読了『レーエンデ国物語』

しばらくというかそれなりに前に買っていて、立て込んでいて読み進められていなかったのだけれど、読み終えたので感想を残しておこうと思う。
これから書くから確定ではないのだけれど、もしかしたら物語の内容に少なからず触れる可能性があるので、もしこの記事に目を通す人がいたら、そこだけ注意してほしいと思う。
今回以降、読み終えた本の書評を書いてまとめていこうとも考えている。

タイトルにも載せた通り、今回は『レーエンデ国物語』についての感想を書いて、残しておこうと思う。
王道のファンタジー小説を読んだのはとても久しぶりのことだったから、全編通して楽しく読むことができた。僕は小説だけに限らず、創り出されたものにはどちらかというと非日常的な側面を求めている節がある。ので、ファンタジックな色が濃い作品は好きだ。小説などに触れているとき、どれだけその作品に入っていけるかというのは大切な要素だ。本を読めばその世界に旅立つことができる。

その点、『レーエンデ国物語』はとても良かった。一粒も邪魔の入らない、根元のさらに深いところからのファンタジーだった。かつてこの世界には本当にレーエンデ周辺の国々と、動乱が存在していたのだと信じることができた。
作中に余計な説明が少なかったのも好感だ。読み手側に「知っているよね」とでもいうよな感覚でその世界にしかない言葉を使ってくれるのが良かった。これはこう言う意味の言葉で…などの状況説明がたびたび入ってしまうと、ああこれは作り話なんだなということを意識させられてしまうから。
前半からそれとなくは感じさせられていたのだけれど、半ばを超えてからはこの物語が伝えてくる“人生観”というものに魅力された。若者だけが持つ特有の気概と苦悩、年配者が持つ達観と、そのなかに見える個々人の強さと弱さ。心情の描かれ方は素晴らしいものであるように感じた。いい心も、そうではないところも。

帯惹句にも書かれているけれど、この物語のヒロインであるユリアとともにレーエンデを旅することができるのは読み手である僕らの特権だった。
レーエンデ地方に息衝く人々をすぐ隣で感じることができた。終わりが近くなるにつれて、ページを捲る手は加速した。終わりが近づいてることに気づいたとき、終わってほしくないな、と思っている自分に気づいた。

ユリアとトリスタンの二人の関係性は、読み手の多くが賛同するものではないように思う。でも、彼女たちはあれでいいんだと思う。僕はメリーバッドエンドを迎える作品群が好きなのだけれど、二人の関係性については近しいものを感じられて良い。物語の結末が二人の関係性におけるものではないから、メリーバッドエンドと呼ぶのは相応しくないけれど、二人の関係にのみライトを当てればそう言って差し支えないはずだ。何度も交わされ、繰り返される二人の心情描写が、彼らの間で直接言葉になる機会が少ないのも美しい。

ファンタジー小説にはよく出てくる“不治の病”の設定も物語の根幹に繋がるように綺麗に落とし込まれていて素晴らしかった。
特定の地方に根付く、解明が進んでいない病というものはすでに書いたけれど珍しいものではない。ファンタジー小説を描く上では取り入れられやすい設定の一つだと思う。よく使われるということは、それだけ難しくなることと同じだ。「原因がよくわかっていない」で済ませられることもあるけれど、物語に落とし込むのであれば背景は大切にされなければいけない。そのあたり、レーエンデの病である銀呪病は綻びがない。病に対しての、外地からきた人間の理解度だけではなく、地方や民族特有の伝承も丁寧に結びつけがされていた。主要な登場人物であるヘクトルという人物の行動理念にも結びつくこの病が、作中で物凄く大きく取り上げられるわけではないのに、必ず物語のすぐ側にいるのも良かった。

物語の最終盤では、年代記として文章構成を感じることができる。これから先、レーエンデがどのような道を歩いていくのかを示唆して物語は結末を迎える。今作は、これから続いていくレーエンデの前章として綴られている。
現在『レーエンデ国物語』は第三部までが出版されていて、今後四部、五部と続いていく構想が練られている。今回の感想は第一部に関してのみであるけれど、今後全てが出揃って、レーエンデの年代記が完成するときがとても楽しみだ。

総じて『レーエンデ国物語』は、ファンタジー小説としてとても高い完成度を持っている小説であったように感じる。
小説に「楽しさ」や「明るさ」だけを求めている場合や、「ハッピーエンドが好き」だという方々にはあまりお薦めできないが、僕と同じように、読書による旅を求めている人々にはお薦めできる。
読んでみて損はしない小説であったし、間違いなく記憶に残ることになる小説にもなると思う。
このようなところで、今回の書評もとい感想は終わりにしよう。


冒頭に少しだけ書いたけれど、今後はすでに読んだことのある僕の好きな本や、これから先読んだ小説たちの感想をこうして残していくつもりだ。
詳細を書かずにただ漠然と感じたままに書くだけだけれど、もしこれを読んで興味を持ってくれたのなら、是非僕の通った旅路を追いかけてほしい、と思う。

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