引きこもり

「引きこもりが降りてきたぞ!」

私が1階に行くと、85%くらいの確率で父親に言われる言葉。ついで母親からは「天の岩戸が開いたね!」と70%くらいの確率で。妹からは「久しぶりに顔を見た気がする」との言葉が45%程度。私はあまり部屋から出ない。だから、そう言われるのも仕方がない。

私が自室から出ない(1階に降りない)のには訳がある。私には聴覚過敏の症状があって、雑音が苦手だったりする。父親がよくYouTubeで見漁っているバイク動画、母親の延々と止まらないお喋り、妹が発する突然の奇声。家族は何らそれを気にせず生きているけど、私にはとんでもなくストレスな訳だ。

ならいっそ日中だけでも家族が居ない所へお出かけしよう!そう思ったこともあるが、残念ながら私はアレルギーという厄介なヤツにも付き纏われている。紫外線アレルギー、寒暖差アレルギー、雑草アレルギー。いっそ地上で生活するなと言わんばかりのアレルギーのオンパレード。外に出ることすら厭う身体は本当に人間のものなのか。いっそ人外になれたら幸せだったかもしれない。私はファンタジー生物が好きだから、なれることならそっちの方がいい。

私が人間じゃなかったら何が良いかを考えてみた。日光を浴びずに生きるなら吸血鬼なんかは王道だ。泳ぐのは得意な方だし、水中で生きられるなら人魚になってみたさもある。家事をひっそり手伝って、時々イタズラを仕掛ける家憑きの妖精なんかもいいかもしれない。私が人間じゃなかったら、引きこもりだなんて言われずに済んだんだろうか。そうなれるならそうなりたかった。

ついさっきも、水を飲むために1階へ降りると父親から「引きこもりが現れた!」なんて言われた。私は上手く笑い返すことができなかった。私のひきつった笑顔は面白くなかったんだろう。父親は興味無さそうにバイクの動画の方へ目をやると、それきり喋らなかった。私は今日も自室に引きこもっている。部屋の中央にある、暖色のこたつむりは私だ。

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