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日米ラップ・コンビネーション

「チーム友達」の特大ヒットで国際的な人気を得ている千葉雄喜が先月アメリカのラッパーMegan Thee Stallionのニューアルバム『MEGAN』収録の「Mamushi」という曲にフィーチャーされ、またしてもムーブメントを起こしている。
「Mamushi」はMegan Thee Stallionの日本語でのフックもトピックであるが、千葉雄喜のラップは中毒性が高く何度も聴きたくなる不思議な魅力があり、彼の特殊性に惹かれる人は世界規模で増えていっているようだ。

千葉雄喜はKohh時代にもKeith Ape「잊지 마 (It G Ma)(feat. JayAllDay, Loota, Okasian & Kohh) 」、DJ RYOW「Buchiagari(feat. Kohh & OG Maco)」などで海外のラッパーと共演しており、Mariah Careyのアルバムにも参加している。

日本のラッパーがアメリカのヒップホップ・プロデューサーのトラックでラップをすることは頻繁にあり、過去にはFuture Shockが企画した日米のラッパーとプロデューサーをコラボレーションさせた『Synchronicity』や渋谷の老舗クラブHRLEMのコンピレーション『HARLEM ver.』、 Next Level Recordings のコンピレーション『Next Level Vol. 1』など、興味深い作品は多くあるが、日本と海外のラッパー同士での共演というのは言語の壁もあり、実現させるのが難しかったように思える。だが、幾つか素晴らしい作品が残されており、それらは今に続く日本のヒップホップ・シーンの成長過程において重要な役割を果たしていたと思われる。

古くは、1993年にリリースされたDe La Soulのアルバム『Buhloone Mindstate』収録「Long Island Wildin」にて高木完とスチャダラパーが日本語でラップを披露しており、アメリカ西海岸で活躍しているアンダーグラウンド・ヒップホップ界の重鎮クルーLiving Legendsには日本人ラッパーArataが在籍しており、作品では関西弁混じりの日本語ラップをしていた。

DJ Yutakaのアルバム『United Nations II』ではCypress HillのB-Realとラッパ我リヤがフィーチャーされた「The International Rhyme Killers」というハードコアな曲もあり、LL Cool J『G.O.A.T.』の日本盤に収録されている「Queens Is」のリミックスにはDABO、コンピレーション『Def Jamaica』の日本盤にはWayne Wonder, Lexxus, CNN「Anything Goes」のリミックスでS-Wordが参加。
他にも、降神の志人とアメリカのラッパーBleubird、カナダのトラックメイカーScott Da RosによるTriuneGodsがリリースしたアルバム『Seven Days Six Nights』は日本語/英語のラップで構成された芸術性のある作品となっており、Sadat XをフィーチャーしたDusty Huskyの7"レコード『BLAKKis』も素晴らしかった。

英語のラップと日本語のラップが混じり合ったときに生まれるケミストリーには魅かれるものがあり、そこにはまだ汲み取れていない大きな可能性も残されているような気がする。今回は過去にレコードでリリースされた作品の中で個人的に特に気に入っているのものを紹介したい。

Mystik Journeymen – Revenge Of The Goldfish featuring Rino from Lamp Eye (1996)

Living LegendsのメンバーでもあるLuckyiamとSunspot JonzによるユニットMystik Journeymenの12"レコード『Escape Forever』に収録。1996年5月に祐天寺(目黒区)のスタジオで録音されているらしく、プロデューサーにはDJ Quietstormの名前もクレジットされている。

和製楽器の煌びやかな音色とRinoの語りから始まり、ドープなトラックのうえでLuckyiam、Rino、Sunspot Jonzのラップが交差する。三者の優れたフロウによって英語→日本語→英語のラップの流れが違和感なく自然と繋がっており、曲としての完成度がとても高い。ラップとトラックの質の高さとオリジナリティ、そしてリスペクトと情熱によって英語と日本語のラップが融合した名曲である。

E.G.G. Man - Text-地球の歩き方-How To Walk In This World featuring Hab I Scream、Kriminul、Mr. Voodoo (1997)

Soul ScreamのE.G.G. ManがMary Joyからリリースした12"レコード『Realistic Love』に収録。今作の前にリリースされた「Text: 日陰の歩き方 = Text: How To Walk In The Dark Side」の続編的な内容でプロデュースはSoul ScreamのDJ Celory。
フィーチャリングにはSoul ScreamのHab I Scream、Tommy BoyからシングルをリリースしDJ Premierの『New York Reality Check 101』にも曲が使われていたNatural ElementsのメンバーであるMr. Voodoo、日本でも高い評価と人気を得ていたJigmastasのKriminulが参加。

シンプルなトラックのうえでラップによる対話が行われており、4MCそれぞれの個性が活きている。当時のアンダーグラウンド・ヒップホップが持っていたコンシャスなフィーチャリングが漂っており、あの頃の空気感が音と共にレコードに残されているのを感じる。
Soul ScreamはJigmastas/DJ Spinna周辺との親交が深く、DJ CeloryはKriminulやApani B-fly Emceeをフィーチャーした曲も残している。

Muro – The Vinyl Athletes featuring Lord Finesse & A.G. (1999)

The Diggin' In The Crates(D.I.T.C.)の主要メンバーであるLord FinesseとA.G.をフィーチャーしたMuroのクラシック。タイトルにもあるようにヴァイナルへの想いとディガーとしての生き様が重く込められ、リリース形式にも拘りを見せていた意味深い1曲。3バージョン収録されているのだが、どのバージョンもラップとトラックの相性がバッチリである。ビートと同じく厚みがある言葉を駆使した気迫のあるMuroのラップは英語圏のリスナーにも響くものがあるはずだ。A.G.のリズカルなフロウとの対比によってMuroのオリジナリティがさらに光っている。

2000年に発表されたアルバム『Pan Rhythm: Flight No. 11154』にはPete Rockがプロデュースした「Patch Up The Pieces(feat Freddie Foxxx aka Bumpy Knuckles)」、Diamond Dのプロデュース「Lyrical Talents(feat O.C.)」も収録されており、こちらも素晴らしい仕上がりであった。

DJ Yas – Across The Globe featuring El Da Sensei & Rino Latina II (2000)

Lamp EyeのDJ Yasによる12"レコード『Across The Globe』に収録。ArtifactsのEl Da SenseiとRinoがフィーチャーされ、タイトでファンキーなトラックに彼等の高度なラップの組手が合わさった名曲。英語と日本語の掛け合いが素晴らしく、誰も妥協せずに一つの頂点に辿り着いたスキルフルな1曲。ラップとビート共に完璧な完成度を誇っている。
2019年にLamp Eye meets El Da Sensei名義にて今作の続編的なシングル『Next Stage』がリリースされている。

B面にはLiving LegendsのAsopとDJ Quietstormが参加した「Tokyo Dream」が収録。CD版には追加でNice & SmoothのSmooth B.をフィーチャーした「One Warning」という曲が収録されており、アブストラクト/トリップホップの要素も溶け込んだDJ YasのトラックにSmooth B.のボーカルがマッチした隠れた名曲となっている。

Five Deez - Sexual for Elizabeth feat Shing02 (2001)

オハイオを拠点に活動していたFat Jon、Pase Rock、Kyle David、SonicによるFive Deezが2001年に発表した名盤アルバム『Koolmotor』に収録。ハウスとテクノからの影響を公言しているFat Jonのオルタナティブなヒップホップ・スタイルを象徴する実験的な曲でもある。
前半はFive Deezのラップで構成され、後半からShingo02のラップパートとなりトラックも変化。海外のラッパーとのコラボレーションでは英語でラップをしていたShing02であるが、この曲では全編日本語でのラップを披露。Shing02の日本語でのラップがメロウで艶やかなトラックに見事に重なり合っている。Tortoiseのリミックスを収録した12"レコードもリリースされていた。

Fat JonとPase RockはNujabesのレーベルHyde Out Productionsに参加しており、Fat Jonはアニメ『サムライチャンプルー』のサウンドトラックを手掛け、Pase RockはL Universe(Verbal/m-flo)とのコラボレーション・シングルをリリースしている。

刀頭 - Sword Heads featuring Jeru The Damaja & Nipps (2002)

TOKONA-XとのILLMARIACHIでも知られるプロデューサー/DJの刀頭(HAZU)が2002年に発表したアルバム『TheNEWBORN』の先行シングルとしてリリースされた1枚。DJ Premierとのコンビネーションで幾つものクラシックを残しているJeru The DamajaとBuddha BrandのNippsを迎えた名曲。

ドラマティックでインパクトのあるサンプルと渋いブレイクビーツが合体した刀頭らしいトラックにJeru The DamajaとNippsのタイトなラップがバッチリとハマっている。JeruとNippsが同じ温度差で淡々とラップしている姿が自信に満ち溢れていてカッコイイ。
2021年に「野良犬 feat. ILL-BOSSTINO」をカップリングした7"レコード盤がリリースされている。

日本のヒップホップは今後さらにボーダレスに世界と繋がっていき、言葉の壁を越えて受け入れられていくと思う。その流れの中で上記のような過去の作品も再評価されたら嬉しい。



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