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夢【創作】

あれは、なんの夢だったのだろう。
もしかして、あの瞬間私は死んだのかしら。
真っ直ぐにカーテンの間から差し込む光をぼんやりと見つめながら、そんなことを考えた。

その夢は、ずっと夜道を歩く夢。自分が自分でなくなるような感覚をずっと持ちながら、ふらふらふらふら、歩き回る。ズキズキと痛む胸を抱えながら、耳元で鳴る音楽に耳を傾けた。時折耳から胸にナイフが突き刺さる。その瞬間なんとも甘い味がする。飴だ。切なくて甘くて離したくない中毒性のある、そんな味のする飴を舌の上で転がす。甘い。苦い。酸っぱい。でも辛みは味あわせてくれない。なんだかムカついて、センターラインのど真ん中を歩く。私は何者?私は誰?分からないけれど、ただ寂しかった。苦しかった。色んなことを考えているはずなのに考えていないようだった。不意に道路に寝転がりたくなって、ごろりと横たわる。
もし、今車が来たら私の手足はぐちゃぐちゃになって血が迸って車のライトに目が眩んで死ぬのだろうか。ちゃんと寂しい私の心を撫でるように流れる音楽を聴きながら、赤い花のように散る、美しい私の鮮血。どんな人間にも在る光に向き合えなくて眩しいと感じる音楽と共鳴する私に、なんてふさわしい最期だろうか。
そう考えると、興奮した。その瞬間、少し遠くから車の音が聞こえる。興ざめだ。エンジンの鼻についた匂いが無理やり私を現実の世界に引き戻す。しぶしぶ身体を持ち上げると道の端へ自分の体を連れて行った。耳元で鳴るアコースティックギターとムカつくほどに安心するボーカルの声が、通り過ぎるエンジン音と共に目の前を真っ白に染色する。延命治療だなと思った。いっそ死なせて欲しいとすら思った。

そうして、目が覚めた。
気がついたらベットの上で、寝ていた。
これは夢らしい。

部屋に掛けられたコートには、コンクリートの破片がひたりと貼り付いていた。

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