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『ブラッシュアップライフ』に思う幸せな人生

幸せの定義は人それぞれだ。そして、死後をどう考えるかは宗教的な問題でもある。でも、ドラマ『ブラッシュアップライフ』で描かれている主人公、近藤麻美(以下あーちん)の人生と、仮に繰り返せるとしたらというフィクションから何か考えるのは別のことだ。

仮に、死後の世界の案内人に会って、あーちんのように、オオアリクイになるか、あなたの人生をもう一度やるか聞かれたとき、あなたならどちらを選択するだろうか。私は夫婦でドラマを見ていて、実は二人ともオオアリクイを選択するだろうという話になった。人生2週目があったとして、私たち二人が人間として夫婦になることは無いらしい。それでは、もう一度人生をやり直す選択をする登場人物たちは、どうしてやり直すことにしたのだろうか。

幸せな人生とは

時代

あーちんが生まれたのは平成元年。バブル崩壊で親世代は大変なこともあったと想像されるが、子どもの頃に、たまごっちやプリクラなどそれまでには無かった種類の娯楽が広まり、楽しい子ども時代を過ごした様子がドラマでは描かれている。
これが、例えば戦前に生まれた方や、今ウクライナにいる人たちが、もう一度あなたの人生を繰り返すか聞かれたらどう答えるのだろう。子どもたちは、その状況で何かしら遊びを作り出すかもしれないが、平和に過ごせる時代であることはありがたいことだ。
歴史上には、その時代の人々には理解されなかったけれど今では定説となっていることを発見した科学者もいる。その人たちは、もしかすると人生を繰り返すより、後の時代に生まれたかったと言うかもしれない。
私は今のところ、子ども時代が平成であったことに不満は無い。

家族・親戚

あーちんが生まれ変わるシーンでは、両親に囲まれて「麻美ちゃん、生まれてきてくれてありがとう」と言われている。そして、大人になってから何度かこの言葉を思い出す。人生を繰り返すとき、大人の頭で新生児期を過ごすようなので、記憶に残るらしい。この幸せな記憶が欲しい人は多いのではないか。

思春期の女子に特有の発達段階として、父親を嫌うプロセスを毎回繰り返すことが描かれている。それでも、この父母のもとにもう一度生まれることを、あーちんは選択する。親ガチャに失敗しなかったと思えていることは、幸せなことなのだろう。
祖父母に孝行する。親の誕生日プレゼントを買う。そんなシーンも毎周描かれている。いつまでもできることではないことなのだから、大切にしたいものである。

進学・職業

あーちんが繰り返す人生の中で、勉強をどこまで頑張るか、大学進学や就職先にどこを選ぶかは、前の人生を繰り返さなくてもいいことになっている。このドラマでは、はっきり言語化していないものの、見事に就職を見据えた進学をしている。一度、就職活動を経験した後に人生を繰り返すなら、やり直したいポイントはここだ。高校までの進路指導において、得意な科目や大学受験に必要な科目の得意不得意で進路を決めてしまうことが多いように思う。今ある職業が子どもたちが社会に出る頃にあるかどうかは確実ではないものの、子どもの頃から自主的に訓練してパイロットになるというような人生を、子どもたちに見せたいものである。
幸せな人生というテーマで就職を考えたときに忘れてはいけないのは、大人になって仕事がつらくて人生をあきらめてしまう人もいるということである。

そこで参考になるのが、あーちんが自分の仕事を紹介するときの、モノローグ。仕事や職場を選ぶとき、業務内容を意識する人が多いのではないか。仕事の満足度に業務内容が重要なことは言うまでもない。でも、すぐ変えることができないものでもある。そして、一緒に働く人によっても日々の満足度は変わるものだと思う。あーちんの仕事紹介は、出勤風景から始まり、勤務先の妙な風習や、お昼の会話について語られる。会話の内容は人によるが、仕事を選ぶときにこんな日常生活も知っていた方がミスマッチは防げるように思う。
第5話でドラマ制作の舞台裏が描かれる。あーちんは、衣装合わせのときの自己紹介から名前宛てクイズショーを連想する。つまらない日常も、こんな風に笑いに変えることができたら、仕事がずっと楽しくなるのだろうか。もし、あーちんが私の職場にいたら、どう描写してくれるのだろうか。

私生活

ドラマでは、30代で亡くなることが多いということもあり、主人公たちが家族を築くこと周辺の悩みや選択は描かれていない。人生をやり直すときに、進学や就職は自由に選べるけれど、同じ人と結婚するかとなると、とたんに話がややこしくなってくる気がする。
極論、このテーマを考えない方が幸せとも受け取れるが、仕方ない。いつか私は、人生を繰り返してもこの家庭を築きたいと思えるようになりたい。

同じ人生をやり直したいか

ドラマの中で、川口さんが人生8周目をしていて毎回、同じような人生を歩んでいるという。それを聞いたあーちんが、1周目がよっぽど幸せだったのだろうなとつぶやくシーンがある。このドラマのポイントはここではないか。
私自身、今この瞬間の自分にはそこそこ満足はしているけれど、幼少期から含めて全てやり直すことを考えると、ベネズエラのオオアリクイにしますと言うと思う。他の生き物に生まれ変わったら、前の記憶は無くなるのだろうか。もしベネズエラのオオアリクイとして生まれ変わった時に、植物や地質の観察眼や知識があったら、日々の散歩がとても楽しそうだ。もし片言のスペイン語の知識も残っていたら、現地の人たちの言葉が、どれほどわかるだろう。ウニでもサバでも、基本寿命は人間より短そうなので、人が一生を過ごすまでに何種類もの生物を経験することができそうだ。

人によって幸せの定義は異なる。オオアリクイに生まれ変わる死後の世界を信じない宗教もある。でも、仮にフィクションで描くとしたら…もう一度選びたいと思えるような後半生になるように、大切に生きたい。

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