工会社などが、プロモーションのために小さなスペースに植物や仕事内容を展示して、来場者の質問に答えたりするものです。

そしてもう1つ、園芸シーズン・オフのこの冬の時期に、久しく会えていない友人や同業者たちと近況報告をしたりできる場所としても、人気を博しています。

2022年のトピック

今年2022年、どんな話題が出たか、自分なりにまとめたものをざっとご紹介したいと思います。

講演

1. 植物好きの庭づくり(アイルランド)
2. アメリカの中での黒人園芸家の歴史
3. フィラデルフィア・フラワーショーのデザイン
4. ネイティブ植物をデザインに使うためのアプローチ
5. ジェヴィッツ・コンベンションセンターのルーフトップ・ファームの最新情報
6. ニューヨーク市内で冬に咲く花
7. 西海岸と東海岸での庭づくりを通して感じている気候の変化など

1. 植物好きの庭づくり(アイルランド)


今回のメイン・スピーカーは、アイルランドの園芸家、ジミー・ブレイク(Jimi Blake)氏。2020年に出版された本、"A Beautiful Obsession”。植物の魅力にとりつかれて、自分の庭を作ったジミー。何ともインスピレーションの湧く、このお話は、近いうちに詳しくお話させていただきます。

2. アメリカの黒人園芸家の歴史

園芸・ガーデニングの歴史や意義についての講演、執筆活動を続ける、アブラ・リー(Abra Lee)さんは、忘れ去られていることが多い、功績を残した黒人の園芸家、プランツマンを発掘して、車で巡っているみたいな構成で紹介。オハイオ、カリフォルニア、フロリダ、ジョージア、、、最後はニューヨーク州。
例えば、テキサス州。ハーディング・ニューサム氏は、第二次世界大戦で日本にやってきた黒人兵士。日本の庭の美しさに魅せられ、戦後、勉強し直し、ランドスケープ・アーキテクトとして、庭のデザイン、設計、施工、管理、そのための植物も育てたそうです。桃やオレンジにまつわるストーリーも。
黒人の功績は、なかなか表に出にくいので、貴重なお話でした。

3. フィラデルフィア・フラワーショーのデザイン

アメリカ東海岸で一番大きいフラワーショーは、ペンシルバニア州の州都で行われる、フィラデルフィア・フラワーショー。初めて屋外で行われた去年のショーで”ベスト・イン・ショー”を受賞した、ワンブイ・イポリート(Wambui Ippolito)さんが、どのようなプロセスで 9 m x 12 mの庭をデザインしたか、背景を話してくれました。ケニア出身で、子供時代に見ていたサバンナの景観、外交官の母親のもと、4大陸に住んだ彼女の人生の経験を注ぎ込みつつも、独りよがりにならず、来場者に安らぎの感情をもたらすことができるようにと考えました。
庭のテーマと名前を「光と空気」を意味するギリシャ語からとった 「Etherea =エセ(th)リ(r)ア」としました。時間、空間、歴史、感情を入れたもの、だそうです。
10日間のショーにサバンナの植物を輸入するのは非現実的。地面は、硬くて、掘り返すのも不可能。デザインや植物を変えて行きながらも、決めてある色のテーマ、どうしても入れたい三角形の池、などをうまく取り込んで完成。誰かのイメージではなく、自分の中から出来上がったデザインは、多くの人の共感を得たようです。今年はチェルシー・フラワーショーに出展とか。彼女は人の助けを借りるのも上手です。頑張って、ワンブイ!

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(ズームを使って話しているワンブイさん。Metro Hort Groupの画像より)

4. ネイティブ植物をデザインに使うためのアプローチ

頭では、虫や鳥などの生態系の点でも、育てやすさの点でも、外来種よりもローカルに育っている植物を使うのが良い、とわかっていても、なかなか現実のデザインに使うとなると、うまくいかないのが、ネイティブ・プランツ(元々その地に自然に育っていた植物)。定義も様々で、ガイドラインもまだうまくできていません。
今回は、多数のガーデニング本、記事の著者である、トム・クリストファー(Tom Christoper)氏と元ブルックリン植物園のネイティブ植物のキューレーターで、現在、マサチューセッツのネイティブ・プラント・トラストのディレクターのユーリ・ロリマー(Uli Lorimer)氏の公開ディスカッション。
ネイティブプランツとは、どのくらいの範囲を意味するのかという定義に始まり、改良品種でも良いのか、植物は地元で採られた種子や苗である必要があるか、どうやって供給する植物を確保するかなどの植物の問題、気候変動によって、育つ植物が以前と変わってきていることにどう対応すべきかの環境問題、芝生と外来種、キレイに整えられた庭が好きな一般の人々をいかに教育して行くか、などを今後の課題として提供してくれました。
解決策のアイデアとしては、例えば:
・人々に関心のある、蝶やミツバチなどのポリネーター(受粉を助ける生き物)やワイルドライフの大切さからのアプローチ
・地域との協力で、ショッピングモールなどの庭のデザインに積極的にネイティブの植物を使って、人々に馴染んでもらう
・庭の全てではなく、70%くらいをネイティブの植物にしてみる
・地域のガーデンクラブの協力を得て浸透させる
・植物の入手先の情報をわかりやすく伝える
などが挙げられました。メトロ・ホート・グループのメンバーの理解と協力が必要不可欠です。

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(渡り鳥でなく、渡り蝶のモーナーク・バタフライ。お気に入りは、日本の品種のアスターAster tartaricus '神代’シオンです。これは代替植物としてどうなんでしょうか。)

長くなってきましたので、今回は、この辺で終わりにして、次回に続けさせていただきます。

冬の季節は、ガーデナーなど、植物関係の仕事をする人にとっては、ちょっとのんびりできる季節。多くのレクチャー(講演会)がこの時期にあって、ソーシャルの時間が持てるのが嬉しいんです。

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(この写真は別の講演会。比較的小さく、時間も仕事の後の1時間半くらいのもの)


ご覧いただき、ありがとうございました。





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