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宣教生活58年。異国の土に帰る生き方。

NOTEでも何度か書きましたが、わたしは生後何日めかで幼児洗礼を受けた根っからのカトリック信徒です。小さい頃は毎週日曜日、当たり前のように教会に行き、ミサという儀式に、それを儀式とも思わず、与るのが普通の生活を送ってきました。わたしにとってキリスト教、カトリックはいわゆる“宗教“という感覚ではなく、生活の延長線上にあるもの、いや生活の基礎となる土壌のようなもの、といえると思います。

教会にはいつでも優しい神父さまがいました。一般の方にはなかなか分かってもらえないのですが、キリスト教は大きく、カトリックとプロテスタントとに分かれ、神父はカトリック、牧師はプロテスタントの聖職者を指します。そしてその大きな違いは、カトリックの神父には(シスターもですが)結婚は許されていないこと。プロテスタントの牧師は普通の人と同じように結婚し、家庭を持っている方が多く、その点が決定的に違います。

つまり、神父になる道を選ぶということは、結婚し、家庭を持つことはしないと決めること。一生を神に、宣教に捧げると誓った人にしか神父になることは許されません。中でも外国へ宣教に行くというミッションを持つ修道会で神父になった人たちは覚悟を決めて故郷を離れ、見知らぬ国へと派遣されます。そして日本にもかのフランシスコ・ザビエルをはじめ、キリスト教禁教の時代も含めて数多くの神父=宣教師が故国を捨てて宣教のために渡ってきました。

‥‥ときょうなんで急にこんなことを書き始めたか、というと、1931年、シカゴで生まれ、神父になって日本で58年間、宣教に務めたトマス・フランシス・マヘル神父さまの葬儀に参列してきたからです。わたしはこのマヘル神父さまと特に深く親交があったわけではないのですが、晩年、もう説教はもとよりミサの司式もできなくなってからも毎週のミサに一信徒として杖をつきながらよろよろと参加する姿が目に焼き付いていました。ここ最近、日本のカトリック教会では、このマヘル神父のような、戦後の日本へ宣教の情熱を持って渡ってきた外国人神父、特に欧米出身の方々が老齢で国に帰されるか、天に召されるか、という状態が続いており、彼らの一生はなんだったのだろうか‥、その思いを、一生を書き留めておきたい、という気持ちがわたしの中で膨らんでいるからです。

神父といってももちろん人間。一度は結婚もせず、神に一生を捧げると決めたといっても、長い宣教生活の中で何度も揺らぐことはあるでしょう。実際に信徒と結婚した神父もいます。わたしはそれはそれでいいと思っていますが、結婚すると神父を続けることはできません。

人間は誘惑に陥るもの。マヘル師の場合は、直接に伺ったわけではないのですが、四国での長い宣教生活の間、過去にアルコールに溺れてしまった時期があったようです。そして治療回復のため一度米国に帰り、その後、再び四国に帰って高知、徳島を中心に当時まだ進んでいなかったAA(Alcoholics Anonimous、アルコホーリクス・アノニマス、無名のアルコール依存症者たち) の組織を本格的に立ち上げ、お酒のために自分自身を見失ってしまっている過去の自分と同じ状況にある人たちのために、自分の過ちも包み隠さず分かち合い、立ち直りに手を貸すことに奔走されました。それが彼の宣教でした。

告別式には、AAでマヘル師と深く交流した方々からのメッセージも多く届いていて、「わたしが酒をやめることで、家族みんなが助かる方法を教えていただき、おかげで33年間生きている」「神父さまの愛のある言葉で多くの仲間が助かった」「AA、酒を断つ自助グループはあなたの大きな遺産です」と代表の方が言葉に詰まりながら、読み上げていたのが印象的でした。

5年前、わたしは小さいときからお世話になり、大好きだったベルギー出身の、日本に帰化して日本人に、そして土佐人になった神父さまが、そんなにも私たちを愛してくださっていたにもかかわらず、最期はたった一人、誰に看取られることもなく玄関先で亡くなっていたのに強いショックを受けました。あの、東日本大震災の直後のことでした。その後、彼の足跡を追うために訪ねたベルギーで、戦後、日本はじめアジアや中南米の国々へ宣教師として派遣され、年老いて故国に帰されてきた神父さまたちが集うホームにも何度か足を運ぶ機会がありましたが、そこで聞いたのは宣教地への熱い思いでした。わたしが、一人、孤独死をしなければならなかった神父さまの話をすると、だれもが「羨ましい。それこそが宣教師のあり方だ」と言いました。マヘル師の85年の生き方にもそれに通じるものがあると思います。

神はそれを良きに変えたもう。

この言葉を思い出した、と司式を務めた司教さまが言われていました。「すべて良し、すべて感謝 トムの心境です」というカードに書かれた言葉も胸に沁みました。

近く、その5年前に高知で一人亡くなっていったベルギー出身の老司祭の物語をnoteにアップしていきたいと思っています。有料100円かな。興味のある方にぜひ読んでいただけると幸いです。

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